幼少期 05話 母(の実家)を訪ねて……十数里(五十~六十キロ)。

 王都から届いた一通の手紙。

 当然この国……だけではなく、この世界に郵便局などと言うものがあろうはずもなく。

 平民が手紙や荷物を遠方に届けようと思えばそちら方面に出向く知人にお願いするか、持ち逃げ&紛失覚悟で多額の謝礼を支払って行商人にでも預けて送るしか無い郵便物。もちろん知人であろうが持ち逃げしないとは限らないしな。

 日本でも定期的に輸送物が紛失(倉庫から消えたり、空き家に捨ててあったり)がニュースになってたし仕方ないね?


 うちは紛いなりにも貴族であるから知り合いから『伝令兵(軽装の騎兵)』や相手屋敷の使用人が手紙を持ってやって来るこも稀にある……いや、屋敷の中をウロウロ出来るようになってからこの方、そんなものは一度も来なかったけれども。

 これが王家からの手紙というか勅になると『王家伝令官』と言う日本の武家伝奏みたいな役職に付いている貴族が物凄い大仰な行列を仕立てて持ってくるらしい。


 そして今回うちの屋敷を訪れたのはもちろん伝令兵。伝令官なら『手紙を持って今から行きますよ?』という先触れも来るみたいだしな。二度手間だから最初からそいつに持ってこさせろと……。

 玄関まで出向き、配達してくれた騎兵のお姉さんから直接手紙を受け取る……俺。

 いや、どういうことだよ!

 三十年近く暮らしていた日本ですら知人友人なんて一人も居なかったのにここは異世界、それも行ったことも見たこともない王都から俺宛に手紙が来る意味が解らない。

 てか俺のことを見た途端に配達のお姉さんが目を見開いて硬直してるんだけど?


「……い、いきなりの来訪失礼いたしまる……いたしまるすっ! い、いたたします!」


 噛んだ。お姉さんむっちゃ噛んだ。そして言い直したのにまた噛んだ。


「わ、わたくし、王国第三騎士団で伝令兵を務めておりますライザっ……ら、ライラともうしまるっ! ……ましゅっ!

 ああ……ああああああああ!」


 顔を真赤にしてその場でうずくまり涙を流しながらドンドンと床を叩き出したお姉さん。


「うっ、えぐっ、ふっ、うっ、うううう……そう、いつだってそうなのです! 大事な所で失敗ばっかりするのですっ!

 そもそも私、物凄い人見知りなのにっ! それなのに配属されたのが伝令部ってどういうことなのですっ!?」


「いや、知らねぇよ」


 何なんだこの勢いの凄いポンコツ娘は……。


「とりあえず落ち着こう、別に急いでないから、ゆっくりでいいからね?」


「うう……うううう……

 優しい……男の人なのに、こんな私にとても優しいのです……大好きなのです……」


「なんでやねん」


 苦笑いする俺と凍り付いたような無表情でお姉さんを見下ろすおかんとマリべ。

 しばらくヨガのウ○コする犬のポーズ(正式名称はたぶん猫のポーズ?)みたいな姿勢で蹲ったまま、体を小さくして小刻みに震えていたお姉さんであるが……五分ほど掛かってメンタルを立て直した。どんだけ待たせるんだこいつは。

 うちの屋敷には居ないタイプだし、俺的にはちょっとだけ面白いから良いんだけどさ。

その場で正座の体勢に移行したかと思うと、俺の目を見ながらゆっくりと話しだした。


「あーらーたーまーりー」


「ゆっくり話せって言うのは語尾を伸ばせってことじゃねぇんだよなぁ」


「えっ? ああ……ああああああああ!

 ぐっ、ふっ、ぐすっ……男の人にっ! 初めて、初めて話した男の人にっ! へっ、へっ、変な子だと思われたかも知れないのですっ!

 うっ、ううっ、うわあああああああん!

 私、もうお嫁に行けないんですっ!?

 もしかしてこのまま一生伝令部で飼い殺しにされるのですっ!?」


「だから知らねぇよっ!」


 また床をドンドンと叩き、泣き始めるポンコツ。とりあえず話が進まねぇから別の人間呼んできてくれ!!



