2話 財布

人は皆詐欺師だと思っているし、置き忘れの財布は瞬く間に消えると思っている。

本来信じるべき関係であろうが財布は隠す。

恐らくそれが恋に落ちようかとする相手でも同じであろう。


何かしてあげるときには信用代として金銭もしくはメリットを要求する。ツケあがられたら不利になると、子供の頃に策定した決まりに則って要るゆえに。


幼き頃は財布を置ける余裕はあったし、貧しきに分け与えよというキリストの教えも信じれる気持ちはあった。

しかしつけあがられてからは財布のがま口に南京錠が付き、どことも知らぬ金庫に放り入れられた。


財布はもう開かないし、私自身も中身を知ることはできない。

いざ知ろうにも、金庫の暗証番号と南京錠の鍵は恐れすぎて捨ててしまった。


いつか人前に財布を置ける人間に戻れるのだろうか。

しかしそれは、腕を失った人間から腕が新しく生えてくること同じなのかもしれない。

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