第2話 この世界

  「ちょっと待て! 待て待て! 首が、首が、もげるもげる! お前、俺を殺す気か?」



力いっぱいに揺らされてしまい、マジで首が取れそうになり慌てて七瀬を冷静になってもらうように落ち着かせる。



「だってぇ! だってぇ! だってぇ!」



嗚咽しながらそう言う七瀬は鼻水を垂らしながら言い訳をする。


うわぁ、なんて汚い泣き顔なんだ。せっかくの可愛い顔が台無しだ。だがこれはこれで悪くない。


俺は心の中で改めて七瀬を可愛いと感じた。


なんてことやってる場合じゃない。七瀬を犠牲にしてわかったことが一つある。この世界で言葉が通じない、つまり路頭に迷うルートへと突入したようだ。


くそ、こんな残酷なことがあるのか? 知りたくなかった。


とはいえ、ここでじっとしているわけにもいかない。まずは一晩凌ぐ術を考えなければならなくなった。



「あの、どうかされましたか?」



俺たちが哀れにも四苦八苦していたのを見かねてか誰かが声をかけてくれた。


藁にもすがる思いでその声の方へ顔をあげるとそこにいたのは一人の綺麗な女性でした。



「何か、困ってますか?」


「あ、いえ、その……」



しまった。七瀬以外の女性と話すのは話すのは何年ぶりだ?


俺の目の前にいるのはこの世のものとは思えないほどほど美人すぎる容姿をした女性が立っていた。


一際目立つ頭に被ったとんがり帽子にそこから背中にかけて長く伸びたピンク色の髪に吸い込まれそうな金色の瞳、そして服の上からでもわかる胸、まさに絶世の美女!


誰か、美人のお姉さんとの話し方を教えてくれ!



「実は、ちょっと道に迷って……あれ?」


「ん? どうされたのですか?」


「あの、俺の言葉ってわかりますか?」


「え、ええ。わかりますけど」



俺はふと不思議に感じた部分があった。その疑問を解消すべく七瀬に聞いてみることにした。



「なあ、七瀬。一つ聞きたいことがあるんだが、お前ってどの語源で話しかけたんだ?」


「うぅ、どれって……。英語にフランス語、ドイツ語」


「日本語では話さなかったのか?」


「にほんご? ……はっ!? ええっと………てへっ!」



この女はいつかぶっ飛ばしてみたいものです。


七瀬は自分のミスを隠すかのように可愛くぶりっこしていた。


自分たちの母国語である日本語をなぜ最初に話さなかったんだ、この数学バカ女は? いや、バカだからそうなるのか?


だがこれで俺たちは異世界にきて路頭に迷うルートはなんとか回避できた。


そんなこんなで俺たちは親切な美女に救われて、冒険者ギルドへ案内してもらっていた。



「ほら、ここが冒険者ギルドよ」


「ああ、ど、どうも」



なんとかたどり着いた冒険者ギルドの看板に俺はなぜか安堵を覚えた。



「それじゃ、私はここで」


「ああ、ちょっと待ってくれ」



俺はそのまま去っていこうとするお姉さんを引き止めた。


するとさっきまでの優しい目から一変してものすごく鋭い目つきへと変わった。



「なんでしょうか?」


「実は俺たち、ここの土地のことさっぱりわかんなくて困っているんだ。だからその、色々と教えていただきたいなぁ、と」


「そうですか……」



なんか、すげぇ怖ぇ……。


俺は内心ビビりながらもお姉さんからこの世界について教えてもらえることになった。


外で話すのはあれだからということでギルドの中に入っていく。


扉を開けると、その音で賑やかだった雰囲気が一気に視線や注目を集めてしまう。


その光景を見て俺はすごく心からワクワクしたのだ。なんせ周りをみれば、いかつい顔をした連中にその中になぜいるのだろうと思うセクシーなお姉さんからこれだけ注目集めれたら、心なしか自分主人公になった気分になれる。



「さっさといくわよ」


「え? ちょ、早くね? もうちょっと味あわせて」



俺が高揚感を味わっていると、お姉さんが急かすように早歩きで中に入っていく。


俺や七瀬もあとについて慌てて入っていくと、周りの荒くれ者たちの視線が不意にお姉さんの方しか見ていないことに気づいた。


なぜ俺たちではなく、お姉さんのほうしか見ていないのか感じた違和感はあったが今は気にしないことにした。


お姉さんはギルドの受付嬢の人に手短に用件を伝えると、奥の別室へと案内されるとそこでようやく一息ついた。



「ここなら一目も気にせず、話せるわ」



お姉さんは被っていたとんがり帽子を脱いで椅子に座り、ふぅとため息をついた。


俺たちもお姉さんの向かいに座ってみる。



「ごめんね。私あの雰囲気が苦手でちょっと気が張っていたのよ、許して」



そう言ってウインクしながら、謝ってくれるお姉さんを俺は可愛いので許すことにした。



「いえ、問題ないですよ。こちらがお願いした立場ですし」


「そう、それは良かったわ。ありがとう」



なんとも可愛い笑顔、天使だ。何気なく微笑むお姉さんは綺麗と可愛いを兼ね備えた美女と言っていいだろう。



「そうだ、確か君たちはこの街は初めてと言ってたがどこの出身なの?」


「あ、えっと俺たちは……」



そういえばこういう時はなんて言えばいいのだろうか? ニッポンから来ましたと言えば、絶対に信じてもらえないし、わからないだろう。はて、どう言えばいいものか?



「我々は日本ニッポンという国から来ました!」


「ニッポン?」



って、おーい!! 何してんだお前は!? 普通に言ってどうすんだ!?


堂々と言う七瀬に今ここで言うべきじゃないだろと思い、七瀬の方を見るが七瀬の顔は真剣な表情で言っている。


ダメだ、これは止めれそうにない!


俺は向かいのお姉さんの顔を見ると思った通り、ポカーンとした表情をしているお姉さんがいた。


ダメだ! こっちも思考回路止まってる! くそっ、どうすれば?


俺はここにきて、二度目の難関を抱えてしまった。


これはどう解釈しようものなのか? ニッポンという地名もしくは地域などこの世界にあるならば、それに話に合わせることができるが。



「ニッポウという国ならここから西の方角にあるけど、結構遠いわね。そんなところから来るなんてよほど深い事情があるようね?」



お姉さんは俺たちの事情を察してくれたように優しく微笑みかけてくれた。


ああ、なんて素晴らしいお姉さんなんだ……。まさに女神!



「ところでここへは冒険者にでもなりに来たの?」


「ええ、まあ。そんなところですね」


「…そうか。それはいいがわかっているの? 冒険者になるってことは命を捨てるってことになるのよ?」



その言葉を口にしたお姉さんの顔はとても暗く悲しい表情に見えたのだった。

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