幼少期 14話 『スキル』って想像以上に無茶苦茶だな……。
こちらの世界で言うところの天職(クラス)と技能(スキル)を無事手に入れることが出来た翌日。十数日ぶりにとても、とても爽やかな目覚めである。
そして昨日の痴態(ステレオ放送)など、何事もなかったかのように朝から俺の部屋に入ってくるマリべ。
思わず『昨日はお楽しみでしたね?』と、宿屋のオッサンみたいなことを言いたくなるがグッと我慢。
「おはようございます。昨日は一日何のお世話も出来ず申し訳ございませんでした」
「いや、さすがに領地やお家の事を話し合ってるのに遊んで貰えなくて拗ねるとかないからね?」
「むぅ……ボーゼル様は相変わらずお子様らしくないお子様ですね……
ふふっ、なら今度からはボーゼル様もご一緒に参加なさいますか?」
えっ? 俺も参加していいの!? ……などと勘違いしてはいけない。
なぜならマリべが参加するかと聞いているのは話し合いの事であって大人のくんずほぐれつの話では無い
「大丈夫です、たとえ今は大きくおなりにならなくとも! 私のテクニックで天にも登るような快楽に」
「五歳児に何いってんだこいつは……」
と思ったのにソッチの話だったかー……。
後ろ髪どころか頭頂部がズルムケになりそうなほど魅力的なお誘いではあるが、さすがにそれは……ねぇ? 日本人論理感が根を張っている俺が行動に移すには中々にハードルの高い行為なのだ。
マリべに呆れ顔を向け、迷いを悟られてしまう前に朝食をとろうと食堂まで向かう俺。
……クッ、昨日の今日という事でさすがに、先に食堂のテーブルの前に座ってるおかんの顔を直視しづれぇ……。
いや、今は大切なのはベッドの上の運動会ではなく、騎士団にお願いして狩りに同行させてもらう話なのである!
「えっと、母様。少しお願いがあるのですが」
「あら? どうしたのかしらボーゼルちゃん?」
朝食――豆と山菜を煮ただけの薄味のスープ――を食べていた匙を下ろし、にこやかにこちらを見つめるおかん。
今日は母親としてではなく、この領地のご領主に対するお願いなので言葉遣いを少しだけあらためる。
「はい、いきなりなのですが……狩りに出掛けるお許しを頂きたいと思いまして。
近場でどこか良い狩り場を教えて欲しいのと、騎士団に護衛をしてもらいたいのでその許可を出して欲しいのです。」
「えっ?」「えっ?」
そんな俺のお願いに、素っ頓狂な声で綺麗にハモるおかんとマリべ。
「ええと、私の聞き間違いで無ければ……ボーゼルちゃんは山に柴刈りに行きたいと?」
そんな日本昔話のおじいさんみたいなことは言ってねぇよ……。
「違います、焚付を集めるのではなく狩りの方です、獲物を仕留めるハンティングです」
「……ボーゼル様、もしかして昨日の私達の話を聞いてそのような事を思い立たれたのかもしれませんし、そのお気持ちはこの場にしゃがみ込み、嬉し涙を流しながら自慰行為に励みたくなるほどの有り難いお言葉ではあるのですが」
「そうね、確かにあなたのその優しい心、私もこのままずっとあなたを部屋に軟禁、二人きりの世界でいつまでも愛で続けたいほどに嬉しい言葉ではありますが……愛するあなたがそのような危険な行為におよぶことを『はいそうですか』と認めるわけにはいきません」
何その反応……片一方は変態だし片一方は病んでるんだけど?
「ご心配はごもっともだと思いますが、危ない事は何も……極力いたしませんよ?
ただ遠くから弓、弩弓で狙って撃つだけですので」
それでなくとも暴走自転車に撥ね慣れて死んだ前世を持つ俺なのである。
野生動物に撥ねれれて死ぬのも怪我をするのもまっぴらごめんだ!
