【全10話】レンチンイケボに沼りまして甘々生活妄想中
白神ブナ
第1話 電子レンジも同罪だから
この物語はフィクションです。 登場人物、団体などは全て架空の名称です。
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ある夏の日の朝、マグカップに牛乳を注ぎホットミルクにしようと、電子レンジの扉を開けた。
すると中には黄色い物体が………
これは何?
わたしは寝ぼけた頭をフル回転させて、思考を巡らせひとつの記憶に辿り着いた。
*
ゆうべ、ネットで検索して「時短、簡単、電子レンジでできる茹でトウモロコシ」というレシピ動画を見ていた。
へぇ、電子レンジで茹でトウモロコシができるんだ。
夏の暑い日に、大きな鍋でトウモロコシや枝豆を茹でる作業は過酷だ。
それも西日の当たるキッチンでとなると、ほとんど拷問に近い。
レンジでチンして、茹でトウモロコシができるなんて最高じゃないの。
さっそくやってみよう。
わたしはトウモロコシの外側の皮を剥き、水をかけてラップで包み、電子レンジに入れる。600ワットで5分に設定して加熱ボタンを押して、他の作業にとりかかった。
5分経って、加熱終了のお知らせ音。
チーン。
ちょっと待って、今手が離せないの。
しばらくすると、また念押しのお知らせ音が鳴る。チーン。
わかってますって。忘れてませんから。くどいなあ。
今取り出そうと思っていたのにぃ。
まるで反抗期の中学生だ。
今宿題やろうと思っていたのに、言われたらやる気が消滅する。
このときのわたしは、まさに中学生。
二度目のチーンには、イラっと来る。
忘れてませんから………(その時点では)
すこし経ってから、トウモロコシを取ろうとして電子レンジの扉を開けた。
中からもあっと、熱い蒸気が出てくる。
あ、熱い。
これは手で持ったら火傷するレベルだわ。
一旦、冷ましてからにしよう。
わたしはそう言って再び電子レンジの扉を閉めた。
扉を閉めトウモロコシが視界から消えると、わたしの記憶からもそれは消えてしまった。
*
その時の茹でトウモロコシが、今この電子レンジの中で冷たくなって横たわっていた。
ごめんなさい!トウモロコシさん。
あなたのこと、すっかり忘れていたわ。
トウモロコシは喋った。
という妄想をした。
「ボクはずっと待っていたんだよ。暗い電子レンジの中でひとりぼっち。
でもやっと、扉が開いて光が射し込んだんだ。
よかった、助かった。
ボクの身体はママに持ち上げられて、お皿のベッドに置いてくれる
と思ったのに
あーれー----」
トウモロコシくんは、また暗い闇の中へ放り込まれた。
さっきまでとは違う闇の世界へ。
「ごめんなさい。夜中は寒かったからたぶん腐っていないと思うんだけど、
でも、万が一食べてお腹壊したら、仕事中つらいだろうし…
いろいろと思い悩んだ結果なの。
本当にごめんなさい、トウモロコシくん!」
かくして、トウモロコシはゴミ箱へと廃棄された。
わたしが悪かったという反省と後悔の念が無かったわけではない。
これでも廃棄する瞬間は心が痛んだ。
でも、これってわたしだけが悪いのかしら。
いつも人のせいにする悪い癖が心の隅の方で頭をもたげる。
だいたい電子レンジが悪いのよ。
二度目のチーンは、チーンだけじゃわからないのよ。
ちゃんと自己主張してくれなきゃ。
「もしもし、お忘れではありませんか?」
と言って、肩をちょんちょんしてくるとか、エプロンの端を引っ張るとか。
もっと、気が付くように教えないから悪いのよ。
トウモロコシくんの遺体を遺棄したことは、電子レンジも同罪だからね。
わたしは、自分の物忘れを電子レンジのせいにした。
これって、あるあるよね。
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