幼少期 19話 海賊退治って一体どういう事なんだよ!?

 例の晩餐会の翌日。

 昼食後に街を見て回ろうとしていたボーゼル一行の元に書状を持って訪れたのはもちろんテレジア。


「こちら、マルテ侯爵クリスティーヌからの書状となります」


「はい、確かにお受け取りいたしました」


 テレジア退出後、書状の中身を改めるボーゼル。予定では城の台所や食材を自由に使って良いと言う許可のはずなのだが……。


「カンセル近海を荒らし回る海賊退治の指令書? 海軍の人間及び軍船を自由に使っても良い? 作戦実行時にはマルテ侯爵も参加?

 ……いや、一体何がどうなってるんだよ!? これはあれか? 昨日揉めた事に対する意趣返し的なあれか!?」


 いきなりのことに何が何やらわからないボーゼル。

 もちろん今回のことは陰湿な嫌がらせでも何でも無く、むしろマルテ侯爵家のヴェルツ家に対する『間違った思い込み』に端を発する期待であるのだが……。


 それではここで、どうしてこうなったのかを昨日の夜のマルテ家主従の会話から紐解いてゆこう。



【勘違いの始まり】


 こちらは晩餐の後のクリスティーヌの居室。

 普段ならまず見せることのない、演技ではない苛立ちに組んだ腕を指先でせわしなくトントンと叩いている赤毛の女性。


「はぁ……まったく、ルフィーアのおかげでいらぬ気遣いをさせられたわ!

 テレジア、今回のこと……もしやお前の仕込みか?」


「仕込みとは酷いおっしゃり様ですね。私は何もしておりませんよ?

 そもそも今夜バルガス子爵を食事にお呼びになったのはクリス様でしょうに」


 色々な葛藤が無くもないが、まずは歓迎して自分の懐に相手を抱え込む……そんな思惑もあった歓迎の宴。

 その結果は? と、いえば自身の配下の暴走……だけとも言い切れない状況であったが、両者ただただ険悪な空気のままでの物別れとなった。


「我が領の重鎮の一人なのだ、他領の貴族との晩餐に呼ばぬわけにもいくまいさ。

 それにしても……あれも決して短絡的な人間では無いはずなのだがな?

 それがああも直情的に、相手に喧嘩を売るような発言をするなど思いもせぬだろうが!」


「クリス様に命じられた海賊退治がまったく進んでおりませんからね。

 海軍が出てゆけば海賊は蜘蛛の子を散らしたように逃げる、海軍が帰港すればまたどこからともなく現れて商船を襲う。

 進まぬ討伐と戦場で暴れられぬ苛つきにかなりの鬱憤が溜まっていたいたところへ裏で糸を引いていると思われるリュンヌ家の人間が現れたとなれば……子爵でなくとも多少の嫌味くらいは言いたくもなるでしょう」


「それにしても……だ。本人に面と向かって無能とはあまりにも口が過ぎるであろうが! 裏で悪口を言わないところが奴らしいと言えば奴らしいがな!

 もっとも、言われた当の本人はそれに関してはまったく気にも止めてはいなかったみたいだが」


「そうですね、他人に何を言われても何も気にしない愚鈍な人間……などでは無いのでしょうね。

 もっとも、お身内に対しての暴言にはなかなか苛烈に反応されておりましたが。

 男の身でありながら屈強な軍人であるバルガス子爵に一歩も引かず、あれだけの啖呵を切る。少しだけリディアーネ殿を羨ましく思いました」


「……もしやテレジア、ボーゼルを諌める際後ろから抱きしめたのはリディアーネに対する嫉妬心か?

 えっ? まさかとは思うが自分が一番と言われて心ほだされたのか? ボーゼルはまだ五歳だぞ? お前……今年で二十一だよな?

 それにあれはミリアヌス王女を女神などと呼ぶ悪趣味極まりない……まぁそのような男でもなければお前や私などの外見を褒めたりせぬだろうがな」


「ですからあの方を悪趣味とか物好きとか悪食とか言うのはお止めください。

 無論? どうしても私を嫁にと? 求められれば前向き、そして前屈みに考えぬでもございませんが?