 疲れた。

 とても疲れた。

 奴が持ってきた手紙を受け取るだけの行為に小一時間費やした。

 そして、


「それでなくとも望んでいない相手からの好ましからざる手紙ですのに届けに来たのがアレとか嫌がらせも甚だしいですね」


「あの女が背負っていた紋章旗を見て瞬間的に追い返そうかと思ったのだけれど……直感通り、本当に追い返すのが正解だったみたいね」


 おかんとマリべが二人して苦い顔。

 これまであまり発したことがないような、ピリピリとした雰囲気を醸し出していることからも察せられるかもしれないけど……俺に届いた手紙、おかんを追い出した実家からのモノだったんだ。


「しかし今まで連絡など梨の礫だったご実家から……リュンヌ侯爵家からお手紙ですか。

 ふんっ、わざわざ王都からこのような西の端までご苦労様なことでございますね。

 いえ、イスカリア島全体として考えれば? この地は中央になるのですけれどね。

 そもそも先の戦争で、あのような無様な負け方をしなければこの地は本当に中央でありましたし」


「マリー、年寄り臭いから昔の事を持ち出すのはお止めなさい。

 はぁ……それでその手紙なのだけれど……少なくとも碌でもない内容だということだけは分かるわね」


 半ば縁切りした実家からの手紙だもんね? 俺だって喜べるようなモノでない事だけは分かるわ。

 というかさ、そもそもこれって本当に手紙なのか? 贈り物とかじゃなく?

 だってほら、貴族の手紙って『蝋封がされた封筒に入った便箋』ってイメージじゃないですか?


 それなのにあのポンコツ配達員に渡されたの……重箱みたいな箱なんだけど?

 それも結構ずっしりと重たい漆塗りの箱。あいつのことだから自分の弁当と間違えて渡したと言うとこも……流石に無いか。

 もしもこれが本当に手紙だったら数十枚の紙束が入ってる事になると思うんだけど、そんな馬鹿なことが……


「マジで大量の紙束が入ってるんだけど!?」


 箱の蓋を開けてビックリ中から煙……ではなく大量の紙の束が出現。

 何の嫌がらせだこれ? 狭い部屋なら床一面に敷き詰められそうな分量の手紙なんてそこそこヤベェストーカーでも滅多に送ってこないぞ?

 もちろん分量だけではなく、その内容がまた酷い。


 一枚目の三行くらいは時候の挨拶。ここまでは至って普通。三行だけは普通。

 そして、その続きはと言えば……延々と俺が生まれたことを今まで連絡してこなかったおかんに対する苦情と悪口。それが長々と、直接的な罵詈雑言ではなくまわりくどいお上品な言い回しで書き連ねられている。


「えっと、母様のお身内の悪口は言いたくないですけど……この人は暇なんですか?  それともキ○○○なんですか? もしかしなくとも精神を病んでるのは間違いないですよね?」


「当たらずとも遠からずというところだから否定は出来ないわね……」


 とりあえず一枚目で読む気が失せたので燃えるゴミの箱をソッとマリべの前に押しやる。


「私も読みたくはございませんが……そうですね、夫の仕事を手伝うのは妻の約目ですからね」


 内助の功アピールとかされても一ミクロンも恩には着ないけどね?

 そもそも五歳児に書類仕事させようとするの止めろや! 書類じゃなくて手紙なんだけどさ。


「ふむ……この文字はご当主様ではなく妹様のようですね。

 あの人は相も変わらず、どれだけリディアーネ様の事が嫌いなのでしょうか……いえ、もうこれは大好きの裏返しなのでは?」


「マリー、大好きが裏返ってるのは普通に嫌いなだけなのでは無いかしら?」


「まぁでも、文面の節々から男子を生んだリディアーネ様のことを羨ましがってる、妬ましがってる、全体から怨みつらみが溢れ出ていて少し愉快な気持ちにもなれますね。

 と言うか本当に一体何の嫌がらせなんですかこれ? わざわざ愚痴る為だけに今まで一度も連絡を寄越さなかった人間が焚きつけを送ってくる意味が分からないのですが……」


 さすがに全てに目を通すのは面倒になったのだろう、途中から斜め読みでポイポイと紙を捨ててゆくマリべ。


「あっ、最後の一枚だけ文字が違いますね。というかこれ、あの方の直筆ですよ?

