幼少期 18話 お城、晩餐、大惨事。

 王都のリュンヌ侯爵家に呼び出された時とは違い、マルテ侯爵家腹心による道中の露払い、そしてお城では当主――クリスティーヌ直々のお出迎えという身に過ぎた対応を受けたヴェルツ家一行。

 ……まぁ対応が良すぎるのも胡散臭いと感じてしまう、人間嫌いの野良猫レベルで捻くれ者揃いのヴェルツ家なのだが。


 男である俺に大浴場を使わせるわけにはいかない(決して『俺がいやらしい目で侯爵とママ……テレジアお姉さんを見ていたから』ではなく、俺が『他の女性にいやらしい目で見られないために』だからな?)ため、少し小さくはあるが部屋に風呂まで付いていて一声かければ即座にお湯の用意(メイドさんのバケツリレー)が完了すると言う、至れり尽くせり(マンパワーの凄まじい無駄)な部屋に案内されたのだが、俺もマルテ侯爵かテレジアお姉さんが入浴中に大浴場を使いたいんだけど?


『お手伝いいたします』と言うお城のメイドさんの言葉をやんわりとお断りして一人のんびりと温めの風呂に入浴。

 いつの間にか用意されていた着替え――アラビアンナイトの王子様の様な衣装はまるでオートクチュールのように俺の身体にぴったりとフィットする。

 これ、女児用の服なら『来客用に最初からいろんなサイズの衣装を用意してあったのかな?』って思うだけなんだけど、男児用の服なんてこの世界では使いようも無いだろうに……もしかしてヴェルツ家の先触れが届いた時に急遽用意したのかな?


 服がおニューなら当然下着もおニュー。真っ白のツルッツルの下着にそっと足を通す。

 ああ……いつもの木綿のパンツではなくシルクのパンツの滑らかな肌触りがとても股間に優しい……。

 窓に向けられたソファに腰掛け、完全にリゾート気分でまたまた海を眺める俺。


「ボーゼル様、今回もそろそろ家探しに向かい……何ですかその恍惚の表情はちょっと気になるのでオ○ン○ン出してもらってもいいですか?」


「いや、さすがに完全に他所様なお城を勝手にウロウロしちゃ駄目だろ! あと○ン○ンは出さねぇよ!」


 ちなみに今回は(隣同士ではあるが)マリべも一緒の部屋ではなく個室となっている。

 というより多少狭くはあるが、うちの騎士団の面々まで来客用の個室が与えられているという。


「そのへんはご心配なく。

 城のメイドの案内が付きますが城内は自由に見て回っても良いと『パンテール子爵』の許可を頂いておりますので」


 誰だよパンテール子爵って……ああ、テレジアお姉さんのことなんだ?

 日本の城ですら大阪城と姫路城くらいしか登ったことが無い俺、当然西洋の城の中になんて入ったことなどあろうはずもなく。

 ……もちろん西洋のお城風の建物(男女が使う例のホテル)も行ったことはないんだけどな!


「さすがマリべ、仕事が早い。というか本来のお仕事……持ってきたお土産を渡したりとかもちゃんと済んでるんだよね?」


「当然でございます」


 何だかんだ性格(性癖?)方面に大問題のある駄メイドマリべだが、こと仕事に関しては一切の抜けがない有能ぶり。

 ……繰り返しになるが、性格に途轍もない問題を抱えているんだけどな。

 そして、たぶん気を使われた結果だと思うけど……俺の部屋にお付きのメイドさん、この城の中で見かけたメイドさんの中では飛び抜けて『この世界基準での美人さん』なんだよなぁ。


 そこそこゴツいと言うか、かなりイカツイ外見をした『某M-16をメイン武器にしてる凄腕スナイパー似』のメイドさんに見張られてるようで非常に落ち着かない。

 もちろん何も悪いことなどしていない彼女に『チェンジ』とか言っちゃうと何か粗相でもしたのではないかと奥で叱られそうだから交代させてくれなんて言えないんだけどさ。


「と言うか、お城の中もだけど街とか港も見てみたいし、徒歩で行けるくらいの距離の浜辺で遊べるような場所とかないのかな?」


「申し訳ございません、さすがに今から街に出ると言うのは無理かと。

 うちの騎士団だけでは土地勘などもありませんし、いきなりマルテ家より案内や護衛を出して頂くのはご迷惑が過ぎますので。

 あと海で遊ぶとは一体どういう? 港を出入りするトルチェ商会の商船に火矢を射掛けるとかそういう?」


「そんな物騒な遊びしねぇよ! そしてトルチェ商会に対する恨みが根深いな!

