【全10話】レンチンイケボに沼りまして甘々生活妄想中

白神ブナ

第1話 電子レンジも同罪だから

この物語はフィクションです。 登場人物、団体などは全て架空の名称です。


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 ある夏の日の朝、マグカップに牛乳を注ぎホットミルクにしようと、電子レンジの扉を開けた。

すると中には黄色い物体が………


これは何?


わたしは寝ぼけた頭をフル回転させて、思考を巡らせひとつの記憶に辿り着いた。




ゆうべ、ネットで検索して「時短、簡単、電子レンジでできる茹でトウモロコシ」というレシピ動画を見ていた。


へぇ、電子レンジで茹でトウモロコシができるんだ。


夏の暑い日に、大きな鍋でトウモロコシや枝豆を茹でる作業は過酷だ。

それも西日の当たるキッチンでとなると、ほとんど拷問に近い。


レンジでチンして、茹でトウモロコシができるなんて最高じゃないの。

さっそくやってみよう。


わたしはトウモロコシの外側の皮を剥き、水をかけてラップで包み、電子レンジに入れる。600ワットで5分に設定して加熱ボタンを押して、他の作業にとりかかった。

5分経って、加熱終了のお知らせ音。


チーン。


ちょっと待って、今手が離せないの。


しばらくすると、また念押しのお知らせ音が鳴る。チーン。


わかってますって。忘れてませんから。くどいなあ。

今取り出そうと思っていたのにぃ。


まるで反抗期の中学生だ。

今宿題やろうと思っていたのに、言われたらやる気が消滅する。

このときのわたしは、まさに中学生。

二度目のチーンには、イラっと来る。

忘れてませんから………(その時点では)


すこし経ってから、トウモロコシを取ろうとして電子レンジの扉を開けた。

中からもあっと、熱い蒸気が出てくる。


あ、熱い。

これは手で持ったら火傷するレベルだわ。

一旦、冷ましてからにしよう。


わたしはそう言って再び電子レンジの扉を閉めた。

扉を閉めトウモロコシが視界から消えると、わたしの記憶からもそれは消えてしまった。




その時の茹でトウモロコシが、今この電子レンジの中で冷たくなって横たわっていた。


ごめんなさい!トウモロコシさん。

あなたのこと、すっかり忘れていたわ。


トウモロコシは喋った。

という妄想をした。


「ボクはずっと待っていたんだよ。暗い電子レンジの中でひとりぼっち。

でもやっと、扉が開いて光が射し込んだんだ。

よかった、助かった。

ボクの身体はママに持ち上げられて、お皿のベッドに置いてくれる

と思ったのに

あーれー----」


トウモロコシくんは、また暗い闇の中へ放り込まれた。

さっきまでとは違う闇の世界へ。


「ごめんなさい。夜中は寒かったからたぶん腐っていないと思うんだけど、

でも、万が一食べてお腹壊したら、仕事中つらいだろうし…

いろいろと思い悩んだ結果なの。

本当にごめんなさい、トウモロコシくん!」



かくして、トウモロコシはゴミ箱へと廃棄された。

わたしが悪かったという反省と後悔の念が無かったわけではない。

これでも廃棄する瞬間は心が痛んだ。


でも、これってわたしだけが悪いのかしら。


いつも人のせいにする悪い癖が心の隅の方で頭をもたげる。


だいたい電子レンジが悪いのよ。

二度目のチーンは、チーンだけじゃわからないのよ。

ちゃんと自己主張してくれなきゃ。

「もしもし、お忘れではありませんか?」

と言って、肩をちょんちょんしてくるとか、エプロンの端を引っ張るとか。

もっと、気が付くように教えないから悪いのよ。

トウモロコシくんの遺体を遺棄したことは、電子レンジも同罪だからね。


わたしは、自分の物忘れを電子レンジのせいにした。


これって、あるあるよね。



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