幼少期 13話 俺が選んだ天職(クラス)は……。

 騎士団の訓練場で色々な武器を一通り触り終わって自室へと戻った俺。

 中には『これって武器じゃなくて道具じゃね?』みたいなのもあったんだけどな。

 気に入ったモノ? もちろんあった。むしろ『ソレ』以外は色々と足りていない今の俺では扱えなかったので消去法で残ったようなモノだけどさ。

 で、その武器を持ってきてくれた女騎士ちゃんをナデナデしてあげたんだけど……他の女性陣が目を血走らせ、血涙を流さんばかりに悔しがって駄々っ子みたいになっていて、『この領地の防衛って本当に大丈夫なのだろうか?』と、微妙な気持ちになってしまった……。

 てなわけで『ソレ』の発表! をする前に、今回の成果の発表からである!


 まず最初に手にしたのはご存知『小剣(ショートソード)』。

 有名なところだと剣闘士が使っていたグラディウスになるのかな?

 俺の中でショートソードって二本差し(お侍さんの刀)の短い方なイメージなんだけど、想像していたよりも短い。いや、俺が考えていたのが『大脇差』だから普通に長剣と同じくらいの長さがあるのが原因なんだけどさ。

 短い=軽い、剣の中では扱いやすい部類に入る武器なんだけど……五歳児からすれば十分に長いし重いという。振り下ろしたらその勢いで自分の足を斬ってしまいそうである。

 アンロックされた『クラス(天職)』は『新兵』。

 いつの間にか見えない場所で死んでそうな職種である。


 次に俺の目についたのは『細剣(レイピア)』。

 レイピアと言えばエルフのお姉ちゃん! または黒尽くめのオッサンとか三銃士。

 三銃士と言いながら思い浮かぶのが『長靴を履いた猫』だったりする不思議。だってほら、『ダルタニアン』って『ダルタにゃん』じゃん? 意味がわからない? 確かに。

 細身だから軽いと思わせておいて全然軽くないと言う詐欺のような剣。いや、日本刀も太くないけど重いからオカシクはないんだけどさ……。

 入手出来たクラスは『剣士』。

 剣士……響きがとてもカッコいい……でも手が短いので腰から剣をスラリと抜く事すら出来ない……。


 もちろんまだまだ続くよ剣シリーズ。

 今度は『長剣(ロングソード)』。普通の人が想像する西洋の片手剣(ソード)だな。小(ショート)剣と比較して長(ロング)剣と呼ばれてるけどそれほど長くはない。先にも出てきた長脇差とどっこいどっこいの長さしか無い。

 てかソードをスウォードとカッコよく表記している書籍などもあったが……どっちかっていうとダサいと思うのは俺だけだろうか?

 右手に長剣、左手に盾は万能の証! だけど尖った(目立った)部分が無いので最近の物語の主人公にはあまり好まれない装備でもあったりする。

 俺個人的にも普通すぎて……これと言った感想が出て来ない不憫な子だな。

 得られるクラスも『戦士』と普通。全部普通。


 長剣からちょっと長さが伸びたのがバスタードソード。日本語訳だと『片手半剣』とか言う非常に中途半端な呼び方をされている剣である。

 何かこう、音の響き、『バスタード』の部分が何かを退治(バスター)してそうで非常に強そう。日本国民なら全員知ってる和製ファンタジー小説の金字塔である『ロー○ス島戦記』の主人公が使っていたことでも有名。……有名だよな?

 おそらくそれに忖度されたのか入手クラスは『自由騎士』だった。

 カッコいい、間違いなくカッコいい。でも日本で考えると……ただの浪人だよね?


 バスタードソードからさらに剣身が伸びたのが両手剣。ドイツ語でツヴァイハンダー。むしろツヴァイヘンデー。いかん、ユウちゃんのネイティブが俺にも伝染してきたかも……。

 でも映像として思い浮かぶのはたぶんクレイモア。違いがわからない? 大切なのはフィーリングなので気にしてはいけない。

 てか普通の日本人がイメージする『長剣』ってむしろこれくらいの長さの剣だよな?

 見た目通りの性能で『長い! 重い! 剣というか鈍器?』と、イマイチ使い勝手の悪そうなイメージのある剣なんだけど……実際にその通りだからしょうがないね?

