4話 春麗ら、僕の隣に立つ蝋梅
少なくとも小学生の頃には夢を持つことと叶えることを何処かのゴミ箱に捨てていた僕は、春真っ最中な桜花道で、独り歩いていた。
時折すれ違う、この世の幸せのほとんど集めたようなカップルを見て僕は何度も春を実感する。
余計なお世話も良いところだが、内心その恋愛を応援したり。
でも僕が腰掛けたベンチの隣にはいつも蝋梅の花が咲いていた。
お前に春なんてこない、分かりきったことを何故か教えてくる。
一人で歩くのは好きだし、マイペースだから他の人と歩くのは疲れる。
人間関係なんていうルービックキューブより難しいことをするのはごめんだし、孤独もウェルカムなのに。
流れる風はコートを着ていても寒くて、頬を凍てつかせた。
ああ、マフラーでも買っておくべきだったかな、と思いつつも、コートの襟に申し訳程度に顔を埋める。
生ぬるい、少し気持ち悪い。でも居心地は良い。
他の人が目の前を追い越していくのを見ながら、僕はなんとなく目を閉じた。日差しすら少し冷たく感じる。
今となっては何もかも「ああ、こんなもんだったっけな。」と特に何も思わず通り過ぎるようになった街並み、帰りの切符をなくしたあの駅。
時計回りにしか回ってくれない駅前の大きな振り子時計。
春の風はもう吹かない。蝋梅の木は小さな蕾がついた枝を、強い風で鳴らした。
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