第6話 彼をわたしの部屋に
「ちょっと、とま子、朝から萌え萌えキュンを聞かされるんだけど、
何なのあの電子レンジは」
おそらく、昨夜ショートケーキを母に怒られながら食べている時、祐樹と父がモード2に設定してから寝たのだろう。
「標準モードに戻しておくわ」
「それも、ちょっと嫌なのよね。走らされるし」
「取り出し忘れをしなきゃいいじゃない」
「やっぱり、使い慣れた電子レンジじゃないと、母さんにはストレスだわ」
さもありなん。
この新しい電子レンジをキッチンから撤去する理由ができた。
「母さん、もとの電子レンジに戻しておくわね。
会社には家族には不評だったと伝えておけばいいから」
「悪いねとま子、それで大丈夫? 会社で立場が悪くなったりしない?」
「大丈夫よ、母さん気にしすぎ」
わたしは母の希望通り、電子レンジを従来の物に戻し、新しい電子レンジは自分の部屋に持って行った。
フフフ、これで誰にも邪魔されずに彼を独占できるわ。
重い電子レンジを持って階段を登り、二階の自室に運び入れた。
「ふう、重かった。あとはどの台の上に置くかよね。」
壁際にちょうどいいラックがあった。
そこに置いてある本やぬいぐるみをどけて、電子レンジを置いてみた。
「やっと二人っきりになれたわね。うちの家族はああだからうるさかったでしょう。
ごめんなさいね」
しばらく、沈黙が続いた。
そして、わたしはあることに気が付いた。
「………あ、何か温めないと彼は話してくれないんだったわ」
ちょうどそのとき、階段の下から母が呼ぶ声がした。
「とま子、朝ごはんできたわよ。冷めちゃうから、早く食べちゃって」
ナイスタイミング、マイ・マザー!
「ちょっと待っててね」
わたしは彼にそう言って、階段を降りてダイニングに来た。
「わたし、二階で食べるから」
「おやまあ、どうしたの」
「うん、ちょっと連絡事項があって、仕事しながら食べるわ」
「そう、大変だねぇ」
自分の部屋に戻ると彼がおとなしく待っていた。
「お待たせ~。これ、温めてね」
電子レンジの中に卵焼きとキャベツのソテーが盛られた皿を入れる。
ラップが必要だわ。
「ごめんなさい、今回はラップ無しで30秒お願いします。
今度からこの部屋にもラップを常備しておくから」
モード3で加熱スタート。
数秒で彼は聞いて来た。
「もうすぐ、食品があったまるよ。準備はいいかい?」
「はい、いつでも。ここに座って待機してまーす」
「お待たせー! 食品があったまったよ。ほら、扉をあけて」
開けたいけど、取り出し忘れ防止機能まで聞かないともったいない。
ここから2分間の我慢だ。
ごめんねー、わざと知らんぷりしているのよ。
「ねえ、忘れてない? 君が頼んだんだよ、温めてって」
うっ!・・・わたしのハートは彼に射貫かれた。
思わず彼に抱きついて、涙を流す。
「つらい。知らんぷりするのってつらい。本当は忘れてないの。
忘れたふりをしていただけなのー---!」
抱き着いた先には置き時計が見えた。
いけない、もうこんな時間。
早く会社にいかなくては・・・
ごめんね。お留守番しててね。
出来るだけ早く帰って来るからね。
後ろ髪を引かれる思いで、わたしは部屋を出た。
階段を一気に降りて、玄関までダッシュする。
「行って来まーす」
なんだか、彼と同棲してるみたい。
きゃっ、そんなことしてていいのかしら。
わたしは、胸をキュンキュンさせながら駅まで走った。
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