「そう言えばバーバラからあなたが昨日、我が家にある装備品の確認をしていたと報告は受けていましたが……
ボーゼルちゃん、確かに弩弓を選ぶと言うその選択は間違っていないわ。
でも、それでも。あなただからと言うわけではなく、早々に許可を出すことなんて出来ないわ。
確かに遠距離から狙えば少しは安全に獲物を狩ることが出来るのは確かだけれど……扱いやすい弩弓であろうと、そう簡単に動いている動物に命中させることなど出来ないのよ。」
「そうですね、毎日稽古に励んでいる騎士団の面々でも飛び道具だけで獲物を狩ることはなかなかに厳しいですね。
もちろん狩人や弓兵の天職でも持っていれば話は変わってまいりますが……。
いえ、もしもそれが有ったとしてもディーレンに隣接する『大狼の森林』に縄張りを持つ野生動物、『赤頭熊(レッドスカル)』、『牙猪(ファングボア)』、『大狼(グレイトウルフ)』に手傷を負わせることが出来るかどうか」
何その名前を聞いただけでも凶暴だと分かるメンツ……予想はしていたけど穏やかじゃねぇ生き物しか居ねぇな!?
そして赤頭熊とか言うワンコが大量に集まらないと退治出来無さそうな山の主っぽい熊。たぶんそいつ、日本では赤カ○トって呼ばれてる奴の親戚じゃね?
でも、そんな熊がいるのにどうして森の名前が『大狼の森林』なんだろう? もしかして熊よりデカい狼だとか? そいつらもう完全に動物じゃなくて魔物だろ!
「……獲物の名前を聞いてちょこっとだけ心配になりましたが……大丈夫です!
実は俺、朝目が冷めたらクラス……天職に目覚めてましたので!」
「……ボーゼルちゃん、天職とは生まれながらに与えられるか数十年努力し続けた結果により得られるモノなのよ?
いくらあなたが可愛らしくて頭も良くて誰からも愛されそうな男の子だったとしても……寝て起きただけでどうにかなるモノではないの」
「母様……俺だって言ってることがそこそこ無茶苦茶なのは理解してるんだけよ?
でも、生き急ぐつもりはないけど……このまま自分が何の役にも立たない穀潰しだと思われたくないんだよ。少しでも……少しだけでも母様達の力になれるって解ってもらいたいんだよ。
でもこのまま、いくら口で説明しても理解してもらえないよね? だから今から」
「つまり私とリディアーネ様、二人揃って下のお口に理解らせてやる! そういうことですね!?」
「そうなの!? ……ボーゼルちゃん……いつの間にか大きくなったのね……」
五歳児がそんなエロゲ的展開になだれ込むはずないだろうが!
「ちげぇよ馬鹿……一度見てもらえば、ちゃんと分かってもらえると思うから」
「それはお○ん○んをですよね?」
「話が進まないからマリべは一度黙ろうな?」
『私納得してませんよ?』というジトッとした視線でこちらを見つめるおかんと朝ご飯の後、当初の予定通り今日も騎士団の訓練場――屋敷の隣の荒れ地な空き地に移動する俺達。
結構早い時間なのにすでに騎士団全員揃ってるのはさすがに王都一訓練に励む騎士団の面目躍如というところか?
俺も高校生の時は朝練に励んだなぁ……そう、稽古は体を裏切らないのだ! もっとも、いくら稽古を積んだ所でセンスと才能のある人間にはまったく勝てなかったんだけどさ。
屋敷から出てきた俺達三人(withリリアちゃん)が目に入ったのか、女の子達が……女の人達がこちらに向かい早足で、獲物を見つけた猟犬のように全速力で駆けてくる。
「ボーゼル様! 今日は何を集めればいいんですか!?
早く! 早くご命令を!
そして今日こそ私の頭をナデナデしてください!」
「……ボーゼル様、たった一日目を放しただけでこのありさまは一体どういうことなのでしょうか?」
「すでに騎士団を掌握しているとは、さすがボーゼルちゃん……と言って良いのかしら?」
ジト目のマリべと頬をピクピクと引き攣らせるおかん。
「まぁ色々とあったんですよ。
あー、バーバラ。今日は物集めではなくて俺の……なんだろう? 練習? 試射? に付き合ってもらいたいんだよ」
「試射……それは性的な……射○的な意味でしょうか!?
不肖バーバラ! 当然男性との経験はございませんがお相手させてつかまつりまする!」
「本当の意味で不肖な奴だなコイツは……させてつかまつるって何だよ」
この屋敷に住むおかん以外の人間は全員頭にカウパーが詰まって
「ボーゼルちゃん、いいかしら?
