第3話 はじまる生活
さて。
そんなこんなで始まった会長との秘密の共有。
まぁよっぽどのことがなければ変な事なんて起きないだろう。
というか、会長自体がそういうことを忌避している気がする。
まぁ俺の感覚なんだけどね。
「そういえば、私たちお互いの名前も知らないのね。」
「あぁ、まぁ自分は知ってますけどね。会長は有名ですし。」
「あそっか。ていうか、私たちはこの場所を共有する中でしょ?
だったら会長なんて他人行儀な呼び方はやめて、玲奈って名前で呼びなさいよ。
もちろん敬語もなしね?この空間をかたっ苦しいものにしたくないし。
私もそうするから。」
「わかり…わかったよ玲奈。
お互いこの場所を快適に過ごしたいもんな。」
「ええそうよ。わかったのならいいわ。
それで、ここの中では何をしようと思ってるの?」
「別に何も。
ただ学校とか家とか何も考えずにのんびりお茶でも飲んで入れたらなって作ったので。」
「いいわね。私も生徒会とかみんなの期待とかすべて投げ捨てれる場所が欲しかったし。
じゃあお茶でも飲もうかしら…って、ここは電気も何もないからケトルもないわよね…。」
「あぁじゃあ俺が水筒に入れて持ってきてるからそれ飲むか?
魔法瓶だから熱いままだぞ。」
「え…いいの?あなたのものじゃない。」
「いいよこれくらい。
ここにいる間はお互い気なんて使わずに行こうぜ。
せっかくここにいるのに、ここでも疲れたら本末転倒だろ?」
「ふぅん。それなら遠慮なく。」
「あ、でも飲みすぎたら文句はもちろんいうからなー。」
「それくらいわかってるわよー。」
玲奈が俺の水筒に口をつけて、やけどしないようにゆっくりと飲む。
こういうこと女子にされたことないからなんか生々しく感じる。
まぁいいか。
俺という人間の長所を一つ教えるとすると、飽きっぽいが故なのか切り替えが早いとこだ。
これを葵に話したら
「健一って人に興味ないんじゃない?
ま!僕はいつまでも飽きさせない存在としてそばにいてあげるよ!」
なんて言われた。
こう言われた日の夜、シャワーを浴びながら
(俺と両親の仲が悪くなったのも、俺が人間に興味ないからなのかな。)
なんてノスタルジーに考えちゃったこともあった。
まぁそれこそすぐに切り替えてもう何にも思ってはいないが。
そもそも俺の性格も問題だったとしてもそれで子供を放る親のほうがおかしいから気にしない。
変な話になったな。
まぁ要は、この狭めの倉庫に女の子と二人きりという非日常もどうせすぐ慣れるだろうという事だ。
話した感じ、ここで過ごす分には玲奈はけんかするような性格じゃなさそうだし。
生徒会長という座のストレス自体は本物そうだから大丈夫だろう。
少し楽観視しすぎかもしれないかも。
まぁいいか。
そんなことを考えながら、玲奈が飲み終えた水筒のお茶を取る。
まだ半分ほど残っていたのでゆっくりと飲みながら、天井からの木漏れ日を感じて眼を瞑る。
今日は、サッカー部は部活をしていないみたいだ。
横を見ると、玲奈も同じように。
目を細めながら背中をクッションに預けてリラックスしていた。
今にも寝そうだ。
俺も寝そう。
いつもは感じない人間の気配。
右からは少し高めの呼吸音。
妙に耳に心地よい。
一人よりも、二人のほうがいいって
こういうことなんだな………
…い
…―い
おーい!
「起きろってば!」
耳元での大き目な声で起きた。
右を見やると
「やっと起きた。」
と玲奈が言いながら立ち上がる。
「ほーら。もうずいぶん外が暗くなっちゃったし、帰るよ。」
「ん……もう19時か。
俺は問題ないが、玲奈は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。
まぁあんたほどじゃないと思うけど、うちの親も放任主義だし。
結構遅く家に帰ってくるのよね。」
「そうか、わかった。玲奈が帰るなら俺も帰るよ。
流石にこの暗さで玲奈みたいな女子が一人は怖い。」
「なによ。気を使わなくていいって、あなたが言ったんじゃない。」
「これは気を使うじゃなくて純然たる心配。
普通に危ないだろ?この暗さは。」
「まぁ…そうかも。
分かったわ。一緒に来てちょうだい。」
妙にツンデレなセリフを吐くもんだ。
その顔と相まって非常に合っている。
そのまま校門を出た。
この時間はまだ部活をやってる人間もいたからか、特に変な目で見られることなく済んだ。
「玲奈の家はここから近いのか?」
「ん?ああ、別に家まで来なくてもいいわよ。
私電車通学だし。駅までで結構よ。」
「りょーかい。」
「そういうあんたは家は近いの?」
「まぁ学校から徒歩圏内だよ。」
「それは、楽そうでいいわね。」
「まぁこんだけ家が近いからこそ、あんだけ倉庫を改造できたんだ。」
「まぁ。じゃあその家の近さに私は感謝しなきゃね。」
「ま、立地だけはいいとこさ。」
その後は何もなく、玲奈を駅まで送っていった。
話したいと思う話題ももうないから、お互い無言で歩いていた。
学校を出てしばらくして、なんか間が持たなくて横を見た。
ちらっと玲奈を見ると玲奈もこっちを見てニコッと笑いかけてきた。
少し感じていた気まずさが無くなっていった。
結局終始無言で歩き、駅に着く。
「んじゃ、ここまででいいわ。」
「おっけー。今度から19時以降に帰るときは送るよ。」
「あら、ありがとう。
ならわたしはあの倉庫で引き立てのコーヒーでも飲めるように何とかしてみるわ。」
「おお、それはありがたい。
ああいうところでコーヒーもめっちゃよさそうだ。」
「そろそろ時間だから行くわ。じゃあまた明日ね。」
「ああ、また。」
いいね。
ちょうどいい関係性だ。
いい友人ができたかもしれない。
どこか感じたことのない妙な心の高まりを感じながら家に帰った。
家に着き、ドアを開け中に入る。
やっぱりいつも通り親はいなかった。
でも今日はいつもより部屋があったかく、明るく感じた。
「葵にばれたりしないようにしなきゃなぁ……」
葵にばれたときにどれだけ面倒なことになるかを頭の中で考えていたら、その日はいつのまにか寝てしまった。
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