第3話

沖縄唯一の鉄道モノレール駅

「旭橋」

沖縄の交通機関はモノレール以外はバス移動が主体で北部、南部に向かうバスターミナルがあり国際通りから少し離れているが賑わっている駅だ

基本空港とホテル、病院を行き来する真樹人に土地勘は無いのでタクシーで移動したら運転手に


「近いけどほんとにいいの?」


と尋ねられたぐらいだ


ホテル前からあっという間に駅に着き階段を登り改札へ

ちょうど空港方面から来た首里城公園方面のモノレールが出発すると駅構内はスーツケーつを持った観光客で溢れた

友人、家族、恋人…

そこは旅行客、皆各々楽しそうに真樹人の前を通って行った

真樹人はその集団を見ながら小さなため息をつく


自分には何も無い

道標を失った時から

だから何かをずっと演じている

何も持ち得ない自分にはその方が楽だからだ

そんな自分を慕ってくれる人もいる

俺が俺である以上演じ続ける


ー役者でもやってみるか…ー


「フッ」


我ながらバカバカしいことを思いついたと己を鼻で笑う



「戸平さん!」


背後から急に声をかけられ驚きながら振り向くと

細身のダメージデニムに黒地のペイント多めのTシャツ、少し高いヒール付きパンプスを履いた山城 芽衣がそこに居た

「仕事中とはだいぶ雰囲気変わるんだね」

真樹人は驚きながら答えると

「見るのはそこだけですか?」

そういう山城芽衣はメイクもバッチリだった

「そんな根に持たないでよ」

「あんな事言われたら悔しいですからね!さ行きましょ!ついてきて!」

山城 芽衣が先導する形で真樹人が連れて行かれたのは駅脇に作られたコーヒースタンドだった

「ん?コーヒー?」

「戸平さんここ知らないでしょ?すみませーん!」

山城芽衣がレジで声を掛けるとレジ脇から年は50代くらいで赤い記事に「35」とのロゴが入ったエプロンをした女性が対応

「はいいらっしゃ…おや?芽衣ちゃん、仕事終わり?お疲れ様」

「うん!今日は東京から来た人連れてきたよ〜いつも2つお願いしまーす」

「はいよ〜200円ね」

店員が冷蔵庫からピッチャーを出し氷の入ったカップにお茶らしき物を注いだ物を2つカウンターに置いたので真樹人がスマホで決済しようとすると

「うちは現金だけなのよ〜」

店員の女性がそういうと山城芽衣が小銭を出し

「いーの、これは私が飲みたいから、1人で飲むのも気が引けるから戸平さんの分も買っただけ」

そういい真樹人に渡した

「あ、ありがとう」

断る理由もないので真樹人が受け取りカウンター横にあったストローを包装から取り出してカップに差し込み飲むと酸味と程よい甘みと不思議な香りが口の中に広がった、暑かったせいか飲み込むとノドあたりから食道まで冷気がかける

「これ美味しいね、暑い時にピッタリだよ」

「でしょ?仕事明けにいつも飲んでるんです。実はこれ風化した骨格サンゴと泡盛の蒸留粕で茶葉を焙煎してるの」

「へぇー!だから「35」なの?」

「…あ、それは」

「知らないのかい?」

一時の間で2人は目が合うとお互いがクスクス笑った

「まぁいいじゃないですか、美味しいお茶飲めたし、行こ!戸平さん。おばちゃーんまたねー!」

2人はコーヒースタンドを後にすると山城芽衣が階段を降りようとした時振り向いた

「ここから県庁前までは近いんですよ、歩いて…あ!戸平さんに無理させちゃ…」

「ありがとうね、でも先に言っとく、俺の身体のことは気にしなくていい。自分の身体の事だ、分かってる。それに適度に運動しろって言われてるしね、歩くの嫌いじゃないからさ」