あなたの初めてはもう少し成長してからこの「マリーベルが責任を持ってお相手をいたしますので!」……マリー、今は親子の大切な話をしているのだから口を挟まないで欲しいのだけれど?」
……おかんも同じ穴のムジナだったかー。
まぁね? 使用人を集めたのはおかんだもんね?
「……朝から胃もたれしそうなので下世話なお話はそのくらいで。
バーバラ、昨日見せてもらったクロスボウを持ってきてもらってもいいかな?
あと、的になるような物を五つほど用意して?」
「はっ! 了解いたしました!
昨日の物の他にも何台かございますのでそちらも持ってまいります!」
つまらない冗談を言っていても行動する時はキビキビと動き出すのはさすが騎士団。そして俺の隣で、
「ボーゼルちゃんが冷たい……もしかしてこれが反抗期……?
そう言えば……私にだけではなくボーゼルちゃんにも手紙が届いてたのよね?
しっかりと母検閲する前に取られてしまったのだけれど……もしや王城で暮らす泥棒猫になにやら良からぬことでも吹き込まれたのかしら?」
「ふっ、最近ずっと、私にはだいたいあんな感じの接し方ですので問題はないと思いますよ?
ああ、幼女猫からの手紙でしたらすでに乳母検閲済みですので。
此度のディーレンに対する王国からの仕打ち、支援中止を阻止できなかった事に対する謝罪と、代わりに自分が金銭的援助をしたいと言う申し出でしたよ?
そのあと何やら眠たい事を長々と綴ってありましたがそれらは全て黒塗りしておきました」
そう言えば、昨日はユウちゃんの事とか色々あったから王女様からの手紙のことなんてすっかり頭から抜けて机の上にほっぽらかしにしてた――
「いや、どうして俺の部屋にあった手紙をマリべが読んでるんだよ!?
じゃなくて、個人的な手紙を断りもなく勝手に読むのとかマジで止めろや!
てか昨日は昼から一度も部屋に来てないよな? あと人の手紙の内容を勝手に塗りつぶすのも止めろや!」
俺の心の安らぎである美幼女が、その小さな手で一生懸命したためてくれた大事な大事なお手紙なのに……。
いや、あのお姫様はあのお姫様で、もしも権力を手にしたらそこそこヤベェタイプの支配者になりそうだけれども。
でもそんなこと、本人が可愛らしければどうでもいいことだしな!
……などと話してる間にも全速力で走り回る騎士団メンバー。
半分くらいは走ってるだけで何もしてないんだけどさ。
「ボーゼル様! 的の用意……標的を立てる場所はいかが致しましょう?」
「そうだな……」
ユウちゃん起きてる?
『むしろ私は睡眠という物を必要といたしませんがこの五年間することが無かったので二度寝三度寝まで覚えました』
ごめんて……。
えっと、機械化弓兵のクラスを持ってる人間がスキルなしで的に命中させられる距離ってどれくらいなの?
『使用する弩弓の強さにもよりますが……昨日出された弩弓の品質ですと、無難に命中させるなら十五から二十メートルというところでしょうか?
狙撃スキルを使用してギリギリ三十メートルくらいまでですね』
えっ? そんなに短いんだ!? 確かイギリスの長弓兵とか五百メートルくらい飛ばせたとかどこかで見た記憶があるんだけど……弩弓、思ったよりも飛ばないもんなんだな。
『そんな色々と盛られてそうなお国自慢レベルの話と比べられましても……そもそも五百メートル先の的なんて裸眼では見えないでしょうに。人を沢山並べて曲射した結果、誰かの矢がたまたま当たったのとちゃんと狙いを付けて命中させるのではまったく意味合いが変わると思いますが。
そもそも火縄銃ですら有効射程は五十メートルくらいですからね?』
お、おう……なんかこう、非常識でごめん……
てか三つあるスキルなんだけどさ、エクスプロージョンが爆発するのはなんとなく分かるんだけど……狙撃が命中率の上昇で超射程は射程距離の上昇であってる? それぞれ具体的にはどの程度の効果があるの?
『三つともその認識でほぼ正解です。
狙撃は命中率上昇と言うよりも必中ですね。使用する弩弓の有効射程内であれば必ず命中いたします。
超射程は有効射程……殺傷可能射程距離が十倍に伸びます。持ち運び可能な弩弓ですと百五十から三百メートルというところでしょうか?