 てか海で遊ぶと言えば普通は波打ち際で戯れるとか、砂で山を作るとか、キャッキャウフフと抱き合いながら泳ぐとかだろ!」


「何ですかそれ?

 波打ち際で戯れる……漁村の村人が総出で網を引くみたいな感じでしょうか?

 砂で山を作る……砂は積むと崩れてしまうと思いますが新手の拷問か何かですか?

 最後のキャッキャウフフと抱き合いながら泳いでるのは、どちらかが溺れていて助けに行った人間に抱きついた挙げ句に二人とも溺れてしまう二重遭難?

 海兵の精鋭でもあるまいし、何の訓練もされていない人間は泳いだり出来ませんよ?

 海の中には船に絡みついて沈めてしまうような生き物も大量にいますので、船に乗ることすらオススメいたしません」


「ナニソレ怖い」


 あれ? もしかしてこの世界では海水浴っていう文化自体が存在しない?

 えっ? 俺のマイクロビキニの美女とナイトプールでフィーバーする野望はどうなっちゃうの?


「と、とりあえず今日はお城の散策だけで勘弁しておいてやろう……」


 部屋でのんびりしていたおかんも加わり、三人揃ってお城のメイドさんに案内されながらだらだらと城内を見て回る俺達だった。

 ……さすがに今回は俺もおかんも声に出してこの城の落とし方を語り合ったりはしなかったからな? 脳内では色々と考えてたけど。

 廊下、中庭、廊下、図書室、廊下、尖塔、廊下、廊下、廊下……。

 なんかもう後半は廊下を歩いてただけって感じだけど、思ったより楽しかったカンセル城案内ツアー。


「惜しむらくは大浴場とか地下牢とか拷問室とかテレジアお姉さんの私室が見られなかったことだな」


「ボーゼルちゃん、さすがにそのような場所に案内など……と言いますか何なのかしら最後のは? おかぁちゃま、あなたが私以外を『ママ』と呼んだこと、まだ許してはいないのだけれど? むしろ四半世紀は根に持つ予定なのだけれど?」


「あら、ボーゼル殿がお望みなら私の私室くらいいつでもご案内いたしますよ?」


「ではさっそく! 今すぐにでも二人きりで向かいましょう!」


「ボーゼル様、そのようなことはこの私の目が金色に輝いているうちは許しませんが?」


 なんでや、うちは貴族だけど自由恋愛制度やろ!


「……これはこれはテレジアお姉さん……いや、パンテール子爵閣下とお呼びした方がよろしいのでしょうか?

 まずは城内の見学をお許しいただいたお礼を」


 どこからか現れた……わけではなく、進行方向で普通に立ってたテレジアさんに軽く会釈してお礼を言う。


「ふふっ、お気遣いなくテレジアでもお姉さんでも……いえ、ママと呼んで頂いても結こ「ママっ!」「いいわけがないでしょう!?」……ふふっ、ボーゼル殿だけではなくリディアーネ殿も噂とは違い楽しい方ですのね。

 あと少しで晩餐の用意が整いますのでお部屋でお待ちいただきますようにお願いいたしますね?」


 こちらに会釈を返して去ってゆくテレジアさん。

 いや、軽く頭を下げるだけでブルンブルンするって一体何事だよ!?


「はさまりたいうまりたいかんしょくをたしかめたい」


「ボーゼル様、お気を確かに。

 あのようなものはただの脂肪です。少しだけ刺突や殴打に対して強度が上がるだけのただの装甲です」


 思わず迸るパトスが口を突いて出てしまったが、別に小さなおっぱいが嫌いなわけじゃないんだからねっ!



