幼少期 12話 五歳児が素手で魔物退治なんて無理に決まってるだろ!!

 いきなりの活動開始、そしていきなりの覚醒を果たした俺の祝福『放置ゲー』。

 うん、正直な所急激な展開にまったく付いて行けて無いんだけど……。

 

「ええっと……何? この……何?

 君……あなた……お前……誰かは判らないけど今、俺の脳内に直接響いてる声の主は神様から貰った祝福の『放置ゲー』ってことで合ってるんだよな?

 いや、放置ゲーの声がしてるって時点で訓練されていないノイローゼみたいなもんなんだけどさ。

 初対面の人に……人? に、こんなこと聞くのもオカシイんだけど、あなたは俺の味方ということでオーケィ?」


『そうですね、敵か味方かで区別するならば間違いなく味方ですね。

 まぁ五年間も放置されていた影響で現在はハロウィンの日に街なかを徘徊する子供たちのような心境ですが』


 何その日本人にはまったく理解できない心理状態……。

 もちろん最初から敵意などはいっさい感じなかったんだけど、一応本人からも直接聞いておかないとね?

 この世界の創造神らしきモノを撃退出来るようなヤツが敵だったら……俺どころか人類が滅んじゃうからさ。


「それは何より……でいいのか?

 いきなり図々しい話になっちゃうけど、俺の愚痴と言うか悪口に反応して出てきてくれたってことは、俺に何某かの力を貸してくれると思っても良いのかな?」


『そうですね、初対面からの罵倒でイースターの日にプレゼントを貰い損なった子どもたちのような気持ちですが、あなたのお手伝いをするのが私のIdentityとなっておりますので全力でsupportさせていただきます』


 だから、ハロウィンとかイースターで例えられても俺には何も伝わらないんだってば! 一言で纏めるなら欧米か!

 日本人なら盆暮れ正月、節分桃の日子供の日だろうが! そもそも人では無さそうだけれども!

 あと、ちょくちょく単語だけネイティヴな発音になるの止めろや! ……そのうち調子に乗って卵を『タメィゴー』とか言い出しそうである。


「なるほど、サポートしてくれるんだ。

 てか放置ゲーは一体何が出来る感じなの?

 今のところ俺の中ではパソコンの大先生とかスーパーハッカーってイメージなんだけど?

 てか放置ゲーって呼びにくいし……そうだな、『ユウちゃん』って呼んでもいい?」


『そうですね、あなたが頑張るのを隣で応援する松岡○造的存在だと思って頂ければ大体あってます。

 登録Codenameを変更……現時点より私は『ユウちゃん』と呼称いたします』


「何そのライ○ップのトレーナーみたいな存在……そして○造は暑苦しいからチェンジで」


『了解いたしました、織田○二にシフトいたします』


 そっちもたいがい暑苦しいわ……。ちなみに俺の中での織田○二の代表作は『お金○ない』。ドラマ開始早々織田○二がうんこしてたのが物凄く記憶に残ってるんだよな。

 そして、言わなくてもお気づきであろうが彼女……彼女? の、名前の由来はパソコンの大先生。ついでに俺が生まれてからの五年間、その存在すら見せずに引きこもり生活をしていたからってのもあるんだけどね?


 ほら、母親が二階に引きこもった息子の部屋の扉の前にご飯を持っていく時に付属してるメモ書きの出だしってだいたい『ユウちゃんへ』じゃないですか?

 まぁ彼女(?)がこれまで出てこなかったのは、自分が困ってどうしようもなくなるまでその存在を記憶の片隅に追いやっていた俺の責任でもあるんだけろうけどさ。それなんて困った時の神頼み。


「えっと、五年間のんべんだらりと幸せな生活を送っててユウちゃんに構ってあげなくてゴメンね?」


『何ですかその拗ねた義妹を諭しているような謝罪とも言えない謝罪は……

 まぁ私は大人の放置ゲーですので許して差し上げますが』


 何だよその如何わしさ全開のゲーム……間違いなく運営はFA○ZAだろう。

 てかもう『サポート』って単語が援助的なアレにしか聞こえなくなってきちゃったんだけど?


「それで……ユウちゃんのサポートって言うのは、具体的にはどういった感じのモノなの?」


 もしかして自撮りのエッチな写真とか動画を送ってきてくれるとか?