エクスプロージョンボルトはその名の通り、放たれた矢(ボルト)が命中すると爆発をおこすスキルですね。攻撃力はロケットランチャーとまでは行きませんのでそれほど強くは無いですが、矢が刺されば体内からの破壊が可能ですので人間相手ならそれなりには使えると思いますよ?
オススメの使い方は【超射程】で射程距離を伸ばした後、【狙撃】で必中状態にしてから【エクスプロージョンボルト】を放つことでしょうか』
えー……クロスボウから放った矢でロケットランチャー並の攻撃を撃ち込めるとかまったく意味がわからないんだけど……それで強く無いって俺は何と戦わされる予定なんだよ……。
そもそも人間は矢が刺さっただけで大怪我するのにそれが爆発するとか普通に死ぬわ!
『DungeonCoreからの情報ではそれなりに強そうな相手もいるみたいですからね。
せめて古代竜(エンシェントドラゴン)くらいはワンパン出来るようになっていただかないと安心して夜と昼しか寝れません』
何か強そうなドラゴンが出てきたな!? マジカヨ……絶対にそいつのいる場所には近づかないようにしないと……。
そしてドラゴンをワンパン出来る奴は人間じゃねぇわ!
「ということで的は二十メートルと二百メートルの位置によろしく!」
「何が『ということ』なのかはわかりませんが、騎士団の人間でも二十メートルの距離の的にコンスタントに当てるのはそれなりに難しいですよ?
それをまったく弩弓を扱ったことのないボーゼル様が当てるのは……。
そして二百メートルどころか百メートルだとしても、仮に、偶然にそこまで矢がとどいて的に当たったとしても絶対に刺さりもしないと思いますが」
「良いから良いから。
そうだな、もしも俺が的を外したら……ここにいる騎士団員全員のホッペにチューしてあげ「エレナっ! 的のサイズを今の十分の一に交換っ!」」
「了解いたしましたっ!」
いや、了解してんじゃねぇよ……。
これもう最初から狙撃スキルを使わないと無理なやつじゃん……いや、そもそもスキルってそんな頻繁に、何度も繰り返し使えるものなの?
回数制限とかありそうだけど……ああ、『MP』があるってことはスキルを使う度に消費する感じなのかな?
『回数制限はございませんが、スキル毎に決まった『クールタイム』が存在します。
現在セットされているスキルですと狙撃なら六十秒、超射程なら九十秒、エクスプロージョンボルトだと百二十秒ですね。
そしてMPは……一体何なんでしょうね?
少なくともスキルの使用とは無関係のようですので、『スキルではない魔法』を使う場合には減るのではないでしょうか? もしかすると現地人特有の何かという可能性もあります』
えっ? 長くてもクールタイム百二十秒でスキル使い放題とか完全にチートじゃん!
それも、攻撃までの用意とか狙いを定めるのに時間がかかる弩弓だとほぼ全弾にスキル乗せられるじゃん!
いや、爆発するような攻撃を普段遣いするには危険過ぎるけれども!
「バーバラ、隊長を便利使いするようで」
「ボーゼル様、そのような些事は全てこのマリーベルにお任せください。
あと、矢を外した時のチューは私にもしていただけるのでしょうか?
それにより弓の状態に細工をする必要が出てくるのですが」
「お、おう……じゃあ弦を引いて矢を装填してもらってもいいかな?
あと、外した時のチューにマリべと母様は含まれていません。
あくまでも稽古の邪魔をしている騎士団に対する補填のようなものですので」
「マリーはともかく、どうしてあなたの大切なお母ちゃまをないがしろにするのですか!?」
「私もともかくではありませんが?
物心つく前のボーゼル様は『ボーゼル様チュー(ハート)』ってお願いするだけでチューしてくれましたのに。
さぁ、あの頃のようにお気軽にどうぞ」
「そんなこと生まれてこの方一度もしたこと無いけどね?」
物心どころか前世の記憶すら持ってる人間はそんな嘘には引っかからないのだ!
―・―・―・―・―
書き溜めここまで~以降、(予定では)水曜日(と、余裕があれば土曜日)の更新です♪
……いつもくらいの文字量(一話3000~4000)と、この作品くらいの文字量(6000~8000)だと読者様はどちらの方が読みやすいんだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます