第13話

水槽カフェ受付に戻るとちょうど真樹人達の番号が表示されていたので係員に受付票を渡すと水槽目の前の席に案内された

「お時間は60分制になっております、飲食メニューはこちらのQRコードからお願いいたします、それではごゆっくりどうぞ」

係員はQRコード表とメニュー表を置き席を離れた

「しかし凄いな、本当に水槽目の前だ」

「凄いよね!アタシもここ座ったの初めてだよ」

2人は渡されたメニューを見る

「なんだよ?こよジンベイカレーって」

呆れるながら真樹人が指したのはジンベイザメを象った蒼いライス群青色に近いルー

「確かにこれは食べるてっ気にはねぇ…アタシはグァバジュースで」

「んじゃ俺は…パインフローズンかな」

真樹人がQRコードを取ろうとしたら芽衣が横から奪う

「ここぐらいアタシが払うよ」

「ありがとう、ご馳走になるね」

QRコードで注文を済ませると真樹人が席を立ちグラスに水を入れて持ってきた

「あ、ありがとう」

「そういえば芽衣はここに座るの初めてなの?」

「うん、待つから嫌がられるんだよ」

「ふーん…」

「なにその素っ気ない感じ」

「別に、そんな事ないよ」

場が悪いのか真樹人もグラスの水を飲む

「いやさ、これだけ綺麗な物が沢山あるんだから別に待ったっていいのになと。そんなに急がないといけない理由もないし、それに一緒にいる人が行きたいって言うならその待つ時間も一緒に楽しめないのかな」

「みんながみんな真樹人さんみたく考えられないよ」

芽衣が言い終わるとグァバジュースとパインフローズンが運ばれた

2人はストローを刺し口に運ぶ

「パインっていうけど甘いなぁ、もう少し酸味があるかと思ったよ」

「仕方ないよ、ちっちゃい子も飲めるようにするには甘さ多めじゃないと」

「あぁなるほどね」

「やっぱり真樹人さんて優しいよね」

芽衣がグァバジュースを飲みながらマジマジと真樹人の顔を見て言った

「俺が?」

「うん」

「俺性格悪いよ?」

「フフッ…自分で言うかな?そういう事」

「自覚が無いやつが多いんだよ」

「そういう所だよ」

「は?」

「人の言った事を否定しないところとか…人に根掘り葉掘り聞かない所、アタシは凄くそういうのいいなって思うよ。昨日の事なーんも聞かないしね、それともアタシに興味無いのかな、アハハ」

少し自虐的な事を芽衣が口にし慌てて飲み物を口に運ぶ

「人生色々あっていいんじゃない?それをいちいち他人が根掘り葉掘り聞くのが俺には分からないな。それに逆だよ、興味がなかったら時間を作らないさ、興味が湧かない相手の誘いなんて乗らない。芽衣の事は知りたいけど過ぎたことより今をもっと知りたいと思う」

「何それ?やめてよ、またぁ〜そうやって何人口説いてきたの?」

「口説いてなんかないよ、俺の知らない物を沢山知ってる君をもっと知りたいだけさ」

真っ直ぐ見つめられて思わず芽衣は吹き出し顔を赤く染める

「やめてよ真顔で〜でもそこは否定するんだね」

「口説いてるつもりないからな」

「それを世間一般では口説くってことですよ」

「ふーん…」

「真樹人さん変わってるって言われない?」

「あぁよく言われる」

「やっぱり」

真樹人はパインフローズンを口にしながら答えた

「俺から言わせれば周りの連中が変わってる、本音を隠してまで人に媚びを売る、嫌われるのを恐れ群れの中でも作り笑顔…どうかと思うね」

「みんな…一人ぼっちは嫌なんだよ」

「それがわからない、生まれるのも死ぬのも1人だろ?」

「真樹人さんはずっと1人だったの?…その…」

「親に見捨てられてからか?ガキの頃はそんな事気にする余裕すらなかったよ、生きてく為に、死なねぇように必死だった。ずっと1人だった俺に手を差し伸べ生きる術、処世術を教えてくれた恩人はいたが今はもう…俺という人間を受け入れてくれてる仲間はいるが…本心を出したことはないかもな、もう慣れたよ」

からのグァバジュースのストローを口にし飲んでるフリをしながら芽衣が続けた

「どうしてその仲間の人に本心を出さないの?」

「仲間の1人に初めて会った時決めたんだ、俺は弱音を吐かないと」

「真樹人さんは自分を人に見せないの?仲間っていうくらいの関係から…」

「彼女とはその時が初対面だったけど相当な目にあってきたてことくらいすぐに分かった、自分がここで彼女を突き放したら彼女は自分のアイデンティティーを失う…そんな気がしたんだ」

「その人がもしかしてビジネスパートナー?」

「あぁ、そうだよ」

「その人にも見せない本心、なんで私には話してくれるの?」

「どうしてかな…俺っていう人間をほとんど知らない人間の方が話やすい、色眼鏡や先入観がないからな。…違うな、芽衣だからだ。君の目を見ていると嘘をつく気になれない」

「アタシの事、信用してくれてるんだ」

「どうかな、そろそろ行こうか」

言い終わると真樹人が席から立ち上がる

「あ、ちょっと!待ってよー」

芽衣も慌てて席を立ち芽衣が追いかける形で真樹人の後につづき会計して2人は水槽カフェを出る前に真樹人が店員の所に戻り何やら小声で話をした


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「野郎2人で水族館、しかも水槽前でコーヒー…なんだか楽しくなってきましたよ」

「うるせぇ、黙って見張ってろ」

黒髪混じりの金髪男とバーガーショップで真樹人と話した恰幅のいい男が喋っていた

「沖縄くんだりまで…これってどこ筋の仕事なんです?坂…」

「その名前で呼ぶなよ、バカが!そんな事お前は知らなくていい」

「すんません!でも最近爺様達から通達ありませんでしたよね?だからなにかなーと」

話しかけられた男はスマホとにらめっこ

「聞いてます?」

「聞いてね……?!マジかよ?!」

「ビックリした!いきなりなんすか!」

「クソ!振り出しかよ!あークソクソ!」

「上原 蓮すか?」


バチン!


「痛!」

「その名前を口にしてんじゃねぇよ、まぁもう意味ねぇけどな」

前田がタバコを取り出すと

「前田さん、禁煙」

「ッチ!」

「何イラついてんすか」

「奴から連絡があった、例の女も26年前に死んでたわ…轢き逃げだと…翌日車が海から上がったが被疑者不明だとよ、クソがよ!」

「え?じゃあマジで振り出しじゃないっすか」

「…ここまできたらモノホンだ。ここまで徹底して消してるってことはな。しかしあのバカが張り付いてる女…何モンなんだよ」

「あ、前田さん!アイツら席立ちますよ」

「行くぞ!」

2人も席を立ち支払いをする為受付に行くと

「あの、お代は先程の方から頂いておりますが…」

意外な結果に前田はイラつきが止まらない

「あー!クソ!いちいち癇に障るな!」

それだけ言うと2人の後を追うように出ていったのだった

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