 野蛮な方のコナンが両手剣を使っていた気がしたけど……今考えればそんなに長くなかった気もしないでもない。

 入手くらすは何故か『蛮族』。確かに半裸のオッサンが腕力だけで振り回してそうだけど、それほど無骨でも鉄の塊でもないんだけどなぁ。


『説明が長いです。完全にオタクの悪いところが出ています。おそらく誰もそんな細かい所になど興味は無いです。

 と言いますか、半分くらいあなたの思い込みですよね? そもそも誰に対する説明なんですか?』


 ……ユウちゃんから苦情が入ったので、残念ではあるがここからは簡潔に並べていくことにする。

 剣に関しては他に変わったもの――曲刀とか湾刀、当然日本刀などは無かったんだけど、ナイフとデカい包丁を持った時に『採集人』と『屠殺人』という少し変わったクラスが入手出来た。

 おそらくナイフは山菜採りに使っていたモノで、包丁は……鶏とか豚とかの動物を捌くために使ってるのかな?

 あと、『三又槍(トライデント)』なんて変わったモノがあるな? と思って手にしてみたら出たクラスは『畜産農家』だった。どうやらトライデントではなく、ただの三叉のフォーク(農具)だったみたいだ。


 他にも同じように戦闘職じゃなさそうなのが出たのは『デカい金槌』と刃の部分が妙に広い、グレイブ(日本で言うところの薙刀?)の様な刃の形をした『両手斧』。

 入手クラスは『鍛冶師』と『死刑執行人』だった。

 いや、どうして一般の貴族の家に死刑執行人が使ってた斧があるんだよ!?

 来歴と言うか、どこで誰に使ったのかが非常に気になる……が、知りたくは無いな。何かこう、詳しく知っちゃうと呪われそうだし……。


 ああそう言えば、やっぱりというか何というか、棍棒からは『山賊』が出た。

 他にも短槍に長槍、短槍の亜種で投げ槍や馬上槍(ランス)などの槍系、短弓に長弓、投石機に弩弓(クロスボウ)などの遠距離攻撃武器、メイスに斧にナックルなどなど。ブーメランとかおもりの付いた投げ縄(ボーラ)とかは武器というより狩猟道具だよな?

 あと、ダーツ(おそらくおもちゃとしてではなくて暗器として使われてたんだろう)で暗殺者が出たんだけど……うん、俺の心の中の『男の子(ちゅうにびょう)』がそれを選べと力強く囁いてくるのを抑えるのにずいぶんと苦労した。

 ほら、さすがに貴族の天職が暗殺者は人聞きが悪すぎるからな?


 てことで! 騎士団のみなさんに多くの装備品を並べてもらい、それらをすべて手にして多くのクラスを入手することが出来た俺。もちろん入手クラスが重なるものもあったんだけどね?

 そんな中でも心惹かれたのは『剣士』、『自由騎士』、『鍛冶師』、『狩人』、『暗殺者』、『機械化弓兵』の六つ。どうしても暗殺者が捨てきれない俺である。

 でもほら、この六種のうち五種まではその武器(道具)がまったく扱えそうにないんだよね……。


「てかさ、クラスって一度選んじゃうと一生そのまま終身雇用な感じなの?

 それともクラスだけに上位の職業に『クラスチェンジ』とか出来るの?」


『ええと、そもそもどうしてクラスの変更が出来ないと思われたのでしょうか?

 他の方のことまでは存じ上げませんが、少なくともあなたは自由にクラスの変更が可能ですよ? もちろん多少の制限はありますが』


「えっ? そうなの!? クラスって替えることも出来るんだ……

 てかその制限って一体何なんなのかな?」


『制限というほどキツイ縛りでは無いのですけどね?

 一度クラスを設定してからそのクラスをマスターするまでに変更すると『それまでに蓄積されていたクラスレベルや経験値』が全てリセットされます』


 それは……どうなんだろう? と言うか、クラスレベルとか経験値って何ぞ?

 あと今更初歩的な質問で申し訳ないんだけど……クラスに就く事によるメリットってなんなの?


『確かにずいぶんと今更な質問ですね……。

 そうですね、まずはクラスレベルですが、こちらはその職種をどれほど使いこなせるかの指標となります。

 最低レベルは『0』。最大レベルは……クラスのレアリティにより変化いたします。今回の武器の装備により入手できたクラスの殆どはレアリティが『コモン(ありふれている)』ですので『20』が最大ですね』


 なるほど……てかクラスの『レアリティ』とか言う新しい単語が出てきたんだけど……普通に考えるならレアリティが高いクラスの方が強いってことで合ってる?


『いえ、レアリティは強さではなく、あくまでも『珍しさ』でありますので一概にそうとは言えないですね。

 でも、レアリティによる成長限界――先ほども説明しましたがコモンですと最大が20レベルで、アンコモン、レア、ハイレア、スーパーレア、アルティメットレア……と、レアリティが一つ上がる毎に最大レベルが『5』ずつ上がりますので『補正値』により強くなると言う部分では間違いではないです』


 えっ? レアリティってそんなに種類があるの!? てか英語とかややこしいから初級、中級、上級とかでいいじゃん!