 ……テレジアお姉さんに伝えられた通り部屋に戻り待つこと三十分弱。


「食事のご用意が出来ましたので奥の食堂までご案内させて頂きます」


 と、俺の部屋付きのゴルゴ……メイドさんから声がかかったのでおかん、マリべと合流して食堂に移動することに。

 お貴族様とお食事とか晩餐って婆様のおかげであまりいい思い出が無いんだよなぁ。今のところマルテ侯爵は友好的な雰囲気だし? 派閥の人間を集めて俺達をさらし者にするなどということは無さそうだけど……果たしてどうなるだろう。


 そしてわざわざ『奥』とメイドさんが言っただけのことはあり、城の見物時には案内されなかった衛兵さんが守っている廊下の奥――おそらく来客用ではなく侯爵家のプライベートな食堂まで案内される俺達。

 重厚な扉の前に佇むのは二人のメイドさん。こちらにペコリとお辞儀をしてから「ヴェルツ家の皆様がいらっしゃいました」と中に声を掛け、室内からの『お入りいただけ』の声で両側から扉を開いてくれる。


 室内はこの世界基準では凄まじく明るく、ガラスが燦めくシャンデリアと銀の燭台の光に照らされ、二十人くらいは一度に食事を取れそうな大きくて長いテーブルの一番奥には赤い髪の女性『マルテ侯爵』が座り、彼女から向かって右側、テレジアお姉さんを筆頭に知らない女性が四人腰をおろしていた。


「リディアーネ殿、ボーゼル殿、マリーベル殿。先程顔合わせはしたが改めてカンセルへようこそ。

 本来なら我が領の貴族を集め、大々的に歓迎の宴を開かせて貰うところなのだが……リディアーネ殿の実家であるリュンヌ家と我がマルテ家は少々因縁のある間柄。まずは少数で親睦を深めることからの方が良いかと思い内々の食事会とさせてもらった」


 案内してくれたメイドさんに「こちらへどうぞ」と促され、マルテ侯爵から見て左側の席に案内される俺達。


「お気遣いありがとうございます閣下」


 おかんが貴族令嬢のような綺麗な姿勢で会釈して挨拶をする。

 もちろん俺とマリべも同じように姿勢を正して頭を下げた後、ゆったりと椅子に座る。

 てかおかん、貴族令嬢のようなじゃなくて貴族家当主だった。


「さて、才女と名高いリディアーネ殿、そしてボーゼル殿と話したいことは多々あるが……まずはゆっくり、港街ならではの料理を味わってもらいたい!」


 用意されていたグラスに順番にワインが注がれたあと、侯爵がそれを持ち上げ「新しい友人に!」と乾杯の音頭を取る。

 俺? 俺のはもちろんぶどうジュースである。

 てかさ、さっきからむっちゃ見られてるんだけど……そっちに座ってる人たちの紹介とかは無いのかな?

 まぁ見られてるとは言っても睨みつけるような視線ではなく、値踏み半分興味半分って感じだからそこまで嫌な感じはしないんだけどさ。


 乾杯の後はもちろん料理。ワゴンに乗せられ、続々とテーブルの上に並べられてゆく立派な魚……の焼いたのと煮たの。

 ここって猪に下向きの牙と角が生えてる様な世界だからさ。

 もしかして魚に足くらいは生えてるかも……などとちょっと警戒というか、そんな不思議生物を嫌な顔もせず口に出来るのかと心配してたけど、出てきたのは普通の魚。それも鯛の塩焼きっぽいのとか鰤の水煮っぽいのとか秋刀魚の塩焼きっぽいのとか、鯖の水煮っぽいのとか


「いや、料理のレパートリー少ないな!?」


「ボーゼルちゃん!?」


「ぶふっ!?

 ……ふふっ、はははは!」


 似たような調理法の料理ばっかり並べられていく状況におもわずツッコミを入れてしまう俺、関西人の鏡ではないだろうか?

 そして静かな食卓(他人付き)で大きな声をだしてしまった俺にびっくりして名前を呼ぶおかんと……きっと俺の的確なツッコミに吹き出してしまったマルテ侯爵。


「……コホン、失礼いたしました。

 思わず心の声が漏れてしまい……」


「ボーゼル様、それは謝罪の言葉になっておりません」


「いやいや、気にせずともよいさ。

 くっ、ふふっ……それにしても……玄関でのテレジアへのことと言い、今回のことと言い、ボーゼル殿は私の想像を超えて愉快な男だな!」


「ありがとうございます閣下。

 閣下も私が想像していた数倍、いや、数十倍は素敵な女性で……そのように面と向かって褒められますと思わず照れてしまいます」


「ボーゼル様、愉快な男は褒め言葉では無いと思いますよ?」


 えっ? そうなの? 「お前おもろい奴やな!」は全国共通で褒め言葉だと思ってたんだけど?