 何とお珍しい……まぁ一行しか書かれてないんですけどね?

 ボーゼル様、どうぞ」


「どうぞって言われても……ってなにこれ?」


 マリべに渡された紙には本当に一行だけ、『王都で五歳式を執り行います』と書かれていた。


「いや、何だよこれ? 情報量が少なすぎだろ……」


 伝言ゲームで百人回しても一文字も間違えずに正解出来る文字数しか無いんだけど?

 あれだけ長々と前置きをしておいて本題はこれだけってマジ何なんだよ……いや、あっちはおかんの妹が嫌がらせの為だけに入れたんだったか。

 その無駄な労力他の所に使えよ! お前は暇人か! 暇杉晋作か!

 一応おかんにも紙を渡して内容の共有をしておく。


「ふっ、ふふっ、あれだけ人を小馬鹿にした追い出し方をしておいて、男子が生まれたと小耳に挟んだ途端にこれですか。さすがに古狐と呼ばれるだけあって侯爵様は面の皮がお厚いことで。

 それにしても……ボーゼル様の『五歳式』は目立たぬように、ささっとカンセルで済ませる予定でしたのにねぇ」


「今になって、おそらくうちに出入りしている商人からでもボーゼルちゃんの話を伝え聞いたのでしょうね。

 はぁ……お母様……リュンヌ侯爵閣下は昔から権力欲の強い方でしたから。

 侯爵家で男子は未だに一人もおりませんし、派閥内に広げても年若い男性は未だにゼロ。

 そんな中で、お父様直系の男子が生まれたとなればさもあらん。嫌いな娘の子供であろうと使えるものは使うということでしょう。

 私だって貴族の端くれ、その理屈は理解しているつもりではあるのだけれど……正直この扱いは不愉快でしか無いわね」


「いっそのこと……屋敷で休ませているおバカを斬り捨て、何も届いていないと、無視を決め込むと言う手もございますが?」


「それは有り寄りの有りなのだけど……今はまだ直接的に侯爵家と敵対するのは問題なのよね……

 王家がもう少し当てになればよいのだけれど、現女王陛下が『アレ』でいらっしゃるから。

 私と実家の不仲の事、『鮫殺し』などは間違いなく気付いているでしょうが……世間的にはお国のために私が自ら望んでこちらに出向したことになっていますからね?」


 なんかいきなり『古狐』とか『アレな女王』とかいろんな人が出てきたんだけど!? サラッと重要そうな話するの止めて!?

 そして『鮫殺し』とかいう女の子のあだ名らしからぬパワーワードよ……。

 てかさ、普通に仲の良い田舎の実家(この国にうちより田舎があるとも思えないけど……たぶんあるだろ? むしろあってくれ!)に帰省するだけでも面倒くさいのに、呼び出しを掛けて来やがったのはうちのおかんの事を追い出したジジババの屋敷だよ? そんなのもう完全に敵地じゃないですか?


 俺、この五年でちょっとマザコン拗らせてるレベルまでおかん大好きっ子に育ってるからな? そんな連中に対してなんて愛想笑いすら出来る気がしないんだけど?

 てか五歳式とか言うよく分からない異世界行事に参加させられるとか初耳なんだけど?

 なんとなく勝手に『七五三』みたいなモノだって解釈しちゃってるんだけど、そこんとこどうなんだろう?


「えっと、そもそも五歳式って何なんだろう?」


「……ああ、そう言えばボーゼル様は今回始めての五歳式でしたね!」


「むしろ二度目の五歳式を行うような人間は居ないと思うのだけれど?

 そうね、五歳式と言うのは……まだ我々イスカリアの民が大陸で――」


「リディアーネ様、ボーゼル様にご質問されたことを詳しく知っていて説明出来るのが嬉しくて仕方ないのは分かりますが、説明に一体何時間掛けるおつもりですか?

 そうですね、簡単に言うと……『みんなでマイラ神殿に集まって神様のお告げを聞く会』ですかね?」


 何だその無茶苦茶胡散臭い宗教団体の会合は。

 その集まり、間違いなく古代ギリシャの神託みたいに危ない葉っぱを大量に燃やして乱交パーティとかしてるだろ?


