最強国家には数多の人材

──この世界において、信仰を持った人間が大多数を占める宗教国家の名はイビルディア。

 現人神たるサタンの血を引く存在に対して、絶対の忠誠を国民が誓う。


 その異常な様子は、未開の時代に異世界から帰還した七十三人の理想。

 それすなわち帝から神になった異形の男が持つ圧倒的な才気と、死後の膨大な時間が作り出したまさしく偉業と呼ぶにふさわしいモノだった。


 習慣は第二の天性とは言うが、それは人間だけでなく国家にも該当するという不思議な事実。 

 だが彼らのいる世界線は滅びの日を向かえる。


 しかし、奇跡かまぐれか突然の転移現象によって人間は全員生き残った。

 目の前にいるのは、自分達と同じ共通言語術式を使う異世界人。

 

 それは、イビルディア人に神話の始まりを思い出させた。

 そんな偶然によって乱世は活性化する。──

 



 当時を生きる人間に、最強の国は?と聞けばイビルディア帝国と即答するであろう。

 そんな時代に、グレテン施設団with王族は南の地へ。

 

 はーい、少し待ってくださいね。といかにも給料以上の仕事はしない。と言わんばかりに無能な門番。


「いい加減にしろよ。僕達は長旅をしてまでわざわざ来てやってるんだ。さっさとしろよ。」

 待てども、待てども、帝国の首都であるパンデモニウムへ入れようとしないのだから、それはもう短気なモードレッドの怒りは増幅。

 

 だがそれを見たところで、面のいいガキが何か言ってるな。程度であぁハイハイ。と門番はヘラヘラ笑う。


 あからさまに舐めきった対応。

 そんな事をされれば、当然沸点に近づくはグレテンの軍人達。


「おい貴様、いい加減にしろよ。名前と所属と階級を言え!どうせ後ろで糸引いているのはブライトだろ?貴様らが誇る名宰相様であろう。」

 よりも早く、それらを引き連れてる老婆の声には怒り、すなわち沸点超え。

「えっ、えっ、と所属はマルコシアスで、階級は……」


 戦争中にぶっ殺せば、昇格とボーナスが想像もつかないレベルの手柄となる存在に、話しかけられた事もあり門番は動揺。


「王は名前を最初に問うたはずだが?あぁ、もういい王の興味が今失せた。貴様は一生青プレから昇格する事は無いだろうし、やはり来たか。」


 小物相手に飽きた老婆の目線は近づいてくる車椅子に向けられ、率いられる武官達は歩いてくる小男へと視線を向ける。


「久しいなブライト。随分と金を稼いでいるようだが?まぁ、男の価値等結局は純粋な力に行き着く……おっ、すまないな。貴様は産まれつき足が無い故に初陣すらしてないんだもんな。これは王とした事が、力を試す事すら許されなかった者に対して事実を口にしてしまった。戦えない男に対して言い過ぎているな。頭を下げる気は無いが許せ。」


「これはご丁寧な挨拶を、モルガナ女王の容姿は老いさらばえたと言うのに頭の回転は衰え知らずですな。こちらとしても貴方様と先帝が結ばれていては双方の血が途絶えた未来を想像するだけで吐き気が……失礼口が過ぎました。ワシとしてはヒトモドキを作ってでも血を残す執念には感服いたしましたぞ。次はすんなりと崩御して下され、足が無いのに小躍りをして恥ずかしかったので、いえいえヘコヘコ頭を下げさせていただきます。グレテンの誰かさんと違ってワシは己の非を認められますので。」