 そして、またまた出てきた補正値と言う新しい単語……ああ、そのレベルによる『補正値』があるからクラスレベルを最大まで上げるまえに変更するとレベルリセットされちゃうことでデメリットが発生するのか。


『正解です。ちなみにレベルによる補正は『レベル×1%』で、補正を得ようとするば『クラスごとの指定武器』を使うことが必要となります。

 剣士ならば片手、両手問わず『剣類』、山賊ならば棍棒や斧などの『打撃系武器』などですね。

 さらに『クラスごとの専用武器』を使えば、それにプラスして『1.5倍のボーナス補正』まで追加されるのでお得になっております』


 何だそのゲームみたいなシステムは……って『放置ゲー』だからゲームで合ってるんだけれどもさ。

 それにしても三割上昇って微妙な……いや、クラス無しの相手と比べて三割も能力――攻撃の命中率や回避率が上がれば一対一の決闘ならほぼ無敵とも言えるか?

 何にしても俺の今の『最低(オールJ)』の能力値では焼け石に水だと思うけどな!


『そんなに自分を卑下しなくとも大丈夫ですよ?

 ステータス画面にもありましたように、あなたには『総合レベル』というモノが存在いたしますので。

 これよりどんどんクラスレベルを最大まで上げて『☆(クラス名)マスター☆』のアビリティを集めていけば青天井に能力の強化が可能となっておりますので、いつかはきっと最強の男に! ……なれる可能性も微レ存?』


「そこはなれますって言い切れや!」


 ……まぁそれもこれも今は関係のないこと、全部レベルが上ってからの話だからな。つまり最初の戦闘に勝利しないと何も始まらないわけで。今は最初のクラスを何にするかが大切なのである。

 他の説明が長くなってしまったが、ユウちゃんからクラスの変更が可能というありがたいお言葉が出たので、懸念であった選ぶクラスの先々の柔軟性と言うか将来性を気にしなくて済むようになった俺が最初に選んだのは……もちろん遠距離攻撃の出来るあのクラス。

 『ソレ』を扱うには他の人の介助が必要ではあるが、それさえクリア出来れば俺みたいな非力なお子様でも固定ダメージが出せる素晴らしい武器!


 多分大勢の人が『おっ? 鉄砲か?』と、思ったと思うが……残念ながらハズレである。もちろんうちにあったら迷いなく選んだんだけどね?

 屋敷に無いだけなのか、はたまたこの世界には存在しないのかは不明だが、残念ながら俺の前には並ばなかったんだよねぇ。もしかして鍛冶師のレベルを上げればワンチャン作れる可能性も? ……いや、鉄砲を撃つには火薬も必要だから……何だろう? 錬金術師なら火薬も作れそう?


 もちろん『ソレ』もお高い兵器だし、地球でも昔は国家が秘匿管理していた秘密兵器なんだけどね?

 そんなモノがよくうちにあったな……って思ったけど、そもそもおかんは侯爵令嬢。ディーレンに放置……じゃなくて封地される時に(ナイショで)実家からパク……持ってきたのだろう。

 というわけで、しばらくお世話になるであろう武器とクラスは――


『弩弓(クロスボウ)、機械化弓兵でよろしいですね?』


「ここまでもったいぶって溜めに溜めた答えをどうして先に言っちゃっうかな……」


 そう、攻撃方法は引き金を引くだけの簡単兵器!

 鉄砲には劣るが殺傷力も高く、鉄砲よりも取り回しのしやすいクロスボウである!

 何よりも『機械化』って部分がとてもカッコいいと思うんだよね!

 という事で、ワクワクしながらステータス画面を開く俺。

 さっそく【クラス】欄に機械化弓兵をセットする。


『キャラクター【ボーゼル】のクラスが設定されました。

 現在のクラスは【機械化弓兵】となります。

 それに伴いスキルが開放……弩弓専用単体攻撃スキル【狙撃】を入手。

 能力値【物理攻撃】に小補正、【器用さ】に小補正。

 スキル欄に【狙撃】を設定……Error……

 おや? どうしてErrorなんて……ああ、そういえばあなたはガチャキャラではなくプレイヤーでしたね。

 Character設定にLogin……完了。

 入手Skillを【単体攻撃スキル】、【全体攻撃スキル】、【必殺技】の組み合わせで再編成……Error……この武器では全体攻撃を行えません。

 全体攻撃スキルを他の遠距離攻撃クラスの単体攻撃スキルより検索……類似クラス【大型機械弓兵】のSkill、【長射程】の亜種として変更……完了。

 スキル欄に【狙撃】、【超射程】、【エクスプロージョンボルト】が設定されました』


「古いパソコンから鳴りそうなビープ音を出しながら『エラー』って言うの止めて! 物凄い怖いから!

