第5話

「なんだよ〜芽衣じゃん」

店を出たところで3人の色黒で髪は派手な色、流行りのファッションに身を包んだ男の集団に芽衣が捕まっていた

「アンタなんかぁ知らない!話かけないで!」

足元が覚束無い芽衣が反抗するとリーダー格と思われる男が芽衣の腕を掴んだ

「酔っても気の強いところお前変わってねぇな、そのくせこうやって…」

男が芽衣の脇腹に手を回そうすると


ガン!


「イッ!て!何しやがる!」

「触るな!」

只事じゃないと察した真樹人が間に入った

「ごめんなさい、俺の連れが何かしました?」

「んだよ、もう男作ったのかぁ?お前も好きだなぁ〜」

脇腹を抑えながら男は真樹人をつま先からアタマまで値踏みするように見つめた

すると取巻きの1人が

「首藤さん?この女なんです?」

「あぁこの前まで付き合ってた女だよ、見た感じいい女なんだけどな?まぁ…」

首藤と呼ばれた男が芽衣をニヤニヤしながら見て続けた

「…身体付きもいいんだけどよ〜いちいちうるせぇんだわ、いちいち好きだよとか愛してるとか…そのくせちゃんとしろとかよ〜こっちは暇つぶし…」

男が喋り終わる前に芽衣が平手を打とうとした瞬間、真樹人がその手を掴む。心無しか真樹人も力が入る

「芽衣?飲み過ぎだよ、今日は帰ろう、ね?」

真樹人の反応に驚いたのか捕まえた手が痛かったのか芽衣も声を荒らげ

「真樹人、相手にしちゃダメ!」

「なんだよ?逃げんのか?相手するだぁ?散々俺に抱かれた癖に偉そうに、お前の脇腹の傷…散々なぞってやったろう?」

人を舐めた態度で口元ヘラヘラさせながら真樹人を見たあと芽衣の体を下賎な目で見ると男が顔で合図をし取巻きが真樹人の行く手を塞いだ

「首藤さんは九州内乱で義勇兵だったんだぜ?その首藤さんにケンカ売ってそのままって事は無いだろうよ?なぁ?兄さん」

「俺はケンカを売ったつもりはないよ、気に触ったなら謝る、申し訳…」


バチンッ!


首藤の右拳が真樹人の左頬を捉えそのまま左手で真樹人の胸ぐらを掴んだ


「お前の女なんだろ?その女俺の脇腹を殴ったんだ、そのまま、「はいそうですか」で済むわけないだ…」

真樹人と目が合った瞬間、悪寒が全身を襲う。首藤がだじろぐとすぐさま顔を近づけ耳元で真樹人が囁いた

「今のはわざと殴らせてやったんだ…義勇兵風情がいい気になるなよ?これ以上やるなら…」

首藤が真樹人の手を離す

真樹人は服装の乱れを直し芽衣の手を握りながら

「君と芽衣がどんな関係か知らない、でも今は俺の連れだ、こういう公衆の面前で侮辱するのは金輪際辞めて欲しいね」

そう言うと取巻きが噛み付く

「てめぇ!タダで…」

「金の話?悪いね、俺は現金持って…」

真樹人が取巻きに食ってかかると

「行かせろ!構うな!俺達も行くぞ」

首藤は肋辺りを抑えながら背を向け真樹人とは反対の方向へ

「首藤さん!待って!どうしたん…」

取巻き2人も後に続き立ち去った

「首藤さん!どうして?!」

「…あの男…俺の肋の隙間に指を入れてきやがった…人体の壊し方を知ってる奴だ」

「そんなもん!首藤さんにだって…」

「バカが!アイツは壊し方だけじゃない、殺し方を知ってる…あんな目付きの男…そんなのとはかかわり合いたくない…行くぞ」

そう言い3人組は国際通りの人混みに消えた


「ごめんなさい…戸平さん」

酔いが覚めたのか芽衣は俯きながら真樹人に謝る

「別に、芽衣が悪いことなんてないよ。無事で良かった」

「あ…戸平さん!顔」

芽衣が真樹人の口元を見ると殴られた所近くの唇から少し血が出ていた

「ん?こんなもん平気だよ、大丈夫」

少し笑いながら真樹人は答えた

「…本当にごめんなさい…まさかあんな所で…」

「気にしてないって、ほら?今日はもう帰ろう、良ければ家まで送るよ、タクシー!」

真樹人が通りでタクシーを止めるとドアか開いた

「さ、乗って」

「1人で帰ります」

「心配だから、それに今日誘ったのは俺だし。家バレしたくないなら近くでいいから」

芽衣が俯きながら後部座席にのり真樹人も乗り込むとタクシーが発進

芽衣が行先を告げるとその後はお互い無言だったが芽衣が口を開く

「怒ってますよね」

「まぁ…怒ってないって言うのは嘘になるな」

「…すみません」

「何が?」

「だから…その…」

真樹人の口調が少し冷たく感じたのか芽衣は口篭ると真樹人がため息をつく

「はぁ〜違うよ、俺が怒ってるのはあの男の事じゃない」

「なら何です?」

「あんな平手打ちじゃダメだ、中途半端な抵抗は相手を苛立たせて余計危険になる。その勇気がないなら大声を出すんだ、いいね?」

「…はい…分かりました」

「それと…俺ってそんなに頼りなく見られてたんだなぁと」

少しニヤケながら小さく呟いた

「?!…違…」

「だったらなんで1人で立ち向かったん?」

「アレは…その…」

「男だの女だの子供や年寄り関係ない、俺のツレって以上、もう少しアテにはして欲しかったな」

「ごめんなさい…」

「別に怒ってないよ」

芽衣俯き、真樹人は車窓からの風景を眺めまたの沈黙

するといつの間にか住宅地へ

「…あ、そこのマンションで停めてください」

芽衣が財布を出すとそれを真樹人が止める

「いいから、早く帰ってシャワーでも浴びるんだ」

「…もう嫌だよね…こんな女と会…」

「明日はどこに連れてってくれるのかな?その前に君が起きられるか心配だよ、俺は」

「明日も会ってくれる?」

「誘ったのは君じゃないか」

その一言で少し芽衣が笑顔になった

「意地でも行くよ!アサノホテルに9時でいい?」

「あぁ、2階の喫茶スペースで待ってるよ、何時に家を出るの?」

「8時半には出るよ」

「そっか…じゃあ運転手さん、8時半にここに迎えに来てあげて」

「え?!悪いよ!」

「いいからいいから、朝から暑そうだからね。歩いてモノレールだと汗かくだろ?そしたらメイクが落ちて誰かわからなかったら大変だ」

「そんなに変わりませんから!真樹人さんありがとう、わかりました、じゃあ遠慮なく…あの…!!」

「ん?」

「…ううん…おやすみなさい」

「あぁおやすみ」

そう言うと真樹人が車から降りて芽衣も降りる、そしてまた真樹人が乗り込み車が発進すると芽衣はタクシーに向かってずっと手を振っていたのだった…その様子はとても名残惜しそうに見えた





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