第4話 思わぬラッキーと性癖





ピピピピピピピピ…






「ふぁ~ぁ。


なんかすっごいよく眠れた気がする。」






いつもよりも頭にかすみがかった違和感がない。




今日はいい日だ。






今の時間は7時50分。




いつものごとく朝ごはんは食べずに準備する。




制服に着替えてリュックの教科書を確かめる。


そして一番外側にはやわらかいタオル。




これがあるとあの倉庫で寝るときに枕にできるからだ。






そうこうしているとちょうど登校する時間だ。






俺はいつもぎりぎりに家を出る。




より長く寝たいからね。






今日は倉庫で何しようかなー、なんて考えながら歩いているともう校門だ。




教室に入り自分の席に着くと、俺よりちょっと遅れて葵が登校してくる。






「へいへーい!おっはよ健一!」






「おぉ、おはよ。」






「ん?なんだか今日は機嫌がいいね~。なんかいい事でもあった?」






「ん、そうか?」






「うん!なんかいつもより空気が明るいよ!」






葵から見ても今日の俺は機嫌がいいようだ。




なーんかふわふわしたようないい気分だ。




そんな今まで感じたことがない妙な気分だったからだろうか。




「う~ん、友達ができたからかもなぁ。」




葵相手にこんなことをこぼしてしまった。






「え!?健一にトモダチ!?だれだれ!?」






はっと気づいた時にはもう遅く、葵の眼は俺の新しくできた友達に興味津々のようだ。




はぁ…。


秘密を共有するような相手ができて浮かれていたんだろうか。




葵相手にこんなへまをするなんて。




どうごまかしたもんか……。






「あー…。バイト先の人だよ。」






「うそ!だって健一バイトしてないじゃん!」






あ、そういやしてないって言ってたんだったか。




ええい、面倒くさいな。






「どうだっていいだろ。いちいち説明すんのがめんどい。」






む、余計に怪しい感じに返しちゃったか?




まずいな。なんて返ってくるかわからんぞ。






そんな風に警戒していたが






「…うん。ごめん。……あ!もうHRはじまるね!じゃね!」






案外あっさりと引き返していった。






「…?どうしたんだ?あいつ。…まぁいいか。」






その後の休み時間も、葵はいつもと特段変わることなどなく。




いつも通りの日常を過ごしていた。








さて放課後だ。




倉庫に行く前に、リュックから折り畳み傘を出した。




お昼を過ぎたあたりから急に雨が降ってきだしたのだ。






雨が降ったときは




(天気予報には何も書いていなかったので、おそらく突発的な雨だろう。


すぐ止む。)




そんなことを考えていたが思いのほか雨は長く降り続いて、さらには勢いまで増していった。






あの倉庫には穴あきの屋根しかなかったので、お昼休みに急いで天井をふさぎに行った。




幸いツタや木なんかで雨が防がれていてまだ雨水は中に入っていなかった。




一応用意しておいた板をすぐにかぶせ、その上からブルーシートをかぶせた。




応急処置的ではあるが、雨漏りすることはないだろう。


一つ気になることといえば、湿気くらいだ。






「今度湿気を無くすもんでも買わなきゃな。」






倉庫に向かい、ドアを開けようとすると、後ろから足音が聞こえてきた。






「……あ。よかった。この雨だから今日は来ないのかと思っていたわ。」






玲奈だ。






「ま、ここは俺が一から改造したからな。雨が降った程度じゃ帰んないよ。」






「それはよかったわ。」






二人で中に入る。




仮の玄関チックなものは作っていたので、中に水が入ることはない。






二人で横並びに座る。




今日も水筒を出して机に置いた。




今日はわざわざ相手が飲み終わるのを待つ必要がないようにコップを用意した。


百均のだけどね。




ブルーシートに当たる雨音を感じながらお茶を飲む。




いいね。




湿気が少し気になるが、まぁ落ち着くものは落ち着く。




そのままゆったりと過ごしていた。










どのくらい時間がたったのかはわからない。




なんせ外を確認する窓はなく、天井はベニヤで蓋をしている。




充電式のライトを机に置いているから明かりは問題ないが、明るさで時間を察することができない。




ま、体感2時間くらいたつか経たないかあたりだったと思う。




雷が鳴りだした。






ゴロゴロ…






まだ雷は落ちてないっぽい。




俺はもともと雷が怖くはないたちだった。


でも葵は怖がるから、よく慰めたり気を落ち着かせたりしていた。






玲奈はどうなんだろうか。






「……。」






ずっと無言。




だが、妙に腕が落ち着いていない。




どっちかなぁ…。




いや、気を使うなって言ったわな。


いっそのこと聞いてみるか。






「なぁ、玲奈。」






「っ。なに?」






「お前ってもしかして雷怖い?」






「べつにそんな…!……いえ、正直怖いわ。


昔お留守番してた時に家のすぐ近くに雷が落ちてきた経験があって。


それから雷の音が苦手なの。」






「やっぱりそうだったか。」






「まぁそういう事だから、この雷の音が止むまで外に行かないでくれると助かるわ。」






「そんくらいはいいよ。


俺だって、この空間に人がいてくれてるのはちょっと安心感あるからな。」






「そう。ならいいわ。」






今何時か知らないが、いつ雷が止むかなぁ。






そんな風にまたぼーっとし始めたとき、ふと思い出した。






あれ、そういえばこのライト。


昨日ちゃんと充電したっk…






ピカッ!


