人の上に立つが宿命

 女王が危篤!

 そんな報道が新聞の一面を飾るはグレテン王国。

 良くも悪くも、清濁併せ呑む器量と才覚の持ち主であった国家元首の危機。


 当然、国は揺れる。

 何なら間者達が情報を握り、今頃列強諸国に走っている頃であろう。


「あぁ、もう駄目だ。ヒトモドキの王子はまだ若すぎるし絶対に列強が攻めてくる。くそ戦傷手当でギャンブルをする俺の夢が」

「おいおい、早速植民地の連中が反乱をおこし始めたみたいだぜ。もう終わりだねこの国。」

「ふん、やはり現王族は聖剣の加護を受けていない証明だな。えっ、女王はいい年だから関係無いだろって……だ、黙れ!!」


 王都ドンロンに住む人間達の言葉は、我が身可愛さが大半で、国家なんてくそらくらえと言わんばかりの悲哀がほとんど、一部に国家反逆という女王危篤の情報が消し飛びかねない程に末期状態。

 

──後に大規模な反乱が起こる未来は、もうこの時には決まっていたのかもしれない。──


 そんな中、ヨシ。と嬉しそうな声をあげる小さな影。


 間違いなく、そんじゃそこらの連中がこんな事していれば不敬罪でしょっぴかれるだろう。

 

 だが、彼はグレテンの王子モードレッドである。

 権力側の人間である。動かす側の人間である。

 

 何なら、この状況を日記につらつらと書くほどの余裕があった事に対して、未来の人間はコイツイカれてるのかと後の惨状を思えば正しい評価。

 

 世界の頂点を自称する者にとっては親すら踏み台でしかないのであった。

 ここまでくれば、性格の悪さも才能と評してよいであろう。


(コイツ、マジで人間性終わってるな。アレ?コイツが義兄になるんだよな……でもこのくらいエゴイストじゃないと世界征服は不可能か。)

「き、貴様!腹を痛めてないとはいえ母親が死ぬかもしれないという時に、何だその態度は!!だが、世界を征服する選ばれし者が人間の死に一喜一憂しているような小物では困るし……よし王子はそのままでいい。」

 

 血縁が導き出すのは当然似たような結論。

 遺伝子の導き等、乱世人どころか原始人ですら薄々気付いていたであろう事実。


「いい!アンタみたいな。下賎の産まれが画家になれる訳ないでしょ!!!叶わぬ夢をみるくらいなら手を動かせ!ハッ重要な会議中にし、失礼しました。」


 そんな運命に振り回される無能を叱り飛ばす喧騒が去り、あのー誰がそんな誤報を流したんですか?と円卓の一席から呆れ声。


 その発言に対して権力争いに務める文官からは、えっ?と間抜け声。

 一方分の悪い最終戦争を望む武官達は、ハァ!と怒号。


 女王が死ぬことを前提とした計画は、当然暗礁に乗り上げた事もあり気不味そうな顔をする者もいた。

 そんな中一人の小さな影が手をあげる。


「まず植民地の平定が安牌だと思うけどね。何なら母上もそう言うでしょ、ラヴァオンの時僕は産まれてないけど過去を考えれば独立とかマズイだろうし。」


 意味のない権力争いや、分の悪い戦争よりもモードレッドが求めるのは実であった。


 だが人工子宮産まれの美少年は、まだ若すぎた。

 

 ここはスラムの様に飢えを感じる存在はいない。


 何なら別にグレテンが滅んでも、領主や地主として生きれれば別にいいと考える豚の住処。


 すなわち過去の成功体験に意味など無いのだか

ら。

 

 事実、ここは我々におまかせを。と文武揃っての意見で円卓から追い出されそうになる。


 何て事は無い、ヒトモドキのクソガキに落とし所を提示された現状が、この場にいる大半の老害オジサン達には許せなかったのだ。


「えっ、何僕は間違った事はいってないよね。えっ、何プチ謀反?うわーイライラしてきた。」


 下らないプライドという物が男にとって一番大切な事。

 

 そんな偽り無き真実を後に知るモードレッドが、会議の場から出されそうになっていた時。


「イビルディア帝国の無能極まりない指導者が死にました。えぇもう確実な情報です。あの世とかいう空想に浸った馬鹿どもが五体投地していましたので確定事項かと」


 グレテンの放った間者が最高のタイミングでとんでもない情報を持ってきた。


 当然円卓を囲む連中は文武に関わらず雁首揃って、おお。と口にし大喜びを始める。


(うわー、やっぱり僕は天運を持っているな。これはもう)「世界の頂点たるモードレッドが全ての人間を支配するしかないな。うーん中央の国連を押さえたら見苦しい全知王の像と交換で僕の像にしようハハハ。」


