第4話

県庁前の広場で真樹人は山城芽衣に強引に腕を引っ張られ点滅している信号を渡るとそこは有名なメイン通り

「国際通り」

土産物店や飲食店が立ち並ぶ活気が溢れている通りだ

真樹人は少し気まづかったのか辺りを見上げながらなるべく山城芽衣を見ないようにしていると

「ごめんね、戸平さん」

山城芽衣が戸平の方を見ずに話しかけた

「何が?」

別に意識している訳ではないが少々真樹人も素っ気なく答える

「…見たくないよね…ああいうの」

「ん?あぁ…あんなもんどこでもやってるよ」

「嘘」

「嘘なもんか、東京でだって主義主張は違えどやれ貧困だ移民だ難民だ女性なんちゃらだって暇な連中が毎日どこかしらにいる。それに君が謝る事はないよ」

「……」

「まぁ気にしてないからさ、楽しい話をしようよ」

「…うん……」

「ほらほら!切り替えて!そろそろ俺お腹空いたなぁ、山城さんの好きな物でいいからお店選んでくれると助かるんだけどなぁ」

「…あ、あの…苦手な…」

小声で山城芽衣が答えると

「切り替えようって、ね?それにこの状態で山城さんが不機嫌だと俺が怒らせてるように見えるからちょっと恥ずかしいよ」

今は山城が真樹人の腕を掴み引っ張っている状態なのでたしかにそう見えなくない、落ち着いたのか山城芽衣は少し笑顔になった

「…プッ!なんですか?それ?それじゃまるで私達が恋人みたく見えるってこと?」

「そう見えないかな?俺は全然構わないんだけどね」

「さすが東京育ちの戸平さん、そうやって何人女の人を口説いてきたんですか?」

「心外だなぁ、俺は泣かされてきた方だよ」

「はいはい、そういう事に…あ!ここです」

山城芽衣が向いた方向には黄色い暖簾で

「やんばる食堂」

と書かれていた

そのまま山城芽衣が引き戸を開け真樹人も続くと気がついた店員が

「いらっし…あ!芽衣ちゃんお疲れ様!今日はお2人?」

「はい、今日おひとり様じゃないんです」

「そっかそっか、んじゃテーブル使って、飲み物はいつものでいい?」

「うん!あ、連れのこの方にも!」

「あいよー、お通しも持ってくから」

店員が言い終わるとカウンター内へ

「戸平さん、奥座って」

上座に促されたが真樹人は首を振って断り

「いやいや、言い出したのは俺だからさ、山城さんが奥に座ってよ」

「え?でも」

「いいから、それに俺は椅子の方が好きなんだ」

真樹人は左手を差し出し上座に促すと山城芽衣も断る理由もないので奥席へ

「わかりました、戸平さんも座って」

2人が席に着くとうっすら氷が張っているジョッキに注がれたビールが2つ運ばれた

「あいよ!お通し何にする?」

店の主人がビールを卓に配膳すると山城芽衣に訪ねた

「アタシは…もずくで!戸平さんも平気?」

「あぁ、平気だよ」

「じゃあ2つ!そのまま注文いい?」

「はいよ」

「えっと…島らっきょ1つ、海ぶどうサラダ1つ、テビチと…グルクンある?」

「あるよ!食べた方どうする?」

「お刺身と唐揚げでお願いしまーす」

「あいよー!これ、おしぼりね」

店主と思われる男が冷えたおしぼりを投げて渡し注文表を記入し厨房へ

「冷たいおしぼり気持ちぃぃ、あ、顔とか拭いてもアタシ気にしないよ」

「そんなみっともないこ…」

真樹人が言い返すタイミングで山城芽衣がおでこと首をおしぼりで拭いた

「アタシもやってるんだから、ほら?」

「…君ってやつは…んじゃ遠慮なく」

戸平も顔を拭く

おしぼりは半分凍っていたのかキンキンに冷えていたので気持ちがいい

顔を一通り拭くと山城芽衣がジョッキを持って待っていた

「あ、ごめんごめん」


チン!


