第11話

真樹人が足速に店内戻ると芽衣はスマホをいじっていた

「ごめんごめん、立て込んじゃってさ」

「遅いから本当に怒ったのかと思ったよ」

「ばーか、そこまで大人気なく見えるか?」

「見え……る?」

「プッ!なんで溜めて疑問形なんだよ」

「素直に言ったら悪いかなーと」

「ったく…残ったバーガー食っちゃうよ、行こうぜ、海洋博公園」

そういい真樹人はバーガーを口に頬張り平らげると2人は席を立ち車に戻ると真樹人が

「乗るのちょい待ち」

と止め運転席でエンジンを掛けて助手席側の窓を全開にし運転席のドアを数回開け閉めした

「何してるの?」

「南国育ちでも知らない?こうすると車にこもった熱を逃がせるから乗った時のうだる暑さを少し和らげられるんだ」

そういい助手席窓を閉めた後、ドアを開けて芽衣に座るように促す

「あ!ホントだ。暑いけどエアコンの風がちゃんと効いてるよ」

「だろ?少しは快適になれた?お嬢様」

「うん、真樹人さんありがとうね」

「いえいえ、シートベルトお願いしますよ、お嬢様?」

「やめてよ〜それ」

「ハハ、お返しだよ、俺が妬くわけねぇってのに」

エンジンを掛けて出発、左折して海洋博公園への看板指示通りに車を進めると数m先の道路が濡れていた

「またスコールか」

「この時期多いんだよ」

激しい雨が車を打ち付ける

雨の量が凄くて視界が悪くなる程だ

真樹人はワイパーの間欠スピードを上げ少し車間を開け車は水しぶきを上げながら進んでいく

「なんかスコールっていいな」

「ん?」

「あんまり東京ではないんだよ」

「あーそうなんですね、でもいいものです?」

「なんかさ、自分の気持ちを全部流しくたる時ってない?」

「沢山あるよ、でもさ?流しても忘れられる物でもないし無かったことにもできないよ。ならそれも苦い思い出として取っといていつか笑えるようになれたらいいなって思ってる」

「…フッ…ハハハッ!」

「なんで笑うのー?!」

「いや、芽衣って逞しいなってさ」

「?意味わかんないよ」

「俺はさ、それが出来なかった。苦い事、辛い事からひたすら目を背け逃げ続けた。その事に気がついた時もう俺はいい歳だったからさ、情けなくなったというか…」

真樹人が言葉を続けようとすると芽衣が口を挟んだ

「真樹人さんに何があったから私には分からないけど…逃げるって悪いこと?それしかできない事あるよ。偉そうにしちゃったけど私だって逃げたよ?自分の不甲斐なさを理解しないで他人に依存したりもした。そんで変な男に引っかかってちゃ世話ないよね、アハハ!」

芽衣の言葉が終わると車内はステレオから流れる音楽だけになる

「芽衣は凄いよ、自分の失敗や欠点を人に言えるってなかなかできない。それとありがとうね」

「えぇ?なんでお礼?」

「否定しないでいてくれたからさ」

「そんなんもん当たりだよ」

「その当たり前ができない奴を俺は何人も見て…」

「あ!ほら!スコール抜けたよ!雨の後の晴れ間って凄い綺麗に見えるよね!これは私も好きだよ。嫌なことがあったらその先は何かある…なんてね!もうすぐ着くよ!あそこの看板!」

芽衣の気遣いなのだろう、真樹人が考え込まないように気を紛らわしてくれたのだ

その好意を受け入れ真樹人も気持ちを入れ替える

「やっとか、意外と遠かったなぁ」

「市内から100kmぐらいあるからね、ごめんね。ずっと運転してもらって」

「いやいや、走った事ない道だから運転してて景色も良かったから新鮮だったよ」

看板をくぐり駐車場に車を向けると芽衣が

「あ、もう少し先に停めて欲しい、坂を下った立体駐車場でお願い」

「りょーかい」

芽衣の指示通り車を進めると立体駐車場入口が見えたので表ではなく2階程下に降りて日差しを避けるように車を停めた

「俺たち以外誰も停めてないよ?」

真樹人が不思議そうに言うと

「後でわかるよ、行こ」

2人は車を降りエレベーターに乗り1階へ

駐車場建物を出ると刺さるような日差し

真樹人はサングラスをしていたが思わず手で光を遮った

「オーバーだよ」

「違う違う、すごいって、日差しが」

駐車場建物から左へ芽衣が先頭に歩き緩やかな坂を歩く

芽衣が何か喋っていたが真樹人は暑さにやられて空返事

「ほら、着いたよ」

真樹人は呆気に取られた

着いたと言った場所はエスカレーターの間挟まれた所で右手は「順路」と書かれているので意味が分からない

「これ、どこから入るの?」

「こっちだよ〜」

芽衣が強引に真樹人の手を引っ張り左のエスカレーターを徒歩で登ると総合入口が見えたので中に入る

前売りチケットを真樹人がポケットから出して芽衣に渡し改札を入ると中は少し薄暗かったが右手にはサンゴ、小魚、ヒトデが入った水槽で子供達がそこに手を入れていた

「水族館か…俺初めてかも」

「うそーーーー!マジ?!」

「ホントホント」

真樹人は物珍しいのか子供で賑わう水槽に行こうとしたが子供が多すぎて諦め左順路に行く

すると少し大きな水槽に色とりどり鮮やかな魚が展示してある水槽に目をやった

「魚って綺麗だな」

「子供の頃とか行かなかったの?」

「…うん…まぁ、俺親居なかったからさ」

「え…?」

「俺は捨てられてねーまぁ色々あったんだ。だからこういう所に来た事がない…ホントに魚って綺麗だ」

真樹人はサングラスを外し水槽を食い入るように見ていた

「真樹人さんならモテそうだしデー……?!」

芽衣が真樹人の顔、左目を見ると声には出さないが驚いた

真樹人の左目が義眼だった

それを隠す為にいつもサングラスをかけている

「…あぁ気持ち悪いもん見せてごめんね」

そういい慌ててサングラスを付け直そうとするが手を芽衣が止めた

「気持ち悪い事なんてないよ、少し驚いたけどね。真樹人さんの右目…凄く綺麗」

芽衣が顔を寄せたが体を真樹人が離した

「よせよ」

「ううん、綺麗。それにサングラス無い方が水族館はいいよ、暗いし危ないから」

芽衣が手を引き様々水槽を案内してくれた

セミエビやウチワエビの水槽、深海魚、大きなナポレオンフィッシュも展示してあった

真樹人はその水槽1つ1つを食い入るように見ては芽衣に

「すごいなー!」

「初めて見た!」

「ほら!芽衣も見なよ」

と子供のようにはしゃいでいる

芽衣も嫌がるどころか真樹人のリアクションにちゃんと応えていた

途中の水槽はちょうど魚が端に隠れており水槽を照らす光がちょうど海底に差し込む陽光に見えてそれにも関心していた

「楽しいなぁ!ありがとう!芽衣!ここに連れてきてくれて」

「まだ驚くの早いって!次のエリアは本当に凄いよ」

サンゴの展示は真樹人には響かないのか足早に抜けと芽衣に止められた

「ストップ!」

「?」

「何を見ても走ったりしない、約束」

「子供じゃないんだ、そんな事しないよ」

「目を瞑って」

「なんで?」

「いいから」

真樹人も呆れ口調で返し目を瞑ると芽衣が手を引き先頭を真樹人が続いてエリアに入る

「真樹人さん、目を開けていいよ」

そこには真樹人が想像していた以上の景色があった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る