47 デゴルジェ(1)

五月十三日 月曜日


 日曜日、四体目の遺骸いがいが発見された。場所は鍵島市内。

 一件目は『保安局』の裏の通りで、二件目は風稜ふうりょう学園高校の裏門付近だったという。

 明らかに鍵島市に集中しているという特徴、そして何よりも、郁人や響子という風稜学園高校に通いながらも『保安局』を出入りしている人物の生活圏に頻発ひんぱつしているということがきもようだ。

 郁人は貰ったばかりのデスクに向かい、電源をつける。

 数名の職員が物珍しいもののように見ていたが、郁人の思考はどこか別の宇宙うちゅう彷徨さまよっていた。


「……死骸しがい


 四件目が一つの共通点をち切った。それは、遺骸が猫に限らないということ。三件目までは猫ばかりが対象だったのだが、日曜日の四件目ではイタチに目をつけられたらしい。

 今のところ飼い猫や飼いイタチ──イタチを飼う人間がいるかはさておき──が犠牲ぎせいになっている報告はない。

 三年前から更新されていない響子のカルテのページに飛ぶと、やけにスクロールバーが小さかった。未解決の情報が詰め込まれているに違いない。




氏名:小森響子こもりきょうこ

生年月日:20─.8.17

性別;famale

担当:白波美月しらなみみつk

最終変更日時:20─.8.31

略歴:私立羽鳥はとり学園小学校入学

   私立羽鳥学園小学校卒業

   私立羽鳥学園中学校入学

   私立羽鳥学園中学校除籍じょせき/鍵島かぎしま第一中学校移籍いせき予定

家族構成:父伸司(鉄道会社勤務)/母咲代(企業受付)




「除籍」


 三島も響子の葬式がどうとか言っていた覚えがある。亡くなった生徒への学校の処理としては妥当だとうだ。

 それから通っていた小中学校は系列校らしく、同じ学校名が記載されている。羽鳥学園、といえば郁人でも一度は耳にしたことがある。由緒ゆいしょ正しいお嬢様学校というやつだ。

 検索エンジンのウィンドウを開いて窓に学校名を入力する。

 郁人は学校のホームページと思われるリンクを開いて、口元に手をえた。


「『制服デザイン、リニューアル』……?」


 たった三年ほど前に小学校の女子生徒の制服デザインが変わっている。かつては中高等学校と同じ、紺に白のセーラー服といった絵にかいたようなセーラー服だったが、今はブラウスと襟にセーラー服のデザインを名残とした紺のジャンパースカート。

 響子の妹、小森詩乃が着こなしていた制服は明らかにリニューアル前のセーラー服だった。間違いはない。響子の昔の証明写真と同じ制服デザインだという感想を抱いた覚えがあるからだ。

 三年前にリニューアルされたのであれば、二年前に入学している詩乃の制服はリニューアル後のものでないとつじつまが合わない。本来であれば、ジャンパースカートを履いているはず。


 おさがり、と考えるにも妙だった。

 デザインが変わっていないのであれば、過去に同じ学校に通った同性の兄弟のおさがりを着るのは普通の行為だ。制服は一式ゆうに一万を超える。成長期である小学生ならなおさら、買い替えは頻発ひんぱつし金額がかさむことになる。

 しかしデザインが変わっていたら。まず、教室内では浮くだろう。他に同じような生徒がいるならおかしくないかもしれないが、それでも順当に考えれば費用が苦しくとも新しいものを買い与えるのが普通だ。それも私立の小学校に通わせる金銭的余裕きんせんてきよゆうがある家庭ならなおさら。

 ここは憶測おくそくの域を出ない上、事件に直接の関係はなさそうだが、妙に引っかかった。

 しなりのいい背もたれに体を押し付けた姿勢のまま、マウスのホールを動かす。




発見時の様子


8/24:服装、私立羽鳥学園中学校制服とみられる制服に白のビーチサンダルという身なりの少女を発見。着合わせを不審に思った『保安局』職員白波美月*1が声を掛けたところ、発言に違和感を覚え『保安局』に連行。


少女(以下、小森響子)は8/17の朝目覚めたところ、自分の隣に横たわる自分自身(figure-1、以下F-1)を見つけたと述べる。本人は「息をしていなくて顔が白かった。死んでるから埋葬まいそうしなくてはいけないと思った」と供述きょうじゅつしている。(小森響子は幼い頃から、亡くなった生き物は埋めてあげないといけないと教育を受けていた)


しかし埋める前に両親がF-1を発見。それ以来小森響子はあらゆる術(実験1)を試したが、両親には自身が見えていないと確信する。これらより小森響子は自身が死んでいるのだと認識するようになる。


小森響子は8/24に行われた自身の葬儀そうぎに出向き、親戚しんせき一同や友人らもまた自分自身が見えていないことを知る。納骨のうこつまでを見届けた響子は葬儀会場を離れ、彷徨さまよっていたところ発見された。




 白波美月との最初の出会いはここだったらしい。

 初めて会った『保安局』の人間が白波美月。三年前というと白波が入社一年目ということになる。




 関連性が疑われる事件


一回目発見時、七月二十八日。場所、鍵島かぎしま千願寺せんがんじ駅南口階段裏かいだんうらにてイエネコ(学名:Felis silvestris catus)の惨殺死骸ざんさつしがいが駅内清掃員せいそういんによって発見された。両後足の飛節ひせつが関節とは逆方向に折られた形跡、そして口には白い石鹸せっけんが押し込まれていたという特徴より、悪意を持った意図的な犯行だと思われる。


二回目発見時、八月二日。場所、鍵島市役所かぎしましやくしょ裏にて二ホンイタチ(学名:Mustela itatsi)の惨殺死骸が市役所職員によって発見された。一回目発見時と同じく両後足の飛節が関節とは逆方向に折られた形跡、そして口には白い石鹸が押し込まれていた。


三回目発見時、八月四日。場所、鍵島市鍵島駅北口からおよそ北に十メートルの地点にてイエネコの惨殺死骸が風稜学園高等学校生徒によって発見された。一、二回目発見時と同じく両後足の飛節が関節とは逆方向に折られた形跡、そして口には白い石鹸が押し込まれていた。


四回目発見時、八月十日。場所、平萩鍵島公園のえ込みに不自然な盛り上がりを『保安局』職員によって発見された。すぐに部隊員による掘り起こし作業が行われた。埋められていたのは同様に殺されたと思われる死骸計七匹だった。


注記:この死骸は完璧ともいえるほどそっくりの外部内部構造がいぶないぶこうぞうともなった異常物体であることが判明。八日十四日に行われた火葬かそうにて、一連の死骸らはちりとして何も残すことなく消滅した。灰から異常物体であったものを探すべく念入りに調べられたが、それらから生物由来と思われる繊維せんいなどは発見されなかった。

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