 それよりも、ボーゼル殿が持ち込まれた牙猪の素材。毛皮となめし革の事なのですが……」


「ああ……あの騒ぎで完全に頭から抜けていたが、食事中にそのような手土産があると申していたな。

 私はまだ見も触りもしていないのだが、どこかおかしなところでもあった……お前の後ろにある箱がソレならばそうではないのか。

 もしもおかしなところがあったならばこの部屋に持ち込むはずなどないであろうし……それで、その猪の皮がいったいどうしたというのだ?」


「どうもこうも、ボーゼル殿が食事中に仰ってた通り、いえ、仰ってた以上に素晴らしい……凄まじい品でありましてですね。

 私が長々と説明するよりも、クリス様に直接見ていただいたほうが早いと思いますので……どうぞ」


 箱の中からなめし革、そして毛皮を取り出しクリスティーヌに手渡すテレジア。


「ほう、これはこれは中々に立派な。綺麗な飴色に鞣されたなめし革と烏の濡れ羽色の様な漆黒の毛皮。共に貴族の装いとして……いや、ちょっと待て! これは……一体何なのだ?

 これまで何度も、牙猪のなめした革もそれを加工した革鎧や馬具も見たがここまで均一の厚さにになめされたモノなど無かったぞ?

 いや、そんなことよりだ。これほど大きな、頭から足まで繋がった一枚革であるのに角と目以外の場所に穴一つ開いていないとは一体どういう事なのだ?

 もし罠で仕留めたとしてもどこかに大きな傷痕が付くはず。ボーゼルの話では食卓に頻繁に肉が並んでいると……つまり毒を用いて仕留めたわけでもないということだろう?」


「そうなのですよ、どう考えてもありえない品でしょう? そして、それが一枚だけならば……偶然運良く手に入れたモノを手土産としてクリス様に献上したのだと納得したのですが……。

 持ち込まれたのはそれだけではなく同じ大きさのなめし革がさらに二枚、こちらも同じ大きさの毛皮が追加で二枚」


「どれもこれも疵のない……これは牙猪なのだよな? この毛皮、ちょっとどころではなくおかしくないか? 牙猪の体毛は針にも等しい硬さ、外套にすれば剣の一撃にも耐えうる強度のはずなのだが?

 それが子猫の産毛のような柔らかな手触り、そして漆黒の闇のような黒さにもかかわらず光を反射してキラキラと輝いている……一体どのような加工をすればこのようになるというのだ?

 確か土産は皮だけではなく肉もあったと言ったな? そちらの確認もしてあるのか?」


「はい、肉もそれらに負けず劣らず、あらゆる場所から食材の集まる我が家の料理人でもこれまで見たことのないような綺麗な、そして芳醇な味の赤身、そしてまったく臭みのない、旨味と甘味を感じる脂身……

 焼いただけのモノを毒見役の後で私も口にしてみましたが、今までに食べていた肉は一体何だったのかと思うような、ボーゼル殿が肉がお好きだと言われるのが納得できるだけの素晴らしいお味でした」


「もう食したのか!? というか、肉嫌いのお前がそこまで褒めるとはどれほどのモノなのだ……

 それにしても、これほど立派な大きさの革と毛皮、それも一枚ならず六枚もだ。

 金で替えるような物でもなければ金自体が無いであろうリディアーネが持ち込むなどおかしすぎるであろう?

 もちろん、お前が絶賛するような、下級貴族の食卓になど並ぼうはずもない上等な肉も含め……テレジア、これをどう思う?」


「そう……ですね。

 逆にお尋ねして申し訳ございませんが、クリス様はカンセル海軍が大黒鮫を毎日仕留めることが可能だと思われますか?」


「そのようなこと無理に決まっているだろう。

 いや、仕留めると言うだけならば無論可能であろうが、広い海の中から獲物を見つけ、そこから追い込むのにどれだけの時間が必要か」


「そうですよね。それと同じように、牙猪など狩ろうと思って狩れるような獲物ではございません。

 もちろんその住処は無限に広がる海ほどではございませんが……未開の山の中を駆けずり回り、他の危険な獣に気をとられながら牙猪だけを無傷の状態で仕留めるなど、あの人数のヴェルツ騎士団ではとても叶うことでは無いかと。

 しかし、そのようなことをせずとも定期的に肉や素材を手に入れる方法……クリス様もご存知ですよね?」


「もちろん心当たりはあるが……まさか!? リディアーネは牙猪を養殖しているとでも言いたいのか!?