真樹人もジョッキを持ち乾杯


ジョッキもビールもキンキンに冷えていて身体に染みる感覚に陥ると声を出さずにいられない


「くぅーーー!」

「ぷはぁーー!」


2人の声が重なるとお互い照れ笑い

お通しのもずくが運ばれ器を覗くと

「なんか立派なもずくだね」

「こっちのは太いんだよ」

真樹人は割り箸を割り、もずくを口に運ぶと

酸味と少しほのかに柑橘の香り共にもずくが喉を通る

「こんなに美味しいもんなんだね」

「でしょ?いいよ、アタシのも食べて」

「悪いよ、頼めばいいんだから。山城さんも食べてよ」

「いいから、アタシは何時でも食べられるし」

そう言われた断る理由もないので真樹人が受け取ると

「その呼び方やめません?私の事は芽衣でいいよ」

「なんか慣れないな」

「フフっ、明日も一緒に遊ぶんだから慣れていこうよ。お酒飲む時にかしこまってたら美味しく飲めないですよ?戸平さん」

「なら俺の事も真樹人でいいよ、そしたらwin-winだ、ていうかさ?俺これでも病人だぜ?酒を勧めるのどうなの?」

真樹人が笑いながら山城芽衣に言うと何かを思い出したかのような顔をした

「あ、ごめんなさい!基本いつもひとり飲みだから…無神経でごめ…」

「冗談だよ、少しからかっただけ。飲みすぎ無ければ飲酒はOK貰ってるし」

島らっきょと海ぶどうサラダが運ばれてきたので芽衣が取り分けながら苦笑い

「ファーストネーム呼び捨てはハードル高いよ」

「なんだよ、自分だってそうじゃないか」

「アタシはいいんだ、どう呼ばれようが、でも戸平さんは…」

「ん?」

「東京に彼女さんとかいるんでしょ?あ、さっきの写真の…」

そういい取り分けた皿を真樹人に渡す

「俺は独身だよ、彼女なんて作ろうと思った事ない、さっきのは部下と言うか同僚というか…ビジネスパートナーだよ。海ぶどうって綺麗だね、頂きます」

真樹人は取り皿を受け取りつまみ出した

「えーー!真樹人さんめちゃくちゃ女の扱いとか慣れてそうだけど意外!」

「俺はわがままなの、他人に迷惑かけちゃうからパーソナルエリアに必要以上に人を入れない主義なんだ」

ジョッキーが空いたので飲み物を選ぼうとすると芽衣が注文した

「シークァーサーサワー2つおねがーい!」

「なんだよ、勝手に頼むなよ」

「飲んだことないですよね?だから飲んで欲しいなーと」

そういい芽衣もジョッキを飲み干し空に

「…この島らっきょって匂い凄いね、美味いけど。山…芽衣は平気なの?この匂い」

「アタシは好きだよ、食べ物の好き嫌いは無いんだ。真樹人さんは苦手?」

そう言いながら芽衣は島らっきょをパリパリ食べていた

「いや、俺も好き嫌いは無いんだ、この食感癖になるね」

シークァーサーサワーとテビチが卓に運ばれ芽衣が真樹人にグラスを飲むジェスチャーをする

「ん?あぁ、初めてだな」

そう言い真樹人はテビチを口に運びシークァーサーサワーを飲む。柑橘系の酸味と皮の苦味が程よく混ざっていて爽快感が喉をかける

「おぉ、これ美味い、濃いめの味の後には合うね」

「でしょー?」

芽衣は一気に飲み干しお代わりを

「おいおい平気か?」

「へーきへーき、戸平さんこそ…」

「また「さん」付けだよ?言ったろ?自分の体は自分が…」

「あ!!ごめんなさい」

「気にしないでいいよ、芽衣は優しいな、気遣ってくれて」

「当たり前のことです、普通…」

「俺は沢山の人を見てきた、芽衣は優しいよ。それになんだかんだ俺に時間をこうやって作ってくれてるしね、否定されると俺の目がおかしいって事になるからと悲しいな」

「沢山ってどれくらい?」

ジョッキのサワーを飲み真樹人がキョトンとしながら呆れた口調で真樹人が答える

「うーん…芽衣が今まで飲んだ酒の量くらいかな」

「ひどーい!そんなに飲んでませんよーだ、でも真樹人さんって不思議な人だね」

そう言う芽衣はもう6杯目を頼んでオカワリと一緒のタイミングでグルクンの刺身と唐揚げが卓に運ばれた

「すみません、俺、ハイボールで。芽衣?一気に飲みすぎだぞ?」

「だぁいじょうぶですよぅ、あひたから休みだし」

「呂律が回ってないよ」

真樹人は店主と思われる男にアイコンタクトでチェイサーを頼む

「これがグルクン?綺麗な身だね」

「こぅれぇ〜本土でぇはなかなか見られないですよ〜、こうやって…」

酔っている芽衣は箸で薬味のネギ、もみじおろしを刺身で綺麗に巻きポン酢をつけて食べた

「おぉいひぃぃい!真樹ぃ人も食べなよ〜」

「どれどれ」

真樹人も芽衣の見よう見まねでグルクンの刺身を口に運ぶ

「モグ…モグ…河豚に似てるね、河豚ほど肉質が硬くないから俺こっちの方が好きだな」

「気に入ってくれたぁ?唐揚げもホラホラ!」

酔っている芽衣が小さい柑橘の実を絞り真樹人に取り分ける

真樹人は運ばれたハイボールを飲み唐揚げを食べるとこれまた美味だった

「うん!唐揚げ美味いね!」

「良かったぁ〜不味いっえいわへるか心配だったんだぁ…ヒック」

「飲みすぎだって、これ食べたら帰ろう」

芽衣は頬を膨らませてしかめっ面

「いやだぁ!…ヒック…もう少し飲むぅ!真樹人とお喋りするぅ!…ヒック」

「明日も遊ぶんだろ?明日話せばいいじゃないか、こんなんだと明日酒が抜けなくて予定潰れるぞ?」

「でも〜!」

「でもじゃない、すみませーんお会計!」

真樹人が手を挙げて店主らしき男を呼び会計すると

「ごめんね、この子いつもはこんなにならないんだけど…珍しく悪酔いしてて…」

店主が真樹人に謝ると

「貴方が謝る事じゃないですよ、料理美味しかったです。こっちに来た時また寄らせてもらいますね」

そう言い真樹人がカードで支払い芽衣を抱える

「ほら芽衣、帰るよ」

「…うん…明日ぁ…どうしぃまぁすぅ?…ヒック」

「アサノホテルにいるからさ、2階には喫茶スペースも…おい!勝手にどっか…」

「やだぁ!楽しいからもっと飲むぅ!」

真樹人に抱きかかえられていた芽衣が腕を振り切り店を出て行き、支払いを済ませた真樹人はそれを追いかけるように店を後にした









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