ドーン!


ゴロゴロゴロ!






「ひゃあ!」






雷が落ちた。


ドアの隙間から光が差し込んだのが見えた。




相当近くに落ちたんだろう。


玲奈も怖がって耳をふさいでいた。




ここは慰めたほうがいいか。






と思っていたら




フッ




と、机のライトが消えた。


やはり充電し忘れていたようだ。






「え!?ら、ライトが!健一?どこ!?」






案の定玲奈が怖がった。


雷の音に加えて真っ暗闇だ。




少しパニックになってるのかもしれない。






「玲奈、安心しろ。俺はここに…」






ピカッ


ドーン!






「きゃあっ!」






ドサッと、何かが俺の体にのしかかってきた。




玲奈だろう。


また雷が鳴ったタイミングで体のバランスを崩したんだろう。






「おーい玲奈。


大丈夫、これは俺だ。落ち着け。」






声をかけるが、玲奈は




「う、うん…。」




というだけで抱き着いて離れない。




まぁしょうがないか。葵だってこんな風になったこともある。




落ち着いたら勝手に離れていくだろう。








雨は降るだろうが、雷なんてすぐ鳴り終わるものだ。


そう考えていたが、ゴロゴロと地響きのような音だけはずっと鳴り続いていた。






少し大きめの音が鳴るたび、玲奈はビクッと俺の胸の中で震えた。




どこか小動物みたいでかわいく思える。






「…大丈夫だ。ここは学校だから、屋上に避雷針もついているし絶対に近くに落ちることはないよ。」






そんな気休めを言いながら玲奈の背中をさする。




少しぴくっとしたが、文句は言わずされるがままだった。






そのままの体勢で雷が過ぎるまで待っていようかと思ったが、一つ重大なことに気が付いた。






俺は今日の昼休みにこの倉庫に屋根をつけるために急いでここに走ったり、屋根を乗っけるときに汗をかいたり雨に少しぬれたりもした。






つまるところ汗臭かったりするかもしれない。






まずい。思春期の俺としては曲がりなりにも女の子、さらにかわいい生徒会長に「くさい」なんて言われてしまえばメンタルがやられるのは目に見えている。






しかも気を使うなって言ってしまった。




その通り気を使わずに言われてしまえば……






「…なぁ、玲奈?


そのー、大丈夫か?俺のー、その。におい…なんかは。」






うーわこれめっちゃ聞きにくいな。




女子に俺の体臭どう?なんて聞くことがあるなんて思ってみなかったわ。






玲奈は少しもぞもぞしたかと思えば






「すーー。」






と俺の胸元のにおいを嗅ぎ始めた。






「お、おい!?嗅ぐな嗅ぐな!」






「すんすん。うん、大丈夫よ。


むしろ落ち着くっていうか…癖になるにおいかも。


すん、すー。」






「え~…。何お前、実は匂いフェチ…?」






「そんな自覚はないんだけど…。


すんすん。


でも、こんな感じなら実はそうだったのかも。


すーー。」






「ええい、嗅ぎながら会話するな。


…まったく。生徒会長が匂いフェチだったとは。」






「もー、ここでは生徒会長とかは無しって言ったでしょ?


それに……あなただって、女の子に匂い嗅がれて興奮する変態でしょ?」






「何を…あ。」






やっべ。






「ふふ、いいのよ。


私こういうの理解あるほうだと思ってるし。


私だって変態だし?」






「うーん、そういうもんなのかなぁ…?」






「それにしても…ずいぶん硬くなるのねぇ。


最初はこんなもの全然感じなかったんだけど。


あ、ちょっとぴくってなった。」






ちょうど玲奈のおなかあたりに密着してるからか、動きがわかられてしまっている。






「くっ、ちょっと気持ちいい…。」






「んー…?


おなかだけで気持ちいいなら…。


…おりゃ。」






「んぐっ。ちょ、おいこら。


おなか動かすなって。あ、それやばっ。」






「すーーー、はあぁぁあ。


におい…やばぁ。めっちゃ好きこの匂い。」






ぬっぐっ、なんだこれは。




くそっ、体をぐいぐい押し付けてきやがって。




くっ、気持ちいいなこれ。






って、なんで俺がくっころ騎士みたいにならなきゃいけないんだよ。






てか、まっずいまっずい。






やばっ。






あっ………。




……。




…。













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