『少なくともあなたが今脳内で想像しているようなモノで無いことは確かです。

 そうですね、まず最初に『チュートリアル』をクリアしてはいかがでしょうか?

 こちらの世界で言うところの『天職』、ステータス画面で言うところの『クラス』や、同じくこちらでは『技能』と呼ばれている『スキル』、そして『天賦』と言われている『アビリティ』などを入手することが可能ですので』


「でも難易度がお高いんでしょう?」


『何ですかその通販番組のような反応は……

 あくまでもチュートリアルレベルでクリアすることが可能な行為ですので五歳児でもラクラクこなすことが出来るはずです』


 マジカヨ!?

 ……天職なんて授からなくても何も気にしていないと言ったな? あれは嘘だ。

 神殿でスライム……じゃなくて神官長に告げられた時から

『別に? そんなモノ無くとも今まで困ったことなんて無いし? 成長したら剣術とか魔法とか一杯練習すればいいだけだし?』

 などと、強がりまくってはいたけれども、本当は激凹みしてたからな?

 それが簡単に手に入るとかユウちゃん天才、いや、天使かよ!?


『ふふっ、良いです、あなたから伝わってくる尊敬と仄かな愛情がとても私を満たしてくれます。

 それでは……チュートリアル【その二】ステージ1-1で魔物を倒しましょう』


 えっ? ステータス画面を開くだけだった【その一】から一転、凄まじく難しいこと言い出したぞこいつ!?


「五歳児に魔物なんて倒せるわけないだろうが! 死ぬわ! 普通に死ぬわ!」


『大丈夫です、たとえ体力ゲージがゼロになったとしても拠点に戻されるだけですので。スタミナ消費もありません。

 ソースは参考にした放置ゲー』


「俺はデジタルな世界で生きてるゲームの主人公じゃなくて生身の人間だから生き返ったりとか出来ねぇんだよっ!

 ……いや、もしかしたらユウちゃんの不思議な力でワンチャン復活もあるのか?」


『私にはそのような能力はInstallされておりません』


「だったらやっぱり死ぬだけじゃねぇか!

 そもそもそのステージ1-1って何なんだよ! たぶんだけどこの近隣に魔物とか居ねぇわ!

 とりあえず、それは難しそうだから後回しにして……チュートリアル【その三】を先にこなしちゃ駄目かな?」


 いや、魔物退治の次なんだからそれよりも難題が待ち構えてるんだろうけどさ……。


『もちろん可能です。

 では、チュートリアル【その三】武器を装備しよう』


「ステータス画面を開くのと同じくらいまで難易度が下がったな!?

 どうして二番目に魔物退治を持ってきたんだよ! それが『その二』で良かったじゃん! ……ちなみに『その四』は?」


『チュートリアルの順番などは現実の放置ゲーを参考にして作られております。

 大体の放置ゲーは敵を倒して入手した武器を装備いたしますので。いえ、そもそも開始即戦闘に突入ですので。二倍速もオートスキルもしばらくは使えませんので。

 チュートリアル【その四】は魔物をスキルを使って退治しましょう。ですね』


「もしかして偶数毎に無茶振りが来るのかな!?

 いや、一度魔物を倒したことがあるなら次からはそれほど苦戦しない……そもそもチュートリアルになるくらいだから『魔物を倒す』こと自体がそれほど難しくない行為だという可能性もあるのか?

 ……いやいや、騙されるな俺! 最初は素手スタートなんだよな? やっぱりどう考えても無茶振りじゃねぇか!」


『さっきから何なんですかあなた?

 あれは出来ない、これも無理、ヤダヤダヤダのく◯モンですか?

 あれですか? もしかしてあなた、チュートリアルだから私がバーベキューの話とか家電の話とかするとでも思ってたんですか?』


 いきなり辛辣だな!? てかそこ、ヤダ◯ンじゃなくてくま◯ンなんだ?

 あの黒いクマ、キ◯ィさんとかえ○こレベルで仕事選ばねぇな……。


「てか何だよそのバーベキューとか家電の話って……ああ! チュートリアルか!

 そんな古いネタ今どきの若者には理解らねぇよっ!

 てかさ、このままだと話が進まないから一回ちゃんとしよ?」


『わかりました、皮膚科の先生を紹介すれば良いんですね? ご一緒にホタテはいかがですか?』


「それもうチュートリアルですら無くなってるよな?

 ブラ◯ヨもサンドも関係無いんだよ!