「でも暑いよ?平気です?」

「大丈夫、俺体力には自信があるし。思えば車で俺はここに来ても空港から病院、そしてホテル、適当に流して海を見るくらいしかしてないから山城さんのような地元の人の案内でブラブラするのも興味があるよ」

山城芽衣は少し考え込んだあと一呼吸おいて

「わかりました、無理なら無理って言ってくださいね、これは約束です」

「分かった、無理だと思ったら言うよ」

約束を交わし駅構内を出て階段を降り2人は川沿いを歩いた

「何度か那覇には来たけど思いのほかひらけてるんだね」

真樹人が建物をキョロキョロ見ながら話しかけた

「那覇市内はね、でも空港近辺はそうでも無かったでしょ?」

「まぁうん」

「そんなんもんです、市内も美浜過ぎたら田舎ですよ。病院辺りもそうじゃないですか」

「あぁそうだね」

「那覇市内ぐらいです、言い方変えたらここしか集まってないですよ、あ!戸平さんてこっちに来て何か「絶対食べて帰る」って物あります?」

「うーん…俺は食べ物にそこまで興味がないんだよ。だからチェーン店で済ますかホテルで食べてる」

山城芽衣はその一言に食いついた

「うそー!勿体ないですよ!それ!」

「そうかな?なんだ…そのなんちゃらそばってのは食べてみたいんだけど…店があり過ぎてさ、選べないんだよ」

「お店によっては味が違いますからね、でもどこかしら入ってみればいいのに」

「うーん…さっきも言ったけどおひとり様にはハードルが高いのよ」

山城芽衣が少し先を歩きそれについて行く形で真樹人が続きながら歩く

「じゃあバーガーも行ってないの?」

「バーガー?あんなもん東京でも…」

「うわー!出たでた!」

やれやれと言った感じで山城芽衣は手を振る

「全ッ然違うし!え?空港にもお店あるけどそこも行かないの?戸平さん?」

「うん」

「呆れた…いつまで戸平さんはこっちにいるの?」

「うーん…元々決めてなかったんだ、薬貰って2、3日で帰る気でいたし、海さえ見られればそれで俺はいいんだよ」

「海、好きなんです?」

「あぁ、理由は説明しづらいんだけど…心が落ち着くんだ」

「今回は何か予定はあるんですか?」

「言ったろ?何も無いよ」

「じゃあアタシとデートしようよ!戸平さん」

「はぁ?」

真樹人は意外な申し出にキョトンとした

「明日は祝日の金曜、土日もアタシ何も用事ないしさ家に居たってゴロゴロして酒飲んで終わり、だったら少し名所ぐらい巡…」

山城芽衣がいい終わろうとした所は丁度県庁前駅でそこでは署名活動が行われていた



「米軍基地は沖縄にいらない!反対署名お願いいたしまーす!」



大勢の中年の男女がハチマキやタスキをし道行く人に声を掛けていて真樹人にも声を掛けた


「反対署名中です!御協力…」

話しかけてきた中年の女性の申し出に真樹人は


「悪いね、興味無いよ」

と手で払う仕草をして断ると女性も食ってかかった

「この沖縄の海を無理やり埋め立てて自然を破壊してるの!それを興味が無いなん…」

「自然破壊?ならここはどうなの?ここも元々あった物を破壊して作った街じゃないか、人間が住んだり快適に過ごせる環境を作るには自然破壊は付き物じゃないの?それは良くて米軍がダメな理由はわからないね、アホくさい!」

真樹人は引かない、少し怒りの感情も込め反論した

相手の怒りに火をつけたのかヒートアップし声を荒らげた

「そういうのを屁理屈っていうの!アナタみたいに無関心を装い屁理屈をこねる人間が増えたか…」

「は?俺の意見が屁理屈?どこが?」

真樹人が反論していると山城芽衣が体を入れて間に入る

「戸平さん、行こ!ほら!」

山城芽衣がそう言うと真樹人と腕を組み思いっきり引っ張るよう急いで交差点の信号を渡って行ったのだった

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