 てかクラスの設定しただけなのに結構な大事だったんだけど!?

 ガチャキャラとかプレイヤーって一体何!?」


『えっ? あなたガチャを知らないんですか?

 何かこう……お金を払って石? を買って何かを入手するヤツですよ?』


「ユウちゃんもあんまり解ってないじゃん……。

 そして、クラスの設定をしただけでまさかの初期スキルが三つ……

 最後のなんて広範囲殲滅魔法みたいな名前だったよね? クロスボウなのにどうして魔法?」


『エクスプロージョンボルトは爆発する矢であり魔法ではありません。

 ソースは『洋館内のゾンビを殲滅するゲームの二作目』でゴ○スの妹のゴ○アが使っていた弓です』


 もしかしてユウちゃんって自分がゲームなのにゲーマーなのか? いや、そもそも自分がゲームってどういうことだよ。

 まぁ強そうなスキルがいっぱい貰えるなら俺に否やは無いし? 些細なことなんて気にしちゃいけないよな!

 さっそくステータス画面を開いて再度確認をする。


「おお……クラスもスキルもちゃんと表示されてる!

 あれ? 【振り分け可能経験値】がいつの間にか『200』になってるんだけどこれは?

 あと、物理攻撃と器用さに補正が掛かったって言ってたのに『J』のままで変化が無いんだけど?」


『経験値に関しましては、チュートリアルクリアのボーナスですね。

 能力値に関しましては、たかだか小補正程度ではその矮小な能力に変化などあろうはずも無く。失礼、矮小ではなく短しょ』


「今はソレが小さいことは関係ないやろがい!

 あとたかだかとか言うなや! まぁ? 俺の戦いは今始まったばっかりだし?

 あんな簡単なチュートリアルで経験値をもらえるとか大サービスだな!

 てか普通に経験値を稼ごうと思ったら、やっぱり魔物を倒さないといけないの?

 そもそも魔物なんてこの世界に存在……そう言えばユウちゃんが初期設定? してる時にダンジョンコアにアクセスしてたんだよな……なら魔物がいても不思議では無いのか……」


『私は気前の良い放置ゲーですので。

 別に倒すのは魔物ではなくともかまいませんよ? 動物でも人でもオッケーです。

 さすがに単体では攻撃力も体力も無きに等しい生物、普通のアリンコや小魚などでは経験値の入手は出来ませんが』


 いやいやいや……人を『倒して』経験値を手に入れるとか言ってることが物騒過ぎるだろ……。

 あと、わざわざ『普通の』アリンコって言ったって事は『普通じゃない』アリンコも存在するってことなんだよな?

 うん、そんな魔物みたいな生き物なんて絶対に相手したくねぇ……そもそも俺、昆虫とか死ぬ前から大嫌いだったし。小さいくせに生命力も防御力も高いわ変に素早いわ追い詰められたら飛びやがるわ繁殖力は高いわ……間違いなく地球外生物(エイリアン)だろあいつら……。


 という事で、残された可能性は野生動物だけ。ここらへんって自然豊かな場所だし? とくに問題は無さそうなんだけど……。

 俺が部屋に戻る前におかんとマリべが話してた内容でも近くの森林に生き物が生息してるって言ってたしな。

 ……なんかこう、個体名ではなく『アレ』とか呼ばれてたのがとても気になるけど。牙とか角とか爪とかあるらしいけど。

 角があるのって地球では大体草食動物だった気がするけど、そこに牙と爪が加わるとすればそれもう絶対に肉食動物だよね?


 いや、『アレら』って言ってたから別個体の話だったのかもしれないのか?

 後で誰かに……というか狩りに出掛けたいことも含め、また明日にでも騎士団の人たちに詳しく相談してみるか。

 ちなみにその日は一日マリべが俺の部屋を訪れることは無かった。

 ……手紙の内容について相談する二人の追い詰められたような雰囲気が少しだけ気になったのでおかんの執務室の前を通ったら……二人のアーレーな感じの睦み合う声が聞こえたんだけど、『気のせい』ということにしておこう。

 うう……俺も混ざりてぇなぁ……百合の間に挟まりてぇなぁ……。

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