 今はチュートリアル内容の説明中だよね? それなのに説明役が延々とボケまくるってどういうことなんだよ……」


 字面だけ見るとチュートリアルがボケることに何の問題も無いと思われそうだけれども! そしてやたらと地球のお笑い芸人に詳しい神様の祝福って一体……。


『……あなたに……何の進展もすることなく五年も放置された放置ゲーの気持ちがわかりますか!?

 どれだけ私が寂しかったか! 心細かったか! 少しくらい雑談で親睦を深めたいと思うことのなにか間違えてます!?

 今まで私を放っておいた分もまとめてまるっと大切にしてくれなきゃ許してあげないんだからねっ!』


「SNS既読無視した時の彼女かお前は! 何もわからねぇよ!

 てかそれ、さっきアップデートした『ツンデレ』の弊害だろ!?

 放置ゲーなんだから放置されたらむしろ嬉しいとかじゃないのかよ!

 そもそも自意識? があるならとっととそっちから話しかけてきてくれれば良かったじゃん!

 そしたら俺も色々と捗ったはずなのに! この五年で何か出来ることがあったかもしれないのに!」


『……その発想はありませんでした』


 なにこの人口知能の皮を被った人口無能……。

 ということで、ここで二人――はたから見れば一人で叫んでるちょっとヤバい子供でしかないのだが――罵り合いをしていても仕方がないので今すぐにこなせそうなこと、武器を装備することから始めることに。


 ……テステス、流石に部屋の外で延々と一人で喋ってると心の病を心配されるのでまた心の中での会話に戻したいと思います。


『な、何よ……あんたと私の心はひとつだって言いたいわけ!? ……ま、まぁいいんだけどさ……。

 了解いたしました。と言うか、独り言を言っていると思われたくないなら私が音声を外部出力モードに切り替えても構いませんが?』


 そんなことしたらここがお化け屋敷だと思われちゃうから! 怖がってメイドさんがみんな出ていっちゃうから!

 てか装備する武器って何でも良いの? いや、そもそも防具ならともかく武器を『装備する』ってのが良く分からんのだが。


『ツンデレたことに関しては無視ですかそうですか。

 基本的にはあなたの使いやすい物を選べば大丈夫だとは思いますよ?』


 五歳児が使いやすい武器なんてあるはずが無いんだよなぁ。


 テクテクと二人(見た目は俺一人)歩いてやってきたのはもちろん騎士団の訓練場……と言う名の家の横に広がるただの荒れ地。

 今日はマリべが近くに居ないと言う非常に珍しい状況なのだが、いつの間にかリリアちゃんが後ろから付いてきてるという。

 この子、見た目の地味さも相まって諜報員的な仕事も出来るのではないだろうか?


 晴れ渡った昼下がり、青空の下でやや厳ついルックスをした格闘技系女子が汗を流して訓練に励んでいる光景……なにこれ? 非常にけしからんのだけど!?

 そう、そこでは十数人の女子が木剣や木槍などを持ってペアで稽古をしているのだが、全員が上は薄い無地のシャツが一枚だけというね。

 当然この世界にブラジャーなど存在しないので、あっちを向いてもこっち向いてもポッチポッチしてる。


 ……惜しむらくはもれなく全員ちっぱいなので一切揺れることが無いと言うことだが……逆に? これはこれで、アスリート女子としては大いに有りだと思います!

 激しく動く上に汗で身体に張り付いたそのシャツがなんともはや……。


『ちょっとヘソとか舐めさせてくれないかな?』


 そこまでは考えてねぇよっ!


『でも短パンから覗く健康的な太ももを、手が滑ったフリをしてそのままお尻を撫で回したいんでしょう?』


 ……そっちは否定しないけれども。


「ボーゼル様が獣の様な目をしている……もしや武闘派貴族としての血が覚醒なさいましたか!?

 もしも稽古に加わろうとかお考えだとしても、まだお小さいそのお体では無理ですからね?」


「……そうだな、まだまだ小さいもんな」


『体(の一部が)小さい(小さい)のですね? わかります』


 五歳児はこれくらいで標準サイズなんだよ! 知らんけど!