 そのような馬鹿なことが……小魚や動かぬ貝ではあるまいし、五人がかり、十人がかりで囲んで倒すような獣を飼いならすなどと」


「そこでボーゼル殿です。

 虎の鈴……マリーベルが土産は騎士団ではなくボーゼル殿の手柄によるものだと言っていたでしょう?」


「はっ、はははは! なるほど、あれは見栄を張っての発言などではなく、全てはボーゼルの力であると、真実を語っていたと言うのか! 五歳児であるぞ? バルガスでは無いがそのような馬鹿なことが」


「クリス様、ボーゼル殿を見て、そして話して、あの方が五歳児だと本当に思われていますか?」


「……確かに、ボーゼルのその振る舞いや発言……確かに子供のモノとは思えぬが……しかし、そうなってくると王都から伝わってきた無能だと言う話も……

 くっ、ふふっ……なるほどな……そういうことか!

 はっ、はははは! はははははは!!

 リュンヌの古狐め、追い出した娘に試され、そして出し抜かれたな!」


「おそらくは……クリス様のお考え通りかと。

 どういったカラクリかはわかりませんが五歳式ではボーゼル殿の天職を隠し、その反応を見て以降のリュンヌ家へのそれよりの、今のこの対応を画策したのでしょう」


「そうだな、もしも本当に私とお前が考えるだけの力がボーゼルにあるとすれば……これまでの自分に対する仕打ちを思えば、能力のある息子を実家とは言え素直に差し出すなど考えられぬ事だからな。

 そしてリディアーネの予想……いや、予定通り、何も知らぬマレグレーテはボーゼルを無能と見下しヴェルツ家ごと三行半を突きつけ切り捨てた。……切り捨てられたのは当のリュンヌ家であるとも気づかずに。

 しかし……実家に対する復讐がしたいのならば多少時間は掛かるであろうが、息子の力を前面に押し出すだけで十分にリュンヌ家の家督の継承も、寄り子たちの掌握も出来るであろうに……どうしてこのような回りくどいことを?」


「リディアーネ殿が恨んでいるのはリュンヌ侯爵家だけとは限らないのでは?

 むしろ、あれだけの才媛をあのような辺境へと押しやった王家をこそ強く憎んでいるという事は無いでしょうか?

 そして、仮に王家を憎んでいなかったとしても……今の王族、女王陛下の体たらくを考えれば……そしてそれらを総合し、今まで面識すら無い、むしろ敵対していたクリス様の元を訪れた理由を推し量れば」


「まさか……これまで表に出したこともない私の王家に対する叛心を見抜いて近付いてきたとでも言うのか?

 そのようなこと……いや、ボーゼルは既にミリアヌス王女と接触、仲睦まじくしていたのであったな……王都での五歳式に王女が参加するのは先に分かっていたこと……つまりリディアーネはリュンヌ家に三行半を突きつけるためだけではなく反女王の旗頭となるであろうミリアヌス王女を手に入いれるために五歳式を利用したと言うのか!?

 しかし……それならば今回のカンセル来訪は対王家を目的とした我が家との秘密同盟であろう?

 それが、その傘下の貴族に喧嘩を売られたくらいで全てをぶち壊すような、あのような過剰な反応をしめすだろうか?」


「クリス様、その時にボーゼル殿は『ご自慢の木の棺桶ごと焼き尽くして皆殺しにしてやる』と口にいたしました」


「確かにそう言ったな。売り言葉に買い言葉とは言え、中々に勇ましい……いや待て!

 リュンヌ家の家職、今では勇壮な槍使いと認識されているが、かの家の初代は炎魔法の使い手だったと聞く。

 もしや……それが今になって、その力がボーゼルに顕現したということか!」


「無くはない、むしろ炎魔法の力『も』持っていると考えるのがよろしいかと。

 そして、そもそもその言葉……本当にバルガス子爵に向けられた言葉なのでしょうか?

 私には不甲斐ない海軍とルフィーア殿に対する苛立ち、そして『己なら今すぐにでも海賊など焼き尽くしてくれるのに!』と言うつまらないことに時を費やしているマルケ家に対する憤りの現れであったとも受け取れるのですが……」


「……なるほど。いや、それだけではないだろうな。ボーゼルのそれまでの理知的な対話からの、あの不自然な激怒だからな。

 リディアーネめ……こちらが真意に気づくかどうか二重、三重に試していたのか。

 そしてそれだけの手がかりを与えているにも関わらず、こちらがソレに気づかなければ散々っぱら笑ってやろうと思っていたと?」


「私の義母になる方をあまり悪しざまに言われるのは……むしろ真意を気付いてもらわなければ困るのはあちらもですからね?

