第2話 とりま最低条件とっぱ





「はぁ……。」






ちょっと深めのため息をつきながら学校へ足を進める。




原因は昨日の会長の言葉だ。






「まぁ取り壊されたり先生に言いつけられるよりかは遥かに良い結果ではあるんだけど…。」




そういえばなんで会長も使いたいんだろうか。






もしかしたら会長にもああいう秘密基地的なものにあこがれが…?




そうだったらちょっと面白いかもな。






そんなことを考えながら校門をくぐり、上靴に履き替えて教室に入る。






俺はあんまりクラスで目立つような活動はしていない。




部活だってしてないし、放課後カラオケなんかに行くような友達ももちろんいない。






まぁ陰キャだな。




でもまぁ女子と話すときにあからさまにどもる、なんていう性格ではないのは自分のいいところかも。






近所のおじいちゃんおばあちゃん程度ならそこそこ話も弾むと思う。






ほとんど話したことないが。






あ、俺が何で安寧を求めているか話していなかったな。




その原因はまぁすぐにわかるだろう。




いつもなら大体このくらいの時間にやってくるはずだ。






ほらきた。






「けんいち―!おっはよー!」






…はぁ。




今俺に激しく挨拶をしてきたのは白井葵しらいあおい。






性格ははじけるほど喧しい。




そしてその外見は非常にかわいい。話し方も顔も着てる服も女そのもの。






だが男。






そう、つまり男の娘。






初めてこいつを見たときは非常にびっくりした。




なんせその授業は水泳だ。




かわいい女が上裸で授業を受けてることに驚かない男子はいなかっただろう。






そしてそんな俺らの不躾な視線に気づいたのか、すぐに担任が




「葵君は男の子ですから、そこらへん勘違いしないようにね。」




と注意してきた。






まあ驚いた。




本当にこの世に男の娘なんて言う生き物が実在していたなんて。






まぁその時は今ほど安寧を求めていなかったから普通に話しかけたりもしていた。




俺とは漫画や小説の趣味があったのでよくしゃべるようになっていった。






そこから2年。




そいつが思ったよりも性格が激しいと分かったときには時すでに遅し。






俺の両親の問題や、自身の性格の変化などが合わさりクラスメイトとはなかなか話さなくなっていったのだが、こいつだけはいまだに話しかけに来る。






まぁこいつはうるさいだけで話自体は趣味が合うこともあり楽しくはあるんだがな。




如何せんクラスメイトの視線が怖い。






みんなこいつが男だってわかっているのに。






そう、つまりこの視線の元凶は男じゃない。


俺と葵に“何か”を感じる腐の視線だ。






こんな古臭い学校に来るような奴らは徐々に腐っていくものなのだろうか…




まぁでも実害はそんなものだ。






別に誰か絡んでくるといったやつもいない。




当然だ。もう三年はこの学校で過ごしている。




そんなやつがいたらすでに絡んできているし、みんな俺が他の人となかなか話したがらないことを多少は分かっている。






こういうといじめを危険視するやつもいつだろうが、一貫校というものはいじめが少ないらしい。




なんでかは分からない。






けど現に俺は全くと言っていいほどいじめの兆候がない。






だからこいつが俺に話しかけることを許している。




ちょっと偉そうか。






「うい、おはよう。今日も騒がしいな。」






「うん!だって健一に会ったからねー!」






「毎日会ってるだろうが。」






「でもでも、放課後は絶対に遊んでくれないじゃーん!」






「そりゃあ放課後は俺がめんどくさい。それにこれからはちょっと用事があるから余計に遊べんよ。」






「え!なになに?用事って!」






「教えたらお前は来るだろうが。教えねーよ。」






「ムー…。こうなったら帰りにつけていって…。」






「おいこらやめろ。んなことしてるの見つけたらまじで怒るからな。」






「もー。冗談だよ。いつかちゃんと教えてよねー!あ、もうHRはじまるね!じゃね!」






「あいよ。」






…さて。こんな感じで俺の学校生活は始まっている。












はい、放課後。






え?いや、だってなんも言う事無いからさ。




休み時間にちょっとだけ葵に話しかけられるくらいだ。






その内容だって最近好きな漫画の内容だったりするしな。






というわけで






「お待ちしていました、健一さん」






倉庫に来た。




俺が行ったときには既に会長がいた。






「早すぎだろ。」




おもわず呆れてそう言った。




俺はHR終わって直ぐに来たと思ったんだが…






「早くここに来たかったんですもん。」




ちょっと拗ねたように会長が言う。




……かわいいな。


さすが高潔の乙女。あ、これ会長のあだ名?二つ名?的な物。




葵が言ってたのを聞いたことがあるだけだけど。






俺が扉を開け、会長と一緒に倉庫の中に入る。




中に入ってすぐ、俺は思いついた疑問を会長にぶつける。






「そういえば、何で会長はここに来たがったんですか?」






「あー…。誰にも言いません?」






「その前置きの時点でちょっと聞く気失せたんですが。


まぁいいですよ。俺だってここの場所誰にも言われたくないですし。」






そう言って俺はゆっくり床に座り込み、会長も同じように促す。






それに従って会長も座る。






「そう言うことなら。


ほら、私って生徒会長じゃない?」






「そうですね。裏では高潔なる乙女なんて呼ばれてるとか聞きました。」






「それなのよ!


私自身は本当はそんな人じゃないのに、周りが勝手にそんな設定を付け足してって…。


もう私ひとりじゃ覆すことなんて、事件でも起こさないとダメだわ。でもそんな勇気なんて私にはないしね…。」






堰を切ったように会長の口から不満があふれ出す。


まぁ聞いた限りじゃストレスすごそうだしな。




「そんな感じでこの三年間窮屈で押さえつけられた生活をしてきたわけ。」




「はい。」




「中学を卒業して高校生になってもこのレッテルははがれそうにないなって憂鬱になってたんだけど、そこでこの倉庫の存在を見つけたのよ!」




「あー…。つまり、気を抜く場所にしたいってことですか?」




「その通り!ロケーションなんて満点よ!誰にも見られそうにないし、学校外じゃないから私の精神衛生上もいい。最高ね。」






「なるほど。わかりました。そういう事情なら納得です。」








そんなこんなで俺と会長の二人きりの空間は出来上がった。










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