第5話 秘密の共有




あっっぶな!






あとちょっとで出るとこやった……。






「おいこら。あとちょっとですっごく面倒なことになるところだっただろうが。」






「ん?どういうこと?」






「え?それは…あれだよ。出そうだったんだよ。」






「出るって…あぁ、そういうこと。


ふふっ。なに~?あの程度で出ちゃいそうになるなんて。


やっぱり童貞って早漏なのね?」






「ど、童貞ちゃうわ!」






「こーんなところで自分のためだけの場所作っちゃうような人が童貞じゃないわけないでしょ。」






「ぬっ、痛いところを…。


そんなこと言ってるお前も、こんな狭い場所で男子と二人きりとか。


ずいぶん危機感のない処女もいたもんだなぁ。」






「そっ、それは…。


魅力的な場所すぎてつい…。」






「まったく。今更ではあるが普通に危ないんだからな?


絶対腕力で俺に勝てないだろうし。」






「むー。確かにちょっと危機感足りてなかったかも…。」






「これからはちゃんと危機感を持ちなさいな。」






ふぅ。


話をしていたら落ち着いてきた。






そろそろ玲奈も怖くなくなっただろう。




どいてもらわなきゃな。






「ほら、もう怖くなくなっただろ?


そろそろどいてくれ。」






「……まだ雨降ってるし、やだ。」






そんなことを言った後玲奈は再び俺の胸元に顔をうずめた。






「おい…。


………お前がそんな感じなら、俺だってやってやるからな。」






「んむ?何を言って…ひゃん!?」






俺は玲奈の背中に腕を回し、ぎゅっと勢い良く抱きしめた。






「お~やわらかい。」






「んぐっ、ふっ、ぷはっ!


もー。力強すぎよ。」






玲奈が顔を胸元から抜け出し、俺の肩に顎を置いた。






「そんなに私の体に興味あるの?」






「そりゃあないと言ったらウソにはなるけども。」






「うーん、恋人とかじゃないからチューは無理だけど…。


んっ。」






「のわっ!な、なにを!?」






「チークキスってやつ?


ほっぺたとほっぺたをくっつけてるの。」






「あぁほっぺか。


なかなかに奇妙な感覚…。


お前の肌さらさらしてんな。男とは全く違うわ。」






「当たり前でしょ?


どれだけスキンケアしてると思ってるの。


このお肌は掛けただけの労力とお金が積み重なってるのよ。」






「うひゃあ。それはそれは。」




思った以上にはだっていうものは女子にとって大事な物のようだ。






「ん~♪」






まるで「大事にしろ♪」とばかりにほっぺを擦り付けてくる。






「ま、拘りがあるのは男も女も一緒だよな。


俺なんて倉庫改造しちゃってるしな。」






「ほんとよ。でも、もっとばれにくい拘りを持ちなさいよ。


今回見つかったのが私だからよかっただけで先生だったら大目玉よ?」






「わかってるよ。でもこんなところに誰か来るなんて思わないだろ?


ただでさえおっかないところなんだから。」






「何言ってるの、学校の敷地内なんだから巡回場所に入ってるに決まってるでしょう。


まったく、そういうところは詰めが甘いのね。」






ぐうの音も出ない。




確かに巡回しにくるに決まってるわな。






「あれ、でもじゃあ先生が来る前にこの倉庫どうにかしなきゃいけないってことか?」






「何言ってるの。私が生徒会長として巡回もしますって言ってあげたわよ。


私だってこの倉庫が無くなってほしくないんだから。」






「あぁ、そりゃありがとう。助かるよ。


でももし見つかりそうになったらお前は全力でしらばっくれていいからな。この倉庫は俺のわがままで俺の金で作った。責任は俺が被るさ。」






「なーに変なところでかっこつけてんの。


私がこの場所をそのままににしていいって許可出したし、私だってこの場所にいろいろ持ってくるつもりよ?同罪として一緒に罪被ってあげるわ。」






「そっちだってかっこつけてんじゃねえか。」






「ええ。秘密を共有する運命共同体として一緒に頑張って隠ぺいしていきましょ?」






そう言って蠱惑的な笑みを浮かべる。




薄暗い倉庫で二人きり、さらに抱き合って頬っぺたをこすりつけてる俺としては、その顔に反応せざるを得ず……。






「………あらあらこっちは正直ね。良いわよ?私の発覚した趣味に付き合ってくれるなら。


…あ、流石にエッチはしないわよ?そういうのは大学生になってからって決めてるの。」






「ばっ!誰がそんなこと!」






「え~?こんなとこおっきくしてる人にそんなこと言われても、ぜーんぜん説得力無いんですけど?」






「んぐっ、うるせえな。これは男として仕方のない事なんだよ。」






「んふふっ。じゃあその仕方がないでごまかされてあげる。」






そう言うと玲奈はすっと立ち上がり






「うん、もう雨も上がったし、もう帰るね。」






確かに、いつの間にか雨音が無くなっていた。




それに時刻ももう19時だ。






「わかった。送ってくよ。」






「悪いわね。」






「これくらいどうってことないさ。」






そうして今日も二人で駅に向かう。








帰り道には何か変な効果があるらしい。




あれだけ淫らなことをしてしまった相手なのに、なぜだか声が出ない。




まるで自分ののどがこの静寂を守りたいかのようだ。






もう駅の光がすぐ近くまで迫っている。




このまま無言で改札を見送ってもいいが、何か一言いいたかった。






「……な、なぁ玲奈。」






するとびっくりしたかのように玲奈が振り向く。






「…また、明日な。」






ふり絞って出た言葉はその程度のもの。


もっといいことが言いたかったんだけどな。






「……ふふ、何?またあんな変態的なことがしたいんだ。


意外と健一ってむっつり?いや、意外でもなかったか。」






「うるせえな。んなこと考えてなかったわ!」






[あはは!もう、冗談よ。また明日ね。]






「…あぁ、また明日。」






そういうと玲奈はくすりと笑って身をひるがえし、改札の奥へと消えていった。






「………。」






俺はその背中を無言で見送った後、そのまま帰り道に向かった。














「ただいま。」






やはり返事のないさみしい家。






だけど今日は…いや、も。


どこか心地のいい空気があった。






まぁ勘違いだろうけどな。






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フェチな女(男の娘)たちとのお互いを満たしあう退廃的青春エロコメ カントリー・パーム @tomo_150

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