第7話
真樹人がソファーで目を覚ますとまだ外は暗かった
沖縄の朝は少し遅い
時計の短針は4の文字
7月の東京はこの時間になると少し明るくなるが沖縄はまだ薄暗い、その代わり19時を過ぎてもまだ夕方のように明るいのだ
特に体の不調もなく喉の乾きで目が覚めたので冷蔵庫の扉を開けると地産のお茶はもう無く、ミネラルウォーターしかなかったので封を切り喉へ流し込んでベッドに横になる
以前は目を瞑る度に無限の「闇」を真樹人は望んでいた
しかし今はその無限の「闇」が自分のすぐ近くにあると自覚する
そこに怖さはない
かと言って安堵も無い
今あるのは「無」に対する興味なのだ
「無」は存在する
しかしそこに「無」があるという事は「無」は「有」るのだと考えるようになった
バカバカしいが有るけど無い世界とは?無いけど有る世界とは?その答えを真樹人は知りたいのだ。その答えを理解できるなら真樹人にとって「死」という行為は悪くないとも感じる
遅かれ早かれ人は死ぬ、何をしても死ぬ時は死ぬ。咎人の自分に今更抗う事は…
むしろ
「生きなさい」
「希望をもって」
「生命を粗末にするな」
「生きたいけど生きられない人もいる」
と押し付ける人間には嫌悪感しか抱かない
子供の頃から孤独だった
真樹人が物心着いた時、そこはまさしく第三世界、生きてて良かったなんて思える人生を真樹人は歩めなかった、否、選べなかったのだ
幼い時は毎日今日死ぬかもしれないという恐怖に苛まれ、成長したら世界のどこにも自分の居場所がなくひたすら孤独と向き合い続けた。
世を捨てた自分に新しい生き方と人との関わり合い方を教えてくれた恩人が居場所をくれた、しかしその恩人はもういない。
その時からまた自分は孤独になった。
自分という「魂の入れ物」しか見てない人間に何が分かる
「アナタにしかできないことがある」
俺の何がわかるんだ?
他人にはできて自分はできないなんて事はほぼほぼない、やろうとしないだけだ。ただ人任せに、他人に責任を負わせ自分は常に楽に「正しいことを言っている」という余韻に浸りながら自慰的な言葉を吐く
平和で安全、当たり前に電気があり当たり前に水が飲め、トイレもある、電車やバスは当たり前のように正確に動き、食事に困る事はない文明的な日本しか知らない。銃弾や爆弾が降ってくる心配もない、地雷原を大人の代わりに歩かされる恐怖もない、朝が来ると大人から爆弾を渡されることに怯えることも無い平和が当たり前と思ってる、それが対岸で自分には関係ないとタカをくくってる人間が真樹人は本当に嫌いなのだ。日本でも内乱があったのは知っている。東西統一戦争や九州内乱時は自分は海外にいて戦火を見た訳ではないが当時の史料を盗み見するに統一戦争の戦地大阪、九州の戦地熊本は反政府側の人間が事前に民間人を疎開させ建物を極力破壊せずテロリストのような戦い方をしなかった、政府側も民間人には戒厳令や報道規制も徹底、局地的に数をフル動員し短期的に戦争を終結させたので調印後の統合政府樹立宣言後の東京都民はまだしも他の関東人や戦地から程遠い三陸や東北、北海道の住民は「戦争」をしていたという実感すらわかせなかったのだと真樹人は推察した。中東の紛争や宗教戦争のような戦闘ではないから人々は悲惨さを知らない、それは政府がある種とても優秀に事後処理をしたという事だ。言い方を変えたら隠蔽したとも言える。しかし知ろうとする事はできたのに目をつぶってきたのであれば黙れとまでは思わない、思考をしないとできないは違う。できないなりに考え、想像する。その先に答えがない事は山程ある、知りもしないで初めから思考せず自分の当たり前を人に押し付ける行為は真樹人にとって自身のアイデンティティを打ち砕かれるのだ。
だから安っぽい感情論の人道を説く人間を真樹人は見下す。真樹人に説得をできる人間は彼の死生観や倫理観を理解出来る人間でないと無理なのだ
ここが真樹人自身「孤独」を感じる最大の理由
今の自分に1番大切で誇れるビジネスパートナーは居る、出会った時に決めたのだ「演じきる」と。
もう本当の自分なんて物を思い出したりする事も諦めた、そうすると思考しない自分に苛立ち腹も立つ、嫌悪する存在するが自分の中にもあると思うと自覚するのは自分の価値はゴミクズ以下だと…心の僅かに虚しさと寂しさを感じる前に真樹人は眠りの世界へ
「ピピピピピ!」
スマホのアラームが鳴り目を覚ますと時間は7時だった
「…支度しなきゃな…」
そう呟き朝のルーティンのマウスウオッシュで口をゆすぎシャワー室へ
体を拭き下着を穿いて髪の毛を乾かしスーツケースからブランドロゴのプリントTシャツを出してハーフパンツと合わせる
「…うーん…まぁこれがベストかな」
時計を見ると8時手前だったので用意した服を着てボディバックに薬を詰めお気に入りのランゲ&ゾーネの時計を腕に、香水を自身に撒き麦わら帽子を被りお気に入りのミラーレンズサングラスを掛けた後に、半袖のシャツやポロシャツ、下着類を袋に詰めスポーツサンダルを履き部屋を後にした
フロントに向かうと係が気持ちよく迎えてくれた
「戸平様おはようございます」
「おはよう、これクリーニングお願いね、適当に部屋に置いといて」
真樹人は服の入った袋とカードキーをフロント係に渡すと
「戸平様、お客様がロビーのカフェでお待ちのようです」
「え?本当に?いつ?」
「先程でしたよ」
「わかった、ありがとう」
足早にカフェに向かうと真樹人を見つけた芽衣がいた
芽衣は昨日とは打って変わって7分丈の青地に白の大きな花柄のワイドパンツに肩出しスタイルのTシャツ、足首にはアクセ、髪をアップにまとめ大きなサングラスをかけていた
「真樹人さん!おはよう!」
「早かったね、待たせてごめん」
「ううん、アタシが早く会いたくて来ちゃったんだ、あ!タクシーありがとうございます、お金払おうしたら受け取れないって…外で待ってるけど…」
「いいよ、俺が払うから」
2人はカフェを後にし1回玄関へ
すると昨日のタクシーと運転手が待っていた
「この人をここまでありがとう」
と言いカードで支払うと
「何から何までごめんなさい」
芽衣が謝る
「別に気にしないでよ、それにそこはありがとうの方が嬉しいな」
「…ありがとうございます、真樹人さん?朝ごはん食べました?」
「ん?まだだよ」
「じゃあちょっと国際通りの方に行こうよ、沖縄でしかないお店の物、食べよ」
「早速初めてがお目にかかれるね、楽しみだよ」
その一言に芽衣は喜んだのか声が少し上がった
「良かった!実はアタシお腹すいててさ。ここからだとモノレール…」
「いいよ、俺の車で行こう、ナビお願いできる?」
「もちろん!」
そういい2人はホテル駐車場に向かうのだった
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