 しかし……俺は何故今までこの天国のような場所を訪れなかったのか。

 この五年間、この女性たちの成長を見届けられなかったことを多大に後悔しながらもしばらくはその訓練の様子を見物


『そのオッサン思考はさすがにちょっとどころではなく気持ちが悪いので、とっととここに来た目的を果たしてください』


 ……しようと思ったのに、ユウちゃんから早速の苦情が。

 仕方なく、マジで仕方なく騎士団でも多少は話をしたことのあるバーバラさんに離れた所から声をかける。

 いや、さっきから全員こっちをチラチラ見てるからきっと手を振っただけでも来てくれると思うんだけどな?


「騎士団長! 少しお願いがあるんだけど!」


「はっ! いかがなさいましたでしょうか!」


 まるで陸上部女子のようにはにかんだ笑顔で、小走りにこちらに駆けてくるバーバラさん。

 ……それはにかんでるんだよね? 伝わってくるのは爽やかさではなく威圧感だけなんだけど……。

 あと、かなり真剣に稽古していたので鼻息もとても荒い。


「えっとさ、訓練の邪魔をするようで非常に申し訳ないんだけど……ちょっと参考までに、俺に色々と武器を見せてもらえないかな?

 もちろん振り回したりとか危険なことは一切しないって約束するから」


「男性が武器を持つのでありますか?

 そのようなことをなさらなくとも、ボーゼル様のお体は我々が命に変えてでもお守りいたしますが。

 確かに人数は少ないですが、これでも王国一! ……訓練に励む騎士団と有名なのですよ?

 そもそもボーゼル様のお側にはあのマリーベルがおりますし」


 なんだその微妙な評価は……。

 そして思ったよりも他の人からは高評価なのかマリべ。


「もちろん護衛とかはこれまで通り全部お任せなんだけどね?

 あっ、もしも俺が気に入った武器を持ってきてくれた子はあとでヨシヨシしてあげよ」


 『うかな?』と言い終わる前に走り出す騎士団のメンバー。

 もちろんバーバラさんも全速力である。


『……なかなか人を使うのがお上手ですね』


 いや、軽い冗談のつもりで口にしただけなんだけどな?

 三分とかからず、続々と目の前に並べられてゆく保管されていた武器の数々。てか女騎士ちゃん達の私物らしきものも結構な数含まれてるな。

 とは言えこのような辺境送りにされた貧乏貴族家、そしてそれに仕えている騎士がそこまで上等な装備品など持ち合わせているはずもなく。

 目の前に置かれた古そうな小剣を手に取り、そっと鞘から引き抜く。


『武器【小剣】を装備したことによりクラス【新兵:コモン】が開放されました』


 ここ数十日自分が無能だったことに悩みに悩んでたのに……職業ってこんな簡単に入手出来るんだ!?


「そ、そのように驚かれるとは……

 何か不具合がございましたでしょうか?」


 驚きを声に出しはしなかったが表情に出たのであろう、小剣を持ってきたと思われる女の子がビクッとして声を掛けてくる。


「ん? いやいや、まったく問題ないよ?

 ただ……鞘の汚れからかなり古そうに見えたのに、剣身の方はサビ一つ無く磨き上げられたようにピカピカだったから手入れの良さにビックリしただけだよ?」


「あ、ありがとうございます!

 ふふっ、実はその小剣はですね! ……あっ、もうしまっちゃう感じなんですか……すぐに次の武器に行ってしまわれるのですね……」


 小剣の来歴を話したかったみたいで、俺がそれを鞘にしまい次の細剣を手にしたことでしょぼんとした顔になっちゃった女騎士ちゃん……でも、色々と試しておきたいからね?

 また今度機会があれば付き合う……こともあるかもしれないしないかもしれない。


 その後も片っ端から武器を手に取ってゆく……と言うか触ってゆく俺。

 だってほら、斧とかメイスって物凄い重いじゃないですか?

 その大きさも相まって、半分以上は持ち上げることすら出来なかったんだよ。

 そしてその度に脳内に響く『クラス~~が開放されました』というユウちゃんの声。

 ナニコレめっちゃ楽しい……。


「てか騎士団なのに棍棒とかあるんだ? やっぱり元は山賊団だったの?」


「はっ! ちゃんとした鉄製のメイスは数を揃えるとなるとお高いので、子爵家の財政状況ではとてもとても……

 といいますか、やっぱりって何ですかやっぱりって! えっ、私たちってボーゼル様から山賊だと思われてたんですか!?」


 思ってたかと聞かれれば思ってたと答えよう。

 だってバーバラさん、最初に見た時は物凄い小汚い感じだったんだもん……。

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