「いくらなんでもそれでは説明が雑過ぎでしょうが……

 そうね、神殿にお伺いしてその場で神様が『天職』……自分に向いているお仕事などを教えてくださる儀式……で、いいのかしら?

 もっとも、それで将来が変わるのかと言われれば甚だ疑問なのだけれどもね。

 優れた魔法の使い手や、よほどの武術の才能でも見出されたいない限り平民は親の跡を継ぐのが当たり前なのだし。もっとも貴族なら私のように、『それ』の内容次第で……両親から疎まれてしまうこともあるわね。

 いえ、私はそもそもこの外見で嫌われていたのだからそれもただの後押しでしか無かったのだけれどね?」


 自嘲気味に『フッ』と笑うおかん。

 アンニュイな美人とか最高かよ! ……なんて言ってる場合じゃねぇんだよな。

 だっておかん、本当に悲しそうな目になってるんだもん。


「母様……母様は僕の中ではこの国一の美しすぎる子爵様だよ?

 母様は綺麗で、お優しくて、頼りになって……大好きだよ?」


 トテトテと可愛らしく駆け寄りギュッと抱きしめる俺。

 どうよ? この幼児らしからぬ男前加減は?

 大丈夫、俺が大きくなったらおかんを悲しませる様な人間は全員殲滅してやるから!


「……ボーゼルちゃん……そうね、あなたは昔からずっとそう言ってくれるものね?

 ふふっ、あなたさえ居てくれれば……これまでの他人の評価なんてどうでもいいことよね?」


 俺の背中に手を回し、力強く抱きしめ返してくれるおかん。


「ボーゼル様! あなたのマリーベルも優しいお言葉を待っておりますよ! さぁお早く!

 ……私には何も無しですかそうですか。

 まぁ天職など持っていなくとも習熟さえすればお料理も出来ますし、剣技も魔法も使えるようになりますので。五歳式などそれほどお気になさるようなモノではございませんので。

 そもそもボーゼル様はそこにいらっしゃるだけで、こうしてお生まれになったことだけでそれはもう素晴らしいことですから。これからも何も気になさらずこのマリーベルに全てを任せ、おおらかな気持ちでお過ごしください」


「もっとも、天職があればそれらを簡単にこなせるようになるのだけれどもね……」


 マリべからの俺に対する根拠のない全肯定が凄い。

 いやそれ肯定してるんじゃなくて、もし俺が『遊び人』とか『種付けオジサン』とかのおかしな天職を言い渡された時用の保険だろ!

 そっか……この世界ってそういう生まれながらの才能で左右されちゃう感じなのか……。で、でもほら、俺って言うても神様の祝福持ちだし?

 ……未だに何の変化も兆候も見られないんだけどさ。


「はぁ……それにしてもまさか王都で五歳式をすることになるとはね……

 ああ……こんなにも可愛いボーゼルちゃん……

 それを腐った毒の沼地の様な性格をした貴族の雌猫雌犬雌豚雌狸雌狐共の目に晒さないといけないなんて……

 もしもあなたに何かあったらと思うと不安で不安で『王国貴族全員暗殺計画』を練ってしまいそうだわ……」


「物騒だなおい!?」


 俺がマザコンを拗らせてるのと同じくらいおかんも息コンを拗らせてるのは仕方ないよね?



 さて、侯爵家という上級貴族であり、名目上は寄り親であり、世間的には実の親でもある相手に呼び出されたヴェルツ家御一行。

 『五歳式』というやつの日取りも決まっているので、あまり悠長に返答を待たせる時間も無いらしく……もっとも、侯爵家などという王国内ではナンバー2と言っても良い連中からの呼び出しなので、それこそお家取り潰し覚悟でも無ければ否と突っぱねることは出来ないのだが。


 てなわけで、ヴェルツ家のそちらこちらで慌ただしく始まるのはもちろん旅の準備。ちょっとだけ魔法で動く車のようなモノを想像したんだけど普通にお馬さんがひっぱる馬車での移動だ。

 ちなみに王都までの距離はおおよそ一週間とのこと。

 いや、馬で一週間とか結構遠いな!? ……と思ったんだけどこれ、完全に日本人の距離と時間の感覚なんだよな。


 だってほら、日本人って舗装された道路前提だから徒歩でも時速四キロで移動の計算しちゃうじゃん? ちなみに不動産屋の『徒歩○分』は時速四・八キロである

。それ、健康な成人でも所々競歩みたいな歩き方しないと無理だと思うんだけど。

 だからほら、日本人ってなんとなくふわっとだけど『頑張れば一日で五十キロくらい歩けそうじゃね?』って気持ちになっちゃうじゃん?