 老婆と老人は互いが不倶戴天の敵という事もあり、互いの視線と罵声をぶつけ双方の悲劇的な死を願う。


 文や政治の領域で怨嗟と憎しみがぶつかり合う。


 当然、武官達もそれをぶつけ合う事こそ乱世。 

 事実、全グレテン人の敵。と言っても過言では無い小男に対して睨みつける数多の目。


「息子の敵暴魔よ。そろそろ前線に出てくる気は無いか?ダチも死んだんであろう?殺した後徹底的に儂は死体を辱めてやりたいのでな。」


 怯える孫を背にしたハイドの憎悪に対して、二つ名で呼ばれた小男は拾った石に右拳を軽くぶつける。


 元帥の煽りに部下たちは、そうだ。そうだ。前線に出てこい。と大合唱。


 その騒音によって、小男の技量でもともと綺麗にヒビが入っていた小石は真っ二つ。


(可哀想に、この者達全員が背筋を丸めてグレテンに帰る未来が見えてしまうな。真に哀れだ。イビルディアの旗が世界中に立つなんて……見えたところで否定するか。)


 二つ名で呼ばれた蓋世不抜の武人は、心に余裕があるせいか、不気味な程にニコニコと微笑みを崩さない。


 その反応が、国際法なんて無視して今囲んで殺そうかな。と考える程にグレテン人のイライラを煽る。


「おーい、ビュート。だいぶムカムカが取れたから帰るぞ。義娘をレイプされ、義息子が死んでからひたすら発散させず、今日まで溜め込んだから……どうせワシらの勝ちは決まっているしな。」


 此度の式典に個人資産を突っ込んだ老人は、傑物を知っているが故に、否好きなモノは最後に食う派な事もあり、煽りを止めて式典の仕上げに移ることにした。


「ブライトさん、小生がアイツを何回もなぶったので、そろそろ手打ちにしてくだされ。ほら小生も親友が死んで辛いのですよ。」

 

 晴れ舞台が楽しみで仕方ない小男の発言に対して、ワシの方が辛い!とだけ返された。


 そんな事もあり、ハイハイ。とどっちが年上か分からない反応。

 二つの影がグレテン施設団から離れた。


 パンデモニウムをドカドカと歩きながら目的地を目指すはイライラを隠さない使節団。


 それはもう憤怒の色を浮かべ敵国の首都でガンガン歩を進める。

 されば当然近づく。


(こんだけデカイ城は、兵糧攻めしてもこっちの方が時間切れになるからな……やっぱりイビルディアは最後かな死ぬまで包囲しないといけないし。) 


 人力で落とす事は不可能だろう。と言いたくなるほどの巨城なんて視界の外に置く方が難しい。


「アイツらマジで許せないよな。」

 誰かが言った言葉に全員が頷いた。


 それ程までにイビルディア帝国の悪意に対して、グレテン王国の誇り高き正義がたぎる。


「じいちゃん俺は駄目な奴だ。暴魔を生で見た瞬間、恐怖で膝が震えて。」

「テオ。アレを見て恐怖を感じたなら武術の才能がある。何故かって、暴魔の見た目は十歳くらいのガキだから舐める奴の方が多いんだぞ。」


 相手の実力を正しく判断できる。というのは立派な才能で有ることを孫に伝えるはハイド。

 他人が言ったらぶん殴るのは言うまでも無い。


 巨城の付近では人がごった返していた。

 様々な人種が早く入れろ。の大合唱。


 理由は衛兵達が、上の命令で面倒な処理をしているため。

 

 事実、国名を聞くたびにくじ箱を持ってきて引かせ、開けて結果を見るのに時間がかかるタイプ。というすごぶる面倒な処理を挟んでいるからであった。

 

 そんな中を国力差で黙らせ、割り込み先頭へという無法をするはグレテン人達。

 

 おい、王達は普通に考えれば即入場だろう?常識が無いのか?というモルガナに対して、神より上は存在しません。と臨機応変の欠片も無い事が伺え、案の定応用が効かず一点張りをするのは衛兵。


 事実、神の意思という建前を纏った箱が到着し、誰が引くのか?と言わんばかりに促される。


 当然目立ちたがり屋のモードレッドが手を上げたが、人の悪意という本音を感じ取った母が静止。


「確認するが、これは偽神サタンの意思なんだな?」


 モルガナの言葉に、ババアめ早く引けよ。と思いながらも国力差を感じ取り黙る周囲と、美しい言葉で取り繕うは無知な衛兵。

 

