異世界チートも生きるには大変です

@TOVIrock

第1話 突然転移

  「これは……どうなってんだ?」


俺たちは今、自分の目を疑ってしまうほどの光景が広がっていた。


目の前には俺たちがいた日本とは違う世界というか、景色と建物に人物も服装もどこか現代の日本ではない、そうかここは……異世界か。


そう思うのに時間は掛からなかった。


だが不思議な感覚だ。こういう展開は夢とか幻想とか物語の中の話だけだと思ってたけど俺にもまさかこんなふうになるとは、少し自分が主人公になった気分だ。


しかし異世界に来たはいいが、俺は一体どうするべきなのだろうか。


なんせ突然のことすぎて思考能力が失われてしまいそうだからだ。


俺はこれからのことに頭が痛くなり、ため息をついた。



「どうしたのだ、アクタくん!深いため息などついて。それではさらにモテ期を逃してしまうぞ?」


「チッ、うるせぇな」


「な!? 誰がうるさいだ、誰が! 大体君というやつは……」



さりげなく俺が気にしていることをディスってきたこいつは七瀬 咲。


おそらく俺と一緒に異世界に転移してきたもう一人の同行者だけど、なんでよりにもよってこいつなのかと俺は神の選択を疑う。


今も俺の横でギャーギャーと騒いでいる七瀬はあの東大模試を全教科満点と異例の記録を叩き出した才女であるのだ。


さらには得意科目は理系ときた、それに加え語学堪能、容姿端麗の美少女だ。


そうしてついた異名は『パーフェクトクイーン』


だが世間の奴らは知らない、こいつが対人関係拗らせ女だとは。


例として一つあげよう、まずは中学校での出来事。


俺は一人、中学生ならではのゲームの過ごし方をしていた。そこへ突然、七瀬から着信があり、電話に出ると一言。



「ああ、暇だ。とてもとても暇だなぁ〜。誰かこんな暇を持て余している私を誘ってくれる男子はいないかな〜?」



明らかに棒読みで感情が乗ってない。だが俺は察してしまった。


これは完全に誘えという雰囲気になってしまっていたのだ。


そこからの展開は予想通り、七瀬に問答無用で強引に誘われていった場所は都会にある図書館に連れて行かれ、延々と数学理論の話をされたのだ。


はっきりと言うと結構、めんどくさい!


そう。俺とこの頭脳明晰、数学オタクこと七瀬 咲は幼馴染なのだ。



「まあ落ち着け、七瀬。ここは取り乱すことなくゆっくりと状況整理していこう。お前の得意分野だろ?」


「う、うむ。それもそうだな。少し焦っていたのかもしれないな」



俺の提案にずっと騒いでいた七瀬もコホンと咳払いをして落ち着く。


とにもかくにも俺たちはこのどうしようもない状況をどう対処するかを考えていかなくてはならない。



「そもそもここはどこなのだ? なんだか人も街も完全に私たちが住んでいた日本とは大違いだが」


「ああ、多分ここは異世界で間違いないだろうな」



七瀬は異世界という言葉を聞いて何を言ってるかわからないという感じで頭を傾げている。


どうやら才女でもこの状況を理解できるのは難しいようだ。



「うむ。よくわからんがそういうことにしておこう!」


「あ。諦めた」



キメ顔してかっこいいことを言ってるが七瀬は理解するのを諦めたらしい。



「だって仕方がないではないか! いきなりどこかもわからない場所で私は人生で初めて困惑してるのだ!」


「そりゃ、そうだわな……」



俺は人生で初めてあたふたしている七瀬を見て優越感にひたっている。


常に俺を上から目線で見下してくるこいつがこれだけ困惑している姿を見てるとなんというかいい気分だ。


異世界転移というものに順応している俺がおかしいのか?



「とにかく私たちはどこかも知らぬ土地で何をしろというのだ? 帰れる方法はあるのか? これから私たちはどうなるのだ?」


「そうたくさん質問するな。お前と違って俺の頭は処理能力が遅いんだから、とりあえずこういう時は情報集めだ。異世界の定番ではまずギルドへ行って情報を集めるんだ、お前の得意分野だろ」


「うむ。確かに。私というものが取り乱してしまったようだ」



と、キメ顔で語る七瀬はコホンと咳払いをした。


なんだかんだとあったが俺たちはギルドを目指して歩いていく。


歩いてる途中に街なみを見ていたがやはり異世界だなと思うことが一つ、人々の中には人間だけではなく、さまざまな種族がいることがわかる。


ごく少数だが他の種族も見える、だが基本は人間がほとんどだ。



「なあ、この道でほんとにあってるのか? 全然辿りつかないぞ」


「そうは言われても俺だって知らねぇ場所にきてギルドの場所なんかわかるわけねぇだろ」


「うむ。それもそうか。では私が聞いてこようではないか。少しそこで待っていろ」



と言って七瀬は俺の制止を無視して近くにいたこの世界の住人らしき人に声をかけていく。


聞いてくると言ったはいいが俺はここで疑問に思うことがあった。


今更だがそもそも言葉は通じるのか?と。


俺は重大な事実に気づいてしまった。もし俺たちの言葉が通じなかったらどうするんだ? この世界でやっていけるのか? 


だとしたらこれから俺たちはどうなるんだ? この世界で路頭に迷うとか勘弁してくれよ、洒落にならねぇから!



「ハーイ、エクスキューズミー!」



七瀬は意気揚々と英語で話しかけていった。


俺には最初のほうしか聞こえなかったが何やらペラペラと話しかけている。


俺はその様子を見ながらあることに気づいてしまった、それは七瀬は一生懸命英語で話しているが、この世界の住人もといおっさんには全く通じてないように見えているのは俺だけなのか?


それでも七瀬は負けじと話し続けるもおじさんは首を傾げるばかりだった。


しばらくしてから七瀬がこちらに向かって歩いてきたがその表情は心なしか沈みに沈みきった暗い表情をしていた。


俺は反対にとても清々しい気分になった。理由はあの誰よりプライドの高いあいつがこんな今にも泣きそうな表情をしているのが不本意だがとても気分がいい。


そして目の前には肩をプルプルと震わせて目には涙をうかばせているのを見て俺は引き出して笑うのを堪えながら七瀬を宥める。



「まあ、あれだ。たまにはそういう時もあるって、うぉっ!?」


「うわああああああああん! ああああああああああん!!!!」



突然七瀬が錯乱したように号泣しながら俺の胸ぐらを掴んで前後に揺らしてきた。

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