 出来るだけ早急に分かりやすくと気を使われていただけだと思いますが。

 まぁ彼女の天職は『参謀』、それも上位職の『軍師』だと聞き及んでおります。悔しいですが……その考えのすべてを読み切ることは我々では難しいかと。

 そしてそんな彼女の息子、ボーゼル殿の能力は完全に未知数……」


「未知数……未知数ではあるが……それが天才であるとは限らぬだろう?

 あと、リディアーネはお前の義母ではないからな?」


「ふふっ、今はまだ……ですけどね?

 しかし、もしボーゼル殿が天才であったとしても、そうでなかったとしても……クリス様はそう伝え聞いただけで、口だけでその能力を信用なさいますか?」


「まさかそのような……なるほど、つまりボーゼルの『船を燃やし尽くす』という過激とも取れる発言は『海賊を始末する様子を見せてやるからそれを持ってお前らが俺の力を判断しろ』と言う意味合いまで含まれていたのか!?」


「はい、間違いないでしょう。

 ですのでここはその思惑に乗ってみてはいかがかと。明日――」


 ……ただのマザコンがキレただけの事案を凄まじく遠回りに思考した挙げ句、まったく当て外れな勘違いをされ『海賊退治』を押し付けられようとしているボーゼルであった。



【突撃! 侯爵家の朝ご飯!】


「俺も含めてだからあまり偉そうには言えないけどさ。

 うちの家族って……全員、あまりにも沸点が低すぎるんじゃないかな?」


「あら、今回マリーはずいぶんと我慢をしたと思いますよ?

 普段なら食事用のフォークなどではなく大ぶりのナイフを投げつけていたはずだもの。

 ……ふふっ、それにしてもボーゼルちゃんのあの啖呵……やはり一番大切なのはおかぁちゃまなのね?」


「リディアーネ様、その前に私のことも身を挺してかばってくださっておりますので」


 実家(リュンヌ侯爵家)だけじゃなくマルテ侯爵家にまで喧嘩を売ったのに普段通りの呑気な会話をする俺達。

 あの後、マルテ侯爵が自ら頭を下げてまで謝罪してくれたんだけど……最上位貴族に頭を下げさせるとか、それはそれで禍根が残りそうで怖いんだよなぁ。

 俺的にはテレジアお姉さんが『ボーゼル殿、落ち着いてください』と後ろからギュッてしてくれたからこれといって後腐れなどは……むっちゃあるんだけどな!

 おかんに喧嘩を売ったバルガス子爵とか言うあの女、隙あらば絶対に船ごと沈めてやる……。


 まぁそんな俺達なのだが、その日はそのまま何事もなく普通に就寝。


「暗殺者が送られてくるかも知れませんので!」


と言うマリべが俺のベッドに潜り込み、俺を抱き枕にしていたのだが……いつものとこなのでどうでもいいな。

 ……そして問題が起こったのは翌日。

 朝から部屋でのんびり二度寝~などとマリべに抱きついてダラダラしていたところ、メイドさんから「侯爵閣下がご一緒に朝食をと申されております」と伝言。

 何だ? 今になって苦情か?


 用意されていた、昨日とは違うが相変わらず王子様チックな服装に着替えた後でおかんとマリべと共に案内されたのは昨日の食堂……ではなく、おそらく侯爵の私室の前室と思われる部屋。

 これもう苦情どころか暗殺コースじゃね? それにしては侯爵もテレジアお姉さんもスッキリとした顔をしてるんだけど……もしかしてこの二人もおかんとマリべみたいな関係? 何だそのおっぱいパラダイスは!?

 思わず、


「……出来ることなら昨晩のうちに呼んで欲しかった……」


 と、口にしてしまったのは仕方のない事ではないだろうか?

 まぁ侯爵もテレジアお姉さんも驚いた顔はしたが不快感などは無く、


「ふっ、はははは! 侯爵家の『秘事』に混ざりたいとは何とも剛毅な……そうだな、確かにその方が色々と捗ったであろうからな!」


 やはり秘事だったのかよ! もうそれは素晴らしく色々と捗った……いや、でも今の俺の下半身には巨乳美人二人を相手にするだけの戦闘力など……死ぬ前の俺にもそんなものは無かったけれども!