 かの状況か、くじの仕掛けと女王の性格を知っているイビルディア人は、主の命を受けるために急いで入城。

「そうか。くじは我が息子に引いてもらおう。」


 母の言葉に、何故さっき止めたの?と怪訝そうな顔をしながらも、気合をいれて腕まくりをする単純なモードレッド。


 やっと始まるのか。といい加減茶番に飽きてきた周囲。


 早く引いてくれ。と言いたげに、裏から持ってきた物を傾けるは衛兵。


「待て、くじの箱は王が持つ。この程度の条件すら飲めぬ。という事は無いな?」

 

 ハイハイいいですよ。と言わんばかりに、中身の全部がドベと書かれた細工品を明け渡す無能と、世界の頂点たる僕が引くんだから結果は一択だ。とある意味で正解にたどり着くモードレッド。


 子供らしく、手をいれ確率等考える気もないままに勘で箱からくじを出す。


 息子の手が一枚抜いたのを確認した瞬間、開くな!と大声を上げた後に、配下達へ箱を投げるのはモルガナ。


「さて、中身を確認させてもらおうかな。貴様らの信じる女神とやらはまだ幼く、心卑しき俗物の傀儡でしか無いであろうし……モードレッド、王族の豪運が染み込んでるであろうそれは最後に開けるぞ。無論細工をされていなければの話だがな」

 

 周りの人間達は、性格悪いなこのババア。と思っても口には出さない。

 

 無知蒙昧な衛兵は、下衆の勘ぐりを収めるためには真実を見せつけるしかありませんからね。と自分で自分を追い込む暴挙。

 

 当然邪魔をするモノがいない以上、不正の証拠は白日のモノに晒されてしまいそうになる。

 

 そんな中、白い服を纏ったイビルディア人がかなりの人数を引き連れて登場。


 戦闘を歩く禿頭の巨漢は、片腕ギプスに松葉杖の重症人。


 何か怪我してないか?と思う文官とアレを怪我ですませる奴はそうそういないぞ?と思う武官。


 全部同じ数字のくじが入った箱を、破壊するという証拠処理が裏では絶賛スタート。


「ムフフ失礼しました。ねぇ!くじ引きで入城順を決める等というくだらない茶番を始めたのは誰かしら?」

「えっ、だってその様にしろ。と宰……」

「ムフフ言い訳は聞きたくないワ!お見苦しいところをお見せしました。ヴァタシ自ら謝罪させていただきます。」

 

 オカマ口調の禿頭が怒鳴り、殴り、力づくで無能に土下座させる茶番を見た事もあり、責任を下に押し付け始めたぞ。と古今東西変わる事の無い真理にざわめきたつ周囲。


 不正はあったな。という事実確認の様な独り言を呟くモルガナ。

 

 イビルディア帝国人が纏う白服は神か忠臣の証明。

 

 ソロモン七十二柱等、信仰心皆無の存在から見れば悪意を撒き散らす害でしか無い。


「アララ?えっ、製造過程でミスが発生したとは考えないのですか?グレテンの女王陛下はサタンが人間ごときに悪意を向けたと主張されるノーン。それは傲慢にも程がありますヨ!ごほん……某は神託を預かっております。神の居城に入るは国力に対して逆順との事。どんな理屈を並べようと人である以上従っていただきます。」


 何をしてでもグレテンを最後にしたいんだな。という確認に、禿頭の大男から答えは返されない。


 入城順が決まった事もあり、ゾロゾロと入っていくは人。


「ここまでの愚弄を許してはなりませぬ。この馬鹿げた式典で宣戦布告をし、グレテンこそが最強である事を示すべきです。」

「その通りです。我ら以外は共通言語で鳴くだけの猿。徹底的な痛みをもって調教すべきかと」

「ああイライラするな。世界の頂点たる僕が一番以外を引くなんてありえないんだけど。」


 頭と経験の足りない若い連中の発言に対して、女王と文官は苦笑い。


 イビルディア帝国とサシでやった場合は三割の勝ち目も無いぞ。と知識プラス経験のもとに放たれるは元帥の情けない事実確認。


──周辺諸国が連合して南へと責めいった歴史があった。


 だが、そこまでしても尚首都パンデモニウムにダメージを与える事すらできなかったという実情。


 はっきり言えば乱世の情勢は、イビルディア帝国のワンサイドゲーム。と言われる程に研究は進んでいた。

 

