第14話

「どこまで歩かせるんだよ…暑い中…」

「少し休む?」

「馬鹿言わないでくれ、この日差しの中でボサっとしてたら干枯らびるよ」

水族館を後にした2人は車を停めた駐車場を過ぎても歩いていた

「もう少しだよ、これ飲む?」

「ありがとう」

芽衣から渡された地産のお茶をガブ飲みする

「だからバス乗ろうって言ったんだよ」

「せっかくだから歩いてみたかったけど…こんなに歩くとは聞いてないよ」

肩を切らせた真樹人の口調は少し呆れていた

「言わなかったっけ?」

「聞いてないよ」

「ごめんね」

「別に怒ってないから、ただ暑さに疲れたよ。結局どこに向かってるの?」

「あ、そこ!」

芽衣が指を指した方向には更衣室の看板や売店、反対側には白い木材で作られた日除けの先に白い砂浜、エメラルドグリーンの海だった

「綺麗だなー!」

「でしょ?でしょでしょ?!着替えて泳ごうよ!」

「え?泳ぐ?オレ水着持ってきてないよ?」

キョトンとした真樹人が答えると芽衣は目を丸くして

「言ったじゃん!泳ぐよって!」

「聞いてねぇよ」

「言いましたー!」

「いーや!聞いてないね!」

「絶対絶対言いました!」


ーこれは引かないなー


真樹人はそう感じ

「…聞き損じたかな…ごめん、俺水着無いから芽衣は泳いできなよ」

「なら売店で買ってあげる!一緒に泳ご!」

「いいよ、オレは」

「えー?なんで?」

「…まぁ…その…なんだ」

「中年太りしてるから見せたくないとか?」

ニヤニヤしながら真樹人の脇腹を芽衣がくすぐる

「バカ、違ぇよ、ちょ…やめ!くすぐってぇよ、分かった分かった、着るから選んでくれよ!」

「そうこなくっちゃ!行こ!」

芽衣が真樹人の左手を引っ張り売店へ

店の中はエアコンが効いていてとても涼しかった

品物は物産品や小物、浮き輪やサンオイル、サングラスに水着とThe行楽地のよう

真樹人は物珍しいのか店内を歩いていると芽衣が青地に白い花柄があしらわれたトランクスの水着を買ってきた

「真樹人さん、これ!」

「…ちょ!これ俺が着るのか?」

「うん、絶対似合うって」

「芽衣がそう言うなら…」

2人は店を後にし更衣室へ

「あ!真樹人さん、これタオルも!あとこれも」

芽衣がビーチタオルと小銭を真樹人に渡した

「?タオルは分かるけど…この金は?それに水着代も…」

「水着はいいの!プレゼント。小銭はロッカー用だよ。カードなんて使えないから、着替えたら出たところでね!」

それだけ言うと芽衣は小走りで女子更衣室へ


ーなんだか向こうのペースだなぁ…ー


真樹人も渋々更衣室へ向かった


親子連れ1組と数名の男性くらいで更衣室は空いていた、ロッカーを開けて帽子、服、パンツと軽く畳み中へ。大きめのビーチタオルを腰に巻き水着を着ると視線を感じた、がいつもの事だった

真樹人の体は傷が多い

大小の裂傷、火傷の痕、弾痕、左腕には何かの噛み跡もある…完璧に無傷なのは首くらいで太ももや膝下もいくつか大小の傷があった

ジロジロ見る男と目が合ったので

「何?俺の身体なんか変か?」

と真樹人が言うと相手は目を背けた

別に好奇の目に晒されるのは慣れている、しかし芽衣も一緒にされる思うと少し罪悪感を感じたがこのままここに居るわけにいかないので日差しの強い外へ

エメラルドビーチは管理ビーチだが近くのホテル客が使うプライベートビーチに近いのでそこまで人も多くない、むしろ真夏の沖縄で地元の人間は泳がない。なぜならこの刺すような日差しのせいだ。

売店前にある日除け下のベンチに腰をおろす前に喉が乾いたので売店入口隣にある軽食販売コーナーへ行きコーラとサイダーを買う

飲料メーカーのロゴが入った紙コップにストローがささっている、なぜだか少し胸が踊った

当たり前の生活みたいな真似をしている自分が満足なのか、真樹人は心のどこかでこの時間が続く事を望んでいた


「お待たせ〜!」


チューブトップのペイズリー柄でハイウエストの水着に身を包んた芽衣がやってきた

服の上からだと分からなかったが芽衣は少し肩幅が広く胸もふくよか、身体のラインがとても綺麗で腕や足も細いが体が締まっているのでなかなか日本人の体型だと難しいデザインのハイウエストでも足の長さが強調されとても似合っている、そのためか近くにいた男性は芽衣に釘付けだったがただ1つ

芽衣の右脇腹に大きな傷跡があった

「…似合ってないかな?」

「いや、似合ってるよ、凄く」

「ホントに?!」

「あぁ、馬子にも衣装って昔の人はよく言ったもんだ」

「どういう意味〜?もぅ!」

「ハハ、冗談だよ」

真樹人はタオルを羽織っているが傷跡は丸見え、芽衣に何か言われかと心構えしていたが

「行こ!」

気にもとめずに芽衣が真樹人の左手を握りビーチへ

荷物を砂浜に雑に置きスタスタと芽衣は海へ入って行った

「おい、準備運動…」

「ジジくさいなぁ!もぅ!真樹人さんもほら、早く!冷たーい」

義眼を隠す為のサングラスを外し前髪を左目に少し覆うように下ろし海に入る

白い砂浜、エメラルドグリーンの海の遠くを見ると沖には船が数隻

「冷てぇー!でも綺麗だなぁ」

「ねね?あの浮台まで泳ごうよ!よーいドン!」

芽衣が先に海に潜り泳ぎだした

「あ!汚ぇ!」

真樹人も負けずに泳いで芽衣を追う

泳ぎには自信はあったが本気を出すのも大人気ないと思い少し手を抜いていたが思いのほか芽衣の泳ぎが速く驚いた

ブイ手前の浮台に芽衣が先に着いており真樹人が手を伸ばすとニヤニヤしながら

「アタシの勝ちだね〜」

「ハァ…ハァ…泳ぐの速いな」

真樹人も浮台に身体を載せると二人して横になると芽衣が大きな声で喋りだした

「はぁーーーー!やっぱり気持ちいぃぃぃ!」

「そんな大きな声で言うことか?」

「別にいいじゃん、ここ来るの久しぶりだしそれに泳ぐの自体久しぶりなんだ」

「へぇ〜、那覇市内からちょっと距離あるからか?」

「違うよ、1人で来る場所でもないからね」

「友達とかまぁ彼氏とか来れば…」

「アタシ友達いないんだ、もちろん彼氏もね、アタシ男見る目ないからさぁ。すーぐ騙されるんだよ」

「意外だな、友達多そうだよ」

何やら少し暗い感じで芽衣が答えた

「……そんな事ない」

「どうした?急にしおらしくなって」

「ん?……まぁ……実はアタシも真樹人さんと一緒なんだ」

「何が?性格悪い所?」

「やめてよ、…アタシも親の顔…知らないんだ」

身体を起こし水平線を見ながら芽衣は語りだした

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