 途中から物騒な事を口から漏らしだした王子様に、コイツが王になったら世界はメチャクチャになるだろうな。と配下たちは見の振り方を考え始めた。


 未来で起こる悲劇を知らないモードレッドは、周りの視線も気にせず高笑いを続ける。


──間違いなく無能が長生きした方が良かったであろう事は言うまでもない……モードレッドが異形の宿敵と会うまで残りわずか。──



「さて、モードレッドよ。即位は勿論するよな?やりたくないは無しだからな?それだけは許されないからな?自分が産まれた意味を考えたらそんな事しないよな。」


 やんごとなき存在が天に返った事もあり、その遺言を受け取った小男が口を尖らせていた。

 モードレッドの気持ちや夢は……この時変更を余儀なくされる。


「神に変わって人の上に立つ以上、我が人生の全てを国家に捧げます。」


 それでも通例である言葉を口にするのは少年。

 己にしか出来ない事から逃げる事は、誰もが羨む高みに産まれた以上許されない!


 それを待っていた。と言わんばかりに筆を走らすのは書記。


 この役職が紡いだ文字が後世で歴史となるのは言うまでもない。


 何なら文字が書けるのは、とんでもないスキル扱いされるのが乱世。


「アーロン、僕の影になってもらうが構わないな?」

 モードレッドの言葉に対して従兄弟は、俺より相応しい人がいると思うんだけどな。と嬉し涙を流しながら了承。


「ムフフ、さて規定路線通りに事は全てすすんだし……パイセンはぶっちゃけ遺言を書き換えているんじゃないかしら?」

 そんな身内の幸せを台無しにするのは禿頭。

 

 余りにも出来すぎた遺言に、アーノルドは常識を疑う。という暴挙をしそうになったが故の行動。


 当然、眼前の小男は怒り狂う等という事も無く、どうしてそう思った?と冷静に確認。


「パイセンには相応しくない役職に、信賞必罰を絶対とするこの国では到底ありえない出世。すなわち無茶苦茶な人事が行われそうになっているのヨ。これはもう先人と我らが主に対する冒涜よネ。」

 

 師匠を冒涜しているのはテメーだろ。と声を荒らげるのは筋肉ダルマ。


 それを、今回は先生に任せよう。となだめるのは流星系。

 

「モードレッド、国中に遺言書の内容を開示してくれんか?流石の小生も年下にここまでナメられたら……怪我くらいはさせんと割りに合わんからな。」


 後輩からの喧嘩を買った小男の発言に対して、名前の持ち主は了承の意をしめした。


「モードレッド、初陣で敵前逃亡した腰抜けビュート年齢イコール童貞の言うことなんてきく必要がないわ、しかも姓が無いんだから身分なんて比べる必要が無いほどかくし……」


 名前を呼ばれた小男の技量によって禿頭が見据える世界が周り、大地にぶつけられ発生するのは激痛。


 投げられたと判断した瞬間、歯を食いしばれば言葉が途切れるのも無理は無い。

 

 指先が触れた瞬間に相手が倒れる。というもはや魔法の領域に入った投げ技。


「おっ、受け身はキッチリ練習しとるな。関心、感心、遺言を疑う奸臣にはきっちりと親友に変わって罰を与えねばな。あと大事な部分が抜けておるが小生に遠慮してるの?口くらいは勝つ気で来い!」


 圧倒的な体格差をものともしない、比べるのもおこがましい技量差。


 決着はついているが、器も体も小さな強者側の気がすまないのか蹂躙が始まる。とはいえ綺麗に骨を折る都合上回復も早いであろう。


「アーロン、この場にいるのは心苦しいだろう。僕に変わって遺言を公開してよ。」

 止める権限を持つ者は、自分の手元にある暴力の確認をする都合状……継続を指示。


 伯父上の四肢が折れる音を聞き続けたくないだろ。と止める気はサラサラ無いモードレッドの優しさに強面の少年は甘える事にした。

 

 父の悲鳴をbgmにアーロンは主の望みを叶えるために走り出す。


(さてと人事の大半は遺言に従うのが確定として、法令関係以外なら変えていいところは割とあるしそっちに着手。あぁ、そうだ式典は盛大にやろう。金は宰相殿に頼めば何とかなるだろう……)


 国家を預かる身となったモードレッドは自分に配られた手札の確認と、派手好きで目立ちたがり屋な性分を世界中に知らしめる未来を考え……集中。


 もはやこの場にある音は、当然何一つ少年の耳には入らないのだから。


 この日、世界が動き出す事は確定してしまった。

 

 持って産まれしモードレッドという軸を中心に世界は回る。


──乱世の主人公は誰?と問われば、余程学の無い人間で無い限りモードレッドと、当時を生きる人間も未来を生きる人間も、どんな偏屈逆張り野郎もそう答えるだろう。

 彼はそれ程までに頭抜けている存在故。──

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る