 そんな時代に、圧倒的な格上にグレテンの王は喧嘩ををふっかける。


 運命に抗い続けた征服王モードレッドが、後に冠するはペンドラゴンの号であり、それはよく姓と勘違いをされる。──

 

「それは今までであって、これからじゃない。世界の頂点たる僕が後々全てを掴む。これは決定事項だ!」


 端正な顔をした王子様の短い啖呵。をアホが何か言っている。と捉える者もいれば、こんなアホじゃないと変革はできないのだろうな。と呆れる者もいた。


「全く、アネキが病気じゃ無かったらお前はここにいる事はできないんだからな。絶対に歩不相応な勘違いした行動はするなよアイラ。だから色目を使うな。性欲をだすなぶっ殺すぞ」


 その近くで面食いかつ性欲に正直な少女は、暴魔から受けた怒りの八つ当たりと言わんばかりに……尋常じゃなく小物なテオから理不尽な説教を受け、ハワワ。と口から漏らす程に慌てた様子でいた。

 


 好ましい結果を待つ。というのは至高の時をもたらす。


 そんな雰囲気に包まれる神の巨城にて、世界が動き出す。という確信のもとに怪しい目の輝きをするはイビルディア人達。


 そんな中をいつも通りの表情で歩くは世界一の資産家と、求愛行動をする幼き女神を背負う童貞武芸者。


「全くあのクソアマは、此度はご逝去もとい……ご崩御あそばせと遺影に言ってやりたかったのに、生きてるせいで案の定面倒な事をしおって」

「まぁ、外の問題はアーノルドが収集つけているでしょうから大丈夫かと」


「武人という存在は、格付けが猿でも分かるから羨ましいものよ。でもビュートは結構喧嘩を売られている様だが……見た目がちんちくりんなせいか?」

「小生の武は成長障害あってこそなので……さて此度の式典ブライトさんは結構金を使ったんじゃないですか?」

 

 豪華絢爛な装飾と、各国の首脳陣の前で式典をしたい。という無茶苦茶な新帝のワガママ。


「どうせ使った以上の利益を出すのが一目で分かるレベルの奇貨。結構な額だが構わんよ。言っとくが無論全部私費だからな!国の金を使いちょろまかす等賊まがいの事をワシはせんよ。」


 莫大な浪費、それすらも心地良いと思わせるのは天賦の魔性。


 膨大な才の持ち主は、多指症に合わせて作られた特注のグローブを慣らすように、両の手を開けたり閉じたりして、重瞳に写る光景を楽しんでい

る。


「我が家は代々マモンの姓に使えてきましたが今日程嬉しい日はありませぬ。あぁ、モーリン様が死んだ日に貴方様は生を受けた。」

「さぁさ、ぼっちゃまお召し物を変えましょうか。」(ゲヘヘ、役目を終えたサングラスと使用済みマスクもウチに持って帰って使おう。)

「あ、アンタ、古着の持ち主は正々堂々とジャンケンで決めるからな、持ち逃げしたら殺すぞ。」


 メイドとフットマン達が甲斐甲斐しく世話するは高みに産まれ落ちた異形。

 そうで無ければ産婆に首を締められて終わりであろう。


「宰相殿、注文の品は届いている?」


 世界の中心たる裂けた口から出る音は、人間の脳を揺らす天上の美声。


 あぁ、度が一切入ってない眼鏡ならセットで届いておるぞ。予定通り式典の最中に渡せばいいんだな?とブライトの言葉に、後の聖帝は太陽の笑みで応えた。


──宿敵たる未来の征服王、すなわちモードレッドの顔どころか名前すら知らぬゆえに、異形は己が主役の舞台を待ち望む。──

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