74 ペルソナ(1)
六月十七日 月曜日
この時期になると日も長くなってきた。少し前ならもう空が赤くなっていたのに、まだ明るい
ブラウザを開いて生見ほたるに対する掲示板を覗きに行くと、酷い書き込みの数々が目に映った。奇妙な点は『
スクロールして眺めるうちにノックをせず入室する、
優が入ってくるなり長机に広げた数々は不思議なラインナップだった。郁人はそのうち一つを手に取りながら思わず疑問を声に出す。
「どうしたの、これ。宮城お土産セット?」
「郁人もそう思うよな」
笹かまぼこ、真空パックされた牛タン、それから箱。箱にはずんだ入りチーズケーキ、と書いてある。おそらく文字通りずんだの入ったチーズケーキのホールが箱の中に納まっているのだろう。
疑問点はなぜこのラインナップなのだ、というところだった。共通点を見つけるなら仙台の名産物だということ。
「ほたるが日曜日も朝早く出かけて行ったんだよ」
「待って。『日曜日も』ってなに?」
「土曜日も出かけてたらしい。有名なとこのカヌレ買ってきたっつってたから二人で食った」
「それで日曜日は仙台に行ってきたかもしれないってこと?」
郁人の質問攻めに優は肩をすくめる。
「とにかく全部お持ち帰りして。牛タンとケーキはさっきまで教員室の冷蔵庫に入ってたから大丈夫」
「賞味期限とかそういう問題じゃなくってさ。ほたるちゃん、何してるの?」
「さあ」
郁人は何も聞いていないのか、と尋ねたかったが優の様子がおかしかった。金曜日もそうだ、やけに苛立っていた。今も、投げやりな態度が気になる。
「……佐倉、体調悪い?」
そそくさと帰ろうと、リュックを背負った優の肩を掴む。気の抜けた一瞬の表情は、眉間にしわが寄っていて血の気が引いた顔色をしていた。酷く青ざめている。
「今にも倒れそうだけど。ちょっと、座って」
「いや、いい。大丈夫」
「大丈夫じゃないって、薬は?」
パイプ椅子を引き出して優を無理やり座らせると、優はなだれ込むように机に突っ伏した。
優はいつもピルケースを持ち歩いている。『保安局』から指定されたいくつかの薬を忘れず服用するためだ。
郁人の質問に優は答えなかった。仕方なく、誰かを呼ぼうとすると、優が郁人の腕を掴んで引き留めた。郁人は息絶え絶えなのにしっかりと引き留めてくる優を振り向く。
「なに?」
「だいじょうぶ、だから。すぐ、よくなる」
「……ほたるちゃんを家に連れ込んだのは、急に倒れても対処できる人を確保するためだったの? なら、早く言ってよ」
優は首を横に振る。
「人はよばなくて、いい」
もう優の言葉は信用できない。呼吸が早まるこんな調子でなにも大丈夫ではないはずだ。
郁人は携帯電話を取り出して、着信履歴から電話を掛けた。
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