第5話 不穏な影

「……それでお前は俺に調べ物させといて、自分はデートしとたんか!」

「いたたしてない、デートなんかしてない」


 黒霧にこちらで調べて起きたことを伝えた結果、変な方向へと話が進み、プロレス技を掛けられている。

 抜け出そうと思っても抜け出せない。

 え、力強くない? まじで痛い。


「お前の話からすると、その女子可愛いじゃねぇか!」

「そんなことを気にしている暇なかったつうの!」

 

 飽きたのか、黒霧は解放してくれた。ベットに座り込み、口を開いた。


「そのA子とやらとコンタクトを取り、絵も一緒に取り行くってか」

「そっちはなんか有益な情報合った?」

「いやないな、お前の方が情報を持っている」

「一見するとな、A子という存在に信憑性はない。けれどこの絵はある気がする」

「重要な手掛かりだ。気を引き締めていけよ。こっちはこっちでまた調べとく」


 そう言い残すと、黒霧は帰っていた、ほんま自己中め。

 と、内心で毒を吐きながらも柚子さんとの会話を思い出す。

 あの時、一緒に行くという約束は取り付けられた。そこまでは大丈夫。

 問題を挙げるとすれば、平日の夜に忍び込んで取りに行く。

 ただの不法侵入、見つかったら大ごとやろうな。

 そもそもとして、いつ行くのかすら決まってない。連絡を取ってみるか。

 スマホを手にした途端、突然雷が鳴り、先ほどまで晴れだった天候が大雨に変わる。

 なんか不気味と感じた、雨が止む気配を感じられなかった。

 カーテンを閉めようと立ち上がり、窓を見ると、そこには人影が合った。


「え……」


 反射的に振り返るとそこに誰もいなかった。

 映ったのが黒霧や柚子さんならばどれだけ良かったのだろう。

 そこに映ったのは水滴が垂れるほどに濡れた長髪に、白のワンピース。

 右手にまるで血で濡れたような刃物を持ち、僕の背後にいた。

 顔は見えなかったけど――決して生身じゃない。


「ふぅー、考え過ぎだ。幻覚を見るなんて」


 思っていた以上に自分を追い込んでいたんだな。

 カーテンを閉め終わる――次の瞬間。

 部屋の電気が消え、真っ暗になる。まさかさっきの雷でショートした?

 仕方ないと思い、スマホの光を頼りにブレーカーを見に行こうとする。


「おいおい嘘でしょ!」


 やばい! 逃げないと殺される! 逃げようとすると思い切り押し倒された。

 後頭部を強く打った。あ、痛い痛い。でもまずは逃げないと。

 上に何かがのし掛かる。まさかスマホの光を当てる。

 さっき窓に映った奴が僕の上に跨り、刃物を押し付けてくる。

 バタバタと暴れるが、物凄い力で抑えられている、刃が首元まで迫ってくる。

 どうしてこんな目に遭わないといけないんだ!


「手を引け……


 ドスが効いた低い声、人が発せられる声音ではない。まるで変声機で喋っている感じ。

 だんだんと意識が朦朧し……途切れた。


「……起きて下さい! ねぇ起きて!」

「ここは……う、頭が」

「頭を強く打ったみたいですから無理しないで下さい」

「ありがとうございます。柚子さん……柚子さん!? どうしてここに?」

「連絡をしたのですが、全く返事がなくてカフェの近くに行ってみたら、そこでTUさんんの写真を持っている人に出会いました」

「僕の写真を? そいつは黒髪で目付きの悪いメガネの男でしたか?」


 こくりと頷いた、いやでもまさかなと思い、スマホを開いてみると確かに柚子さんからのDMが何件か来ていた。

 それより黒霧のメッセージの方が気になった。


 『お前のことを心配している女の子いたから家教えといた。やっぱり可愛いじゃねぇかボケ!」


 申し訳程度に顔文字も送られてきた。彼奴、絶対今度あった時ぶっ飛ばす。

 柚子さんに手助けしてくれたのは有難い、けれど普通人の住所教えるか彼奴!?

 やっぱ狂ってやがる。

 

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