第2話 家電事業部門、商品開発部、開発研究室

「もっと性能がいい電子レンジってないのかしら」


 社員食堂で、友人の麻美と一緒にランチしながら、忘れたトウモロコシ事件のことを話した。


「その話ウケるわ。とま子らしいわね」


「わたしらしいって、どういう意味よ。

 みんな、あるでしょ?電子レンジに入れっぱなしにした経験」


「わたしもあるけどさ。

とま子は気が付いたのが翌朝だから、まだよかったじゃない。

それ以上放置した経験も……」


「やめて! そんな恐ろしい話」


「ごめーん。ランチはおいしくいただきましょうね」



そこへ、総務部のお局様が現れた。


「そこの席、空いているかしら」


「あ、これはこれは、坪井先輩。空いております。ささ、どうぞ」


わたしたちは立ち上がって、坪井先輩を席に案内した。


「とまちゃん、さっき何か言ってなかった?」


「はて、何でしょう」


「『もっと性能がいい電子レンジってないのかしら』って聞こえたけど?」


ひょっとして、聞かれていた?

わたしが働いている会社は、最近、家電事業部門を立ち上げた。

うかつに家電についての愚痴をつぶやこうものなら、どこの何が問題なのかを根掘り葉掘り聞かれる。

それは、自社の製品に誇りが持てないのかと責められているのではなく、今後の新商品開発の提案材料にされるのだ。


「実はこんなことがあって………」


わたしは電子レンジの中にトウモロコシを放置してしまった事件を坪井先輩に話した。


「とまちゃん、あなたモニターをやってみる気はない?」


「モニターっていうのは」


「わが社の商品開発部が、新しい電子レンジの開発をしているんだけど、

まだ試用段階で十分なデーターが取れていないのよね。

とまちゃん、商品開発部に協力してあげて。

新規事業部は、あなたのように消費者視点で商品を見る人材が必要なのよ」


「はあ、いいですけど」


「OK、わたしから開発部に

とまちゃんが行きますって伝えておくわ。

じゃ、よろしくね」


坪井先輩は、それだけ言うと席を立ち颯爽と社員食堂を去っていった。


「麻美、どう思う?これって何かの罠かしら」


「まさかそんなことはないでしょ。

ただ、開発部から誰かモニターになってくれる社員はいないかと

打診はあったでしょうね。

行ってみたら? というか、もう断れないわよ。

坪井さんから開発部に連絡するって言ってたもの。これはほぼ確定ね」


「わたしに務まるかしら、恐いわ」


「しょうがないわね。最初だけ一緒に行ってあげる」


「ありがとう麻美」


「最初だけだからね」




 商品開発部、開発研究室。

この部署は、わが社の中でも異色で、大手メーカーからの転職者や引き抜きを行って、大手メーカーが作らないようなユニークな新商品を世に出すとして注目を浴びている。

いままで開発してきた商品は、

座ったまま寝られる枕、

洗濯槽ごと外して洗濯かごになる洗濯機、

寝たままでスマホが見れるスマホホルダーなど。

どれもユニークなアイディアで勝負している。


「すみません、失礼します。

総務部から来ました赤井とま子です」


「同じく総務部、佐々木麻美です。

きょうは付き添いで来ました」


研究室の社員は全員白衣で、ドアを空けたわたしたちをいっせいに見つめた。


何、殺気立っているこの空気は。

麻美が小声でここの情報を伝える。


「この研究室は、

うわさによるとものづくりに専念しすぎて、

残業時間は労働基準をオーバー。

それどころか、家に帰らず

そのままここで寝て朝を迎える変人ぞろいらしいわ」


連日の睡眠不足は、ここまで人間性を壊してしまうのか。


人間性が壊れたと思われる研究員の男が近づいてきて、銀縁メガネをくいっとあげて言った。


「ああ、あなたですか。新しい実験動物は」


「実験動物? 商品モニターと聞いて来たんですが」


「まあ、そうとも言います」


なんなの、この人たち。

大丈夫なの?

わたし生きて帰れるのかしら。


「とま子、じゃ、頑張ってね。

わたしはこれで自分の仕事に戻らなくっちゃ」


「ちょっ……最初だけのさの字だけじゃないの麻美。

あんた逃げる気?」


麻美は「じゃ、よろしくー」とにこやかに研究室から出て行った。

研究員の男はまた銀縁のメガネをクイッっと上げて、わたしを見ると言った。


「それで、坪井さんから伺いましたが、

通常の電子レンジに不満を持っているとのことですよね」


「ええ、まあ」


「時間がもったいないから、

前置きは省略してさっそく商品説明をします」


時間がもったいないからって前置き要る?

なんだか仕事熱心な研究員って苦手だわ。



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