第9話 今できること
「ていうことがあったんだよね」
えま姉の話が終わると同時に、子ども部屋は重い雰囲気に包まれた。
終わると同時にっていうか、途中からだんだん暗くはなっていってたんだけどね。
買い物から帰ってきた愛里たちが服を広げていると、ずーんとしたえま姉が「ちょっといい?」と言い、先程あった話をしてきたのだ。
うーん……相手はなかなかの強敵みたい。でもさ、
「マウントとるみたいになってしまうからあんまり言いたくはないけど、一緒にいる期間で言ったら愛里たちの方が長いでしょ?生まれた時から一緒だもん」
そりゃ、三つ子だからね。友達同士には滅多なことがない限りは負けませんよ。
「確かに、それはそうなんだけどさ……」
それでも気にするえま姉。まあ、本人から2回も宣戦布告っぽいことされたら、気にもなるよね……
じめーっとした雰囲気が続く中、その雰囲気を破るかのようにまな姉が大きな声を出した。
「ええい、もう、じれったーい!それはそれで置いておいて、今は曲作りに集中!私たちはみんなアイドル未経験で、ダンス経験者は絵愛のみ、私は音楽をやった事がない、っていうヤバい状態かもだけど、チームワークは誰にも負けないはず!だから、勝とうとか負かそうとか考えずに、ただ私たちらしいパフォーマンスをすればいいよ!」
まな姉……
おっちょこちょいで鈍臭くて、普段は頼りにならないけど(失礼)、こうやって重い雰囲気になった時、その雰囲気を壊してくれるのはいつもまな姉だった。
「ほら、絵愛はとっとと作曲する!愛里は……なんか歌詞考えといて!私はこれからデザインを考えるのでね!」
まな姉は先程の勢いのままそう告げると、イヤホンをしてスケッチブックを広げ、黙って何かを描き始めた。
「そっか……そうだよね、頑張らなきゃ」
何に納得したのかはわからないけど、えま姉もそう呟き、携帯の作曲アプリを起動し、イヤホンをつける。
二人ともイヤホンつけやがったし!ていうか、まな姉は何を聞いてるの?関係ないだろうに。
とまあ拗ねていても仕方ないから、愛里も作詞に取り掛かるか。うーん、なんの曲を作ろう……
一次予選の課題はまだ出ていないから、作るのはやっぱりソロ曲がいいかな?
近年のハイドラは、なんらかの共通のテーマでソロ曲を作ることが定番になっている。ていうか、売れる秘訣的な。売れるって言ったらなんかアレだけどね。
ちなみに、テーマはもう決めている。それぞれの性格に合わせた恋愛ソングだ。
なんでかっていったら……簡単なことだよ、愛里たちみんな名前に「愛」が入ってるから。
まな姉は夢見がちだから少女マンガっぽい恋愛ソング、えま姉はサバサバしてるから……うーん、難しい。ちょっと違うかもしれないけど、刺激的な感じ?
愛里は末っ子らしく、甘えた感じの曲がいいかな。
愛里たちは三つ子だけどそれぞれ違ってるから、そこを知って貰えるような曲にしたいな。
とりあえずまな姉の曲を考えよっと。といっても……愛里は普段、少女マンガなんて読まないから少女マンガっぽい恋愛がどんなのかはわかんないなぁ。えま姉の刺激的な感じは、愛里が読んでる少年マンガのセクシー系の女の子の言動を参考にするとして……
ちょっとまな姉の持ってる少女マンガでも借りて読んでみる?けどなぁ……恋愛系あまり好きじゃないし、キスシーンとか壁ドンシーンとかは絵で見るのも苦手なんだよなぁ。
愛里、恋愛向いてないかも。……あれ、何やってたんだっけ?
そんなことを考えながら、愛里は「ちょっとマンガ借りてもいい?」とまな姉に声をかけようと思い、まな姉の方に向かった。
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