第5話

本当に食事まで用意してくれた。

パサパサのパンと水だったけど、文句は言いません。貰えるだけ感謝です。


「どこまで覚えてるんだ?」


ボブが質問してきた。

どう答えようか。やはり真実の中に嘘を混ぜるのは良いかな。

全部嘘だと、後で整合性が取れなくなるし。


「家に居たのは覚えてるんだけど……」

「俺の事は判るよな?」

「ああ。ボブだろ?」

「久々に呼ばれたな、そのあだ名。懐かしいなぁ。村の皆は元気か?」

「俺の両親は3年前に死んだよ」

「えっ?! そうか……」


親が死んだ事を言えば、村の事とか追求されなくなるかなと思って言ってみた。

事実3年前に死んだんだよね。一人は病気で、一人は交通事故で。

誤魔化せたかな?


「これからどうするんだ? 朝になってから村に戻るか?」

「……いや、出来ればこの街でお金を稼ぎたい。今は戻りたくない……かな。ある程度稼いでから戻ろうと思う」


ちょっと悲壮感を出して言ってみた。

同情してくれるかな?


「そうか。伝手はあるのか?」

「無い……な。どうしたら良いと思う?」

「そうだな……金は少しだけど貸してやろう。後は宿か。何か担保があれば後払いでも良い所がある」

「良いのか?」

「俺とお前の仲じゃないか。そう言えば身分証は持ってないのか?」


やはりあったか、身分証。

一度見せて貰えれば、明日にでも模写して具現化させるんだがなぁ。

ここは素直に話そう。


「持ってないな」

「そうか。強盗に入られたなら、盗られてる可能性もあるな」


どうやらこの世界でも他人の身分証を使う事はあるようだ。

見た所、印刷技術とか低そうだもん。写真でも無ければバレにくいよね。


「再発行の手続きが居るな。明日にでも再発行しに行くぞ」

「判った」


本当に良いヤツだな、ボブ。

さすがに罪悪感が湧いてきた。


…………よく考えたらこれって、洗脳じゃないか?!

よく考えなくても洗脳だ!!

しかも詐称の片棒まで担がせてる!!


ゴメンなボブ!!

具現化で美味い物が出せたら食べさせてあげるよ!


「俺は朝までだから、この部屋で待っててくれるか?」

「勿論だよ。悪いけど頼む」


今日はここに置いてくれるらしい。

朝になったら、街に案内してくれるそうだ。


椅子を並べて簡易的なベッドのようにもしてくれて、何かの毛皮まで持ってきてくれ、ここで寝られるようにしてくれた。

助かります。




翌日。ボブに起こされた。

ボブは着替えていて、村人Aな格好になってた。


「よっしゃ、行こうぜ」

「よろしく頼む」

「朝飯は屋台で良いよな? オススメがあるんだよ!」


ああっ! そんなに旧友と会えて嬉しいって感じを出さないで! 罪悪感が、最悪感が~!!




何かの肉を焼いた物をボブのおごりで食べて、宿を借りてくれて、身分証再発行に付き合ってくれて、金を貸してくれて、街の案内してくれたボブとは、仕事に行くと別れた。

俺は罪悪感に押しつぶされそうです。


本当ならボブにかけた洗脳が解ける前に街を出たいのだが、罪悪感がそれを許さない。

手に描いた著作権マークが消えたらどうなるのだろうか?

……他人に戻るのかな?

怖い事を考えてしまった。考えるのを止めよう。


とにかく。衣食住は確保出来た。後は借りた金が無くなる前に収入を得ないと。




仕事だ。後はレベル上げ。

街には冒険者ギルドがあった。定番の冒険者だ。

俺に出来るか? 考えるまでもない。無理。

GGGGの俺に出来る事など無い!! そこら辺の子供にやらせた方が良い。


俺に出来る事と言えば、絵を描くくらい。

絵師として稼ぐか。

でも、ラノベの知識くらいしか無いけど、絵って貴族とかが自画像を描かせてるイメージ。

一般人に絵を飾るなんて余裕があるかなぁ。

地球の歴史で考えると、金持ちがパトロンになる感じ?


まぁ、これしか取り柄が無いのだ。

とりあえずは絵師として働いてみよう。



次にレベル上げ。

草原を歩くだけで上がるんだろうけど、生まれた時からこの世界に居る人に追いつける訳が無い。

32歳の平均値くらいまでは上げたいんだけど、それにはやはり動物を狩るしか無いだろう。

金を稼いでから、冒険者を雇って熊退治とかに行くしかないか。


あっ、一つだけズルい方法を思いついた!

自画像を描いて、注釈に「レベル200」とか描いたら反映されないかな?

幸いお試しが1回残ってるし。

後で実験してみよう。



さて当面の目標も決まった。

絵師として働く。外に出て自画像作戦を試す。


よし! じゃあ画材を買いに行くか!

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