「ふふっ、マリーベル、そのように深読みしなくとも良い。私としても称賛の意味も込めて言ったのだからな。

 貴族家の当主などしているとそのようなハッキリとした物言いをする者などなかなかおらぬしな。それにしても……生まれてから二十三年、男性から『素敵な』などと言われたのは初めてだぞ?

 ちなみに……ボーゼル殿に聞きたいのだが、今この食堂にいる女の中で一番好みの女は」


「もちろんテレジアお姉さんです!」


「ボーゼルちゃん!?

 ボーゼルちゃんの永遠の一番はおかぁちゃまでは無いのですか!?」


「お、おう、食い気味で来たな……

 では、この部屋に居ない人間まで含めるとしたら……ボーゼル殿が今までに接した女で一番美しかったのは誰になるのかな?」


「そうですね、やはり殿下……ミリアヌス王女殿下でしょうか。

 あの方はもう妖精といいますか女神様といいますか……人の持てる美しさを超えたお美しさでしたので」


「そうか、そこまでか……では、テレジアの次、三番目はどうかな?」


 何なの? 侯爵は森の石松なの? 自分の名前が出てくるまで延々と続くの?


「そうですね、その内面込みで母様……いや、見た目だけならばマリーベル……それともおっぱいの大きさで追い込んで来たマルテ侯爵閣下……ではなくてですね。

 自分にとって女性の美しさに順番などというものはございませんよ? みんな違ってみんないい、全ての女性は美しのです!」


 もちろんローランヌゴリラみたいな性格の破綻したのは勘弁してもらいたいが……。


「ボーゼル様、それはどの口が言っているのでしょうか?」


「なるほど。ボーゼル殿は何と言うか、独特の感性と審美眼を持っているのだな。

 あと、胸が大きいとは言えど……私の胸は張りはあれども柔らかく、男が好むような固さではないぞ?」


 何それ最高かよ!?


「クリス様、流石に独特の感性などとおっしゃるのは一番に選ばれた私に失礼だと思うのですが?

 それにしても……ふふっ、私が一番でクリス様は三つ巴の三番ですか」


「テレジア、どうして私のことをそのような含みのある生暖かい目で見ているのかな?

 あれだぞ? 一番と言っても所詮は暫定一位! ミリアヌス王女の次であるらしいからな? あまり調子に乗るのはいただけぬぞ?」


「ふふっ……ボーゼルちゃんの一番はおかぁちゃまボーゼルちゃんの一番はおかぁちゃまボーゼルちゃんの一番はおかぁちゃま」


「ボーゼル様、お気を確かに。

 良いですか? 胸で大切なのは大きさではなく先端部分とその近辺の感度なのです」


 何だろう……侯爵とお姉さんのあたりが不穏な空気を醸し出してるしおかんが自分の世界に閉じこもっちゃったんだけど……。

 そしてお向かいで座ってる見知らぬ四人、我ら関せずな空気を出しつつも俺に目で『どうにかしろ』と訴えかけられても困るからね?

 半分くらい俺の(発言の)責任だと思わなくもないが……そこはあえてスルーして食事を続ける俺。

 てかさ、元日本人からすると魚をおかずにパンを食うのって結構厳しいものがあるんだよな……。せめて揚げ物だったら良かったんだけど、並んでるのは焼き物と煮物(塩&妙な香草味)だからな。

 箸と言うかナイフとフォークが進まない進まない。


「ふむ、あまり食が進んでないようだが、ボーゼル殿は魚はあまり好みでは無いのかな?」


「そうですね、川魚も含めこれまであまり食卓に並ぶことがありませんでしたので……どちらかといいますと肉の方が好きかもしれません」


 ちらり減らない皿の上に気付いたマルテ侯爵にそう答える。


「そういえばヴェルツ家からのお土産に牙猪のお肉がございましたね?」


「はいテレジアさん! 肉だけではなく毛皮やなめし革も持ってまいりました!

 特に毛皮は目の肥えられた閣下にもご満足頂ける品であると自負しておりますので是非とも一度お手に取って頂ければ幸いでございます」


「ほう、ボーゼル殿がそこまで押すほどの品とは……ふふっ、後の楽しみに取っておいてもよいが、そこまで言われれば他の皆も気になって仕方がないだろう?

