第7話 しあわせ時間を独り占め

 会社ではできるだけ残業したくない。


だって、彼が部屋で待っているんですもの。


残業にならないようにテキパキと仕事をこなしていた。


「なんかいいことでもあった? とま子」


「え? わかっちゃった?」


「何よ、何があったか教えなさいよ」


「うふふふ、ひ・み・つ」


「はぁ? なんだか気持ち悪いわね」


そうよ、これは秘密なの。

だってわたしは、彼と同棲してるんですからー。




 仕事は定時に終わらせて、さっさと家路につく。

商店街を歩いても、いつもは品定めする商店には目もくれず、

まっさきにコンビニに入る。

目指すは温められる物だ。

お弁当や冷凍食品をかごに入れてレジに向かう。


「お弁当は温めますか?」


「いえ、結構です。絶対に温めないでください」


「はい、わかりました」


「わたしの幸せを奪わないでちょうだい!」


「はぁ、そこまでかたくなに拒否しなくても・・・」


わたしは会計をすませると、店員からレジ袋を奪うようにして、

コンビニの外へ駆けだした。


温めるために買ったのに、ここで温めたら意味ないじゃないの。

あとは、彼の待つ部屋へ一直線よ。


家の玄関に着くなり大急ぎで階段を駆けのぼる。


「ただいまー-」


どたどたどた………バタン!


「ただいま! 走ってきちゃった♡」


部屋のドアを開け彼を見ると、彼の上にネコが寝ころんでいた。


「あー---! なにしてるの! シッシッ! 彼の上に乗らないで。

爪で傷がついたらどうすんのよ! 丁寧に扱ってくださいって言われてるんだから」


ニャー


ネコは彼から飛び降りて部屋から出て行った。


「おかえり」


はい?


わたしは、彼がそう言ったような気がした。

これはわたしの妄想だわ。

そんなはずないもの。

でも、妄想でも嬉しい。


「ネコちゃんと遊んでいたんだよ。だって、君がいないこの部屋は寂しいから」


はっ、そうだったの?

わたしのいない間、そんなに寂しかったの?


ぎゅうーってしてよ、わたしも寂しかったんだから。


わたしの妄想は止まらない。


「今度どこかに出かけようか」


嬉しい!わたしをデートに誘ってくれるの?

でも、彼を担いで街を歩くのはちょっとムリかも。


「だよね。そう言うと思った。デートなんて無理だよね」


いいえ、わたしに任せて。

あなたが行きたいところどこへでも連れて行ってあげるわ。

あれ?これって、立場が逆じゃないかしら。

彼が言うセリフよね。


「ほんとか? そうだなー。どこへ行こうかなぁ」


そのとき、母がわたしを呼ぶ声がして、妄想は消えた。


「とま子、とま子、あんた帰ってきてるの? 夕飯が出来てるわよ」


「はーい、ごめん母さん。ここで食べるー」


「じゃあ、取りに来てちょうだい」


「いいの、買ってきたからー」


さてと、わくわく、ドキドキ、キュンキュンの温めターイム。

ここから、彼との楽しいひとときが始まる。





このような幸せな数日間は、あっという間に過ぎ去った。


明日は、彼を段ボールに入れて会社に発送しなくてはならない。


ああ、明日からあなたがいなくなるなんて、わたし耐えられないわ。

あなたがいなくなったら、わたしはこの先どうやって生きて行けばいいの。


彼がこの家に着いた時に入っていたダンボール箱を用意しながら、とめどなく涙が流れてくる。


今夜が最後の夜ね。


わたしはベッドに入って、暗くなった部屋でじっとしている彼を眺めていた。


離れたくないわ。

最後だもの、いいわよね。


わたしは彼を自分のベッドに運んで、やさしく布団をかけてあげた。

わたしたちは一緒に抱きつきながら眠った。

涙で枕を濡らしながら。


翌日、彼を段ボールに入れながら、こみ上げてくる悲しみを堪えることができない。

まるで、納棺しているような気持ちで、彼が入った段ボールをガムテープで封をした。

宅配業者に電話をする。


「もしもし、出棺お願いします」


「しゅっかん? ああ、集荷ですね。承ります」


しばらくすると、宅配業者が彼が入った段ボールの箱を取りに来た。


「割れ物注意のシールを貼って、丁寧にお願いします」


「わかりました」


彼の入った段ボール箱が玄関のドアを出ていく。

出棺だわ。

こんな形で別れがくるのは、最初からわかっていたのに。

玄関のドアが閉まると、わたしはその場に泣き崩れた。



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