 大きなテーブルの前にスープとパン、そしてハムエッグならぬ豚バラエッグ、焼き菓子に紅茶などなど並べられてゆく。


「さて、朝から来てもらったのは他でもない、昨日のリディアーネ殿とボーゼル殿の真意を少しだけ読み取れたからであってな」


「真意……ですか?(昨日うちの家族が全員キレた原因……つまりうちの家族仲が異常に良いってこと?)

 まさか二日目にしてバレてしまうとは……隠しているわけでは無いですが少々お恥ずかしいですね」


「ふふっ、もちろん全てでは無いのだろうけどな? むしろこの屋敷の玄関で挨拶したときより『おや?』と思わせる所は多々有っただろう?

 アレは逆に、こちらに『ソレ』を知らせようという意図のある行動であったのでは?」


「(玄関? 俺、玄関でなにかしたっけ? これと言って思い当たらないんだけど……もしかして部屋割りの時にマリべが俺と同じ部屋がいいとゴネたこととか? 良く分からんがとりあえず褒めとくか?)まさかそのような……マルテ侯爵閣下は噂通り怜悧なお方、もしも気づかれたのならばそれはひとえに閣下の観察眼と洞察力の賜物でありましょう」


 まぁそんなことより今はこの、オシャンティなホテルのブレックファストって感じの朝ご飯である! オシャンティの意味? たぶん『オシャ』繋がりでオシャレと同意語なんじゃね? 知らんけど。

 目玉焼き……黄身が半熟の目玉焼き……ちなみに俺はハムとかベーコンが添えられた目玉焼きにはウスターソースとマヨネーズ、目玉焼き単品の場合は醤油、ところによりマヨとケチャップである。


「目玉焼きと豚バラ……この取り合わせならばソースマヨではなく甘辛いタレで豚丼にすると言うのもアリ……

 パンならバターをたっぷりと塗りつけてチーズと一緒に挟んで食べるのもアリ……

 そういえば昨日の食事は塩がメインの味付けだったな。港街だし醤油とまでは言わないけど魚醤も無いのかな?」


「(テレジア、ボーゼルが小さい声で何かをつぶやいているがどういうことなのだろうか?)」


「(いえ、普通に食事の話をしているだけではないでしょうか?)」


「(何を馬鹿なことを……あれだけ真剣な顔で朝食の事を悩む人間などそうそうおるまい?)」


 もちろん朝食のことを、むしろ昼食と夕食のことまで考えているボーゼルである。


「(ソースマヨ……ブタドン……チーズと一緒に挟む……アレは何かの隠語なのでしょうか?)」


「(詳しくは分からぬが、目玉焼きと豚バラだけではなく何かを追加してまとめて食べる……つまり一網打尽にしようという事か!?)」


「(なるほど、どうやら我々が彼らの考えに気付いたと告げたことで作戦は次の段階、おそらくは海賊退治の方法を煮詰めているのでは?)」


 繰り返すがただただその日の食事のことを考えているだけである。


「ボーゼル殿、盗み聞きするようなつもりはなかったのだが……」


「えっ? ああ、申し訳ございません、ついつい食材をどう料理すれば美味しくなるかと考えこんでしまいまして。どうせなら『食材の全てを味わい尽くしたい』ではないですか?

 思いつきではありますが、ご迷惑でなければその際には侯爵閣下にも一緒にご賞味頂ければ……きっと喜んでいただけるかと思います」


 美味しいご飯と巨乳のお姉さん……それはこの世の天国だからな!


「ふふっ、なるほど。はははは! なるほど、『食材の全て(海賊のみならずそれを仕掛けてきたリュンヌ家まで)』を『味わい尽くす(逆ねじをくらわせる)』か! もちろんその際には私も参加させてもらおうではないか!

 そうだな、手間を掛ける詫び……というわけではないが、必要なモノはこちらで先に用意させてもらうおう。ボーゼル殿は雑事を気にかけること無く全力で事に当たって貰えると有り難い」


「お、おう……」


 何だろう? えらくごきげんさんだなこの人……いや、この人も大貴族様だもんな。きっと美味しいものに目がない食いしん坊さんなんだろう。



 そして時間は昼食後に戻る……。

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