後味悪いんだよな

 

 部屋の広さは四畳半。小面積の板畳スペース付き部屋もあるが、全部屋ほぼ同じ面積に造られている。

 近頃の需要に応えて、床はフローリング。入居者達は、大概折り畳みベッドを使用している。


 桑木は、美花を寝かせるべく、急いでベッドの支度を整えた。

「流石に、服を脱がすわけにはいかないだろう。このまま布団を掛けてやれば大丈夫だ」

 大の男4人は、美花を寝かしつけ、大きな溜息を漏らす。


 結局、桑木は男共のワイセツ行為を止めさせようとはしなかった。確かに一瞬だけ正義感が過ぎった。が、自分も参加しなければ損だとの欲望が、正義なんてそんな格好いい物など吹き飛ばしていた。

 無理も無いかも知れない。彼らは、金持ちや権力者と違って、今後こんな可愛くてピチピチな女性の肌に触れられる機会など、もう二度と巡って来る筈が無いのだから。


 しかし、世の中、壁に耳あり障子に目ありだ。男達の一連の行動を、ドアを少し開け、その隙間からジッと見ていた人物が居た。



 翌朝。二人の人物がソファーでくつろぎ、朝のワイドショーを見ている。藍原と桑木だ。

 二人はテレビを見ているのだが、その姿は漫(そぞ)ろで何か落ち着かない感じだ。


 そこに、五十嵐美花が二階から降りて来た。気分が悪そうな表情である。

「あっ、美花ちゃん、お早う」

「お早うございます」

「なんか、気分悪そうだね?」

 桑木が、恐る恐る聞く。

「そうなんです。飲み過ぎたみたいで、頭が痛いというか重いというか」

「相当酔っていたみたいだったからね」

「若しかして、私なんかしましたか? 二人の先輩に抱かれて居酒屋を出たとか、所々記憶があるんだけど、殆ど覚えてないんです」

 記憶が無いとの言葉を聞いた二人は、表情がパッと明るくなる。


「別に大した事は無かったから、無理矢理想い出さなくて良いから。な、藍原さん」

「そうだよ。全然気にしなくて良いから」

 そう一言残して、何時もは長居をする藍原は、サッサと自分の部屋に行ってしまった。

「今朝、マイバスケット行って、果物買って来たから、デザートで食べな。ビタミンとらないとね」

 桑木はそう伝えると、彼も立ち上がり自分の住まいに帰ろうとした。

「何か可笑しい。やっぱり私、何かしでかしたのね。私、酒乱の気があるから」

 五十嵐美花が呟く。


 腰を上げた桑木が再びソファーに座る。

「美花ちゃんは、自分が酒癖悪いの自覚しているんだ」

「うん。両親から『お前は酒を飲むな!』と言われている」

 一応、彼女は後悔の表情を見せている。

「過去に何度かやらかしていたんだ?」

「うん。記憶がない時は大概やらかしている」

 

 普段は人当たりの良い可愛い女の子なのに、酒が入ると豹変するなんて全く考えられない。

「良いじゃん。記憶が無いなら。美花ちゃんだったら多少の事は許して貰えるよ」

「そうかも知れないけど・・・。大家さん、私昨夜、何か不都合なことしました?」

「いいや。美花ちゃんが酔っ払ってしまうとどんなことをするの? 例えば、辺りの物を手当たり次第の破壊魔になるとか、暴力的になるとか?」

 さすがに、しつこく絡んで来るとか大声で喚くとかは言えない桑木。


 すると、美花はとんでもない失敗談を話す。

「私ね。グループで飲みに行ったの。その時ね、酔っ払って正常な判断が出来なくなって。それでね、男達に嗾(けしか)けられたんだと思う。スカートを巻くって下着を下ろし、お尻を丸出しにしちゃった事があったの」


 男にしてみたら、相当インパクトのあるカミングアウトだ。 桑木は仰け反り、美花の話を聞きながら不覚にもその場面を想像してしまった。


「幸い、側に居た女性陣が直ぐに何かで隠してくれて事なきを得たんだけど、後でその話を聴いて凄く恥ずかしかった」

「そりゃ、そうだろうね」

 桑木は、その場にいた男性達を羨ましく思う。


「また、その時の話を詳しく解説してくれる友達が居たのよ。私がお尻を出したとき、男性陣の目は一斉に私のお尻を見たそうよ。見られたからってどうこう無いんだけど、何か悔しいやら残念やらで、想い出す度に顔が火照るの」

「わかるな、その気持ち。それでもお酒は止められない?」

「常に飲みたいわけではないの。ただ、飲み始めると止まらない口みたい」

「そうだね。お酒は自分の為にも自重した方が良いよ」

 桑木は、人生の先輩らしく、忠告する。


 翌日、シェアハウス内の2カ所に、

【当シェアハウスくわき内共用部分での宴会や飲酒を一切禁じる】

 の張り紙が貼られた。

桑木にして見れば、五十嵐美花に酒による失敗や後悔をさせたくない思いやりでもあった。


次回の「扱いに困る」につづく

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