 食事が終わってからとなるがここにいる皆にも見せてやっても構わぬか?」


「もちろんです、いかようにでも閣下の思われるままに」


 アレはとても良いもの……らしいからな! おかんとマリべの受け売りだけど。


「牙猪言えば王国内でも一、二を争うほどの危険な獣。

 それを皮に疵を付けず、土産に出来るほどに良好な状態で狩ることが出来るとは……ヴェルツ家騎士団、中々の剛の者らしいですね」


「そう言えばヴェルツ領に隣接する大狼の森に生息しているのでしたか?

 実物を見たことはありませんが、かなり危険な生物だと聞き及んでおります。

 かの森には牙猪だけではなく、その名の示す通り大狼や赤頭熊などという化け物も徘徊しているとか。

 そのような場所で頻繁に食卓に並べられるほどの肉を手に入れることが出来るとは……確かにかなり優秀な騎士団なのでしょう」


 ……知らない人が喋った!?

 てか先に喋った日に焼けた肌で引き締まった身体をした海賊の親分みたいな奴、絶対に『どうせ疵まみれで使い物にならないようなゴミを持ち込んだんだろう?』って意味で言ってるよな?

 もう一人の少しぽちゃっとした感じのお姉さんは普通に感心してる感じだけど。


「お褒めに預かり光栄ですが、此度土産としてお持ちしました品に関しましては全てボーゼル様が用意した物ですよ?」


「ふっ、はははは! 何を言い出すかと思えば……そこな幼子、それも無能殿がっ!?」


 『無能』の一言を聞いた瞬間、「死ね」と言う一言とともに手にしていたフォークを即座にその女の顔に向かい投げつけたマリーベル。何この子、気が短すぎだろ……。

 フォークを投げられた女はそれを左手、腕で受け止めたが……グサリとかなり深く刺さっており、ジワジワと服に血が滲み出してきている。

 いきなりの展開であるのに室内に居た人間の動きはとても素早く、メイドさんが盾になるようにマルテ侯爵の側に立ち、部屋に居た近衛らしき騎士が俺達を取り囲む。


「口を慎めルフィーア! 皆も下がれ!

 ……申し訳ないボーゼル殿、そこな家臣は海で海賊を相手にしている粗忽者でな。それも最近この辺りを海賊が荒らし回っており少々気が立っておるのだ」


「いえいえ、私が無能なのは事実ですので。

 それよりも我が家臣の振る舞いこそ許されざる暴挙。このような場をご用意いただいた閣下にはなんとお詫びを申し上げればよいのか言葉も見つかりません……。

 しかし、家臣の不始末は主の不始末。すべての罰は私が受けさせていただきますでどうかご寛容のほどを」


「ボーゼル様! 何をおっしゃいますか!!」


「あら、先に無礼をしたのはあの女です。主を誹謗中傷されたマリーは当然の事をしただけですし、あなたには何も非などありませんよ?

 ルフィーア・フォン・バルガス。リディアーネ・フォン・ヴェルツはあなたに売られたその喧嘩言い値で買って差し上げます」


「ははは! 我が海に海賊を送り込んでおきながらいけしゃあしゃと! 生意気によくもほざいたなリュンヌの小娘!

 同じ子爵位とは言えど貴様のように金で買った爵位と王国海軍を預かる我がバルガス家の力の違い、望み通りその身に刻みつけてやろう!」


「てめぇ……人が事なかれと大人しく頭を下げて謝ってやってるのに言うに事欠いて俺の大切なおかんを傷つける発言とはいい度胸だな?

 海軍を預かるだぁ? いいだろう。ご自慢の木の棺桶ごと焼き尽くして皆殺しにしてやるよ!」


「……双方落ち着け! ルフィーア! 疾く退室せよ! ヴェルツ家の面々も一度椅子に腰を下ろされよ!」


 何を言ってるんだこいつは? 落ち着くも何も、俺はいたって冷静だが?


―・―・―・―・―


息コンの前で息子を馬鹿にしてはいけないし、マザコンの前で母親と喧嘩をしてはいけない。

というかこんな所で大喧嘩を始める予定(プロット)なんて無かったのにどうしてこうなった……。

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