 無理、絶対に無理、圧倒的に無理。

 だってそんなの近代的な舗装がされた道路と、とてつもないほど開発者の方が頑張った結果であるウオーキングシューズがあっての話だからね?

 もしも仮にそれだけの用意ができた所で、普通の人間だと『一日だけなら』って条件付きだからね?


 てことで、石畳など敷いてあるはずもないデコボコグネグネあちらこちらで広さの変わる田舎道を騎士団(騎乗してるのは三人だけで残りは徒歩)に先導されながら馬車に揺られてのんびりと進むこと……一週間。

 もうね、『馬車に揺られて』なんて聞くと呑気な旅だと思われそうだけど、『揺られて』の感覚に震度一と震度四くらいの差があるからな?


 揺れる、物凄く揺れる。タイヤを履いてない車輪って小石に乗り上げただけでもビックリするほど鋭角な揺れ方するんだと初めて知ったよ……。

 これ、間違いなく普通に馬に乗って移動したほうが疲れないだろ。ソースは日本に居た頃動画で見た武○ジョッキーのレース映像。『スーーー』って感じでカメラがほとんど揺れなかったんだよ。……天才の動画とか何の参考にもならない気もする。


 でもほら、俺だって初めての外出だし、最初は『異世界ヤッホウ!』と、某車窓から外を眺めるだけの旅番組のように長閑な田園風景を期待してワクワクドキドキ! なんてお気楽な感じで旅景色を期待してたんだよ?

 ……もちろんそのような風光明媚な光景があろうはずもなく。


 出掛けにチラッとだけ確認されたうちの村、内政力が九十以上ありそうなうちのおかんが治めている領地の村ですら『アレ』なんだから、近隣の村なんて言わずもがなである。

 荒れ地! 貧村! ボロボロの家をバックに走り回る痩せこけた子供! 目付きの悪い田舎者の年寄り!

 野良犬や野良猫が目につかなかったのは食用にされているからでは無いと信じたい。 


 もちろん、場所によってはちゃんと栄えてるし、農作物の実りもいいみたいなんだけどね? 王国西部はあまり開拓が進んでないと言うかさ。

 少し前(数百年単位の昔)の島を三分割した大戦争で大幅に島内の人口が減り、働き手が足りなくなって過疎った村が破棄され、時間とともに森に飲み込まれてそのまま放置されていたという。


 これ、道中で超巨大なダンゴムシとか出てこないよね? 火を吹く巨人とか出てこないよね?

 この世界に転生してからの初めての遠出だと言うのに、現実的過ぎる村々の光景にテンションダダ下がりの俺ではあるが……王都に近づくと共に、文明的……ではないけど、ヨーロッパの史跡とか歴史を感じるような建造物が増えてくると共に、ほんの少しずつだけど旅行気分が盛り上がってきた。


「おお……このごちゃごちゃとした町並み……

 都市計画も無く、行き当たりばったりに拡張していった感が最高だな!

 俺なら間違いなく一度更地にして再開発してるだろうけど」


「……んあっ? あっ、もう着きましたか?

 何か今ボーゼル様が私の事を性的に開発するとか仰ってた気がするのですが?」


 うちの領地から王都まで、おそらく距離的には五十~六十キロくらいしかなかったと思うけど、馬車に乗っている全員がお疲れモードに移行。

 それでも座ったままで、綺麗な姿勢でお昼寝していたマリべが俺の声で目が覚めたらしく意味のわからない反応をする。

 俺は途中から小さい子供の特権として、車内でゴロゴロと寝転んでたからまだマシだったけど、おかんもマリべもかなり大変だっただろうな。


「フハハハハハ!

 王都よ! 私は帰って……初めて来た! 馬車で来た!」


「ボーゼル様、うるさいので車内で叫ぶのはお控えください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る