幼少期 04話 うちのメイドにまともな人間が居ねぇ……。
戦場で凌辱されている『男たち』を妄想してだらしない顔でトリップ中のマリべ。
その姿、初めて夜のお店に行こうとした時に情報サイトを見つめながらニヤついていた俺の如し。
昔の俺っ! 嬢の写真もプロフィールのウエストサイズも信じちゃ駄目だっ! 『この店の女の子全員ウエスト53~58なんだけど何……全員痩せすぎじゃね?』と感じたその疑念は正しい! その店は55がちょいデ○、56からは探してくるのが難しいレベルのデ○が出てくるんだっ!
何だよ『ぽっちゃりフワフワ最高です♪』って! それは客が感想として述べることなんだよ! 自分で言うな自分で! そもそもフワフワしちゃってる時点でそれはもうぽっちゃりのK点を超えてるんだよ!
てか夜のお店で言うところのぽっちゃりなんて『窃盗を万引き』、『売春をパパ活』、『運良く捕まってないだけの犯罪者を昔ヤンチャだった』って言い換えるのと同じで自己弁護の詐欺みたいなモンだからな!? どう言い繕おうがただのデ○なんだよ!
うん、一体何を興奮してるんだ俺。
さすがに事が事なので(もちろん夜のお店の話ではない)マリべの情報だけで判断するのは性急に過ぎるので、トコトコと歩いて場所を移す俺。
仕事の邪魔をしてしまい非常に申し訳ないが手の空いてそうなメイドさんを探し、先程の話――男女の人数比についての裏取りをすることに。
だってさ、戦争とか未知のウイルスとか外的要因も無しに『男だけが少ない世界』とか……信じられないじゃん?
そして、そこから数名のメイドさんに『女の方が男よりも生まれてくる人数が多いの?』と質問を繰り返した結果はと言えば、
「マジカヨ……」
女性と男性の出生比……もちろん場所によって大きく前後するみたいだが、最良で50:1、最悪で200:1……平均して100;1とのこと。
いや、なんだそれ!? 想像以上に男が少ないんだけど!?
地球なら国家破綻どころか文明崩壊人類滅亡レベルの人数差じゃないか!?
某健康ドリンクのCMの掛け声が「ポストォォォォ!!」「アポカリプスゥゥゥゥ!!」になりそうなんだけど!?
もちろん、異世界と言えども子供は『人の営み(性的な意味で)』があってこそ生まれるもの。ならどうしてそのような偏った出生率でも人口が減少していないのか?
そう、ここで登場するのが先程マリべの話にも出てきたいた神殿の話なのである。
ほら、精子バンクみたいな場所の話をしてたじゃん?
正確には祀られている神様のお名前から『ウェーナス神殿』って言うらしいんだけどね? 慈愛の女神、ウェーナス様を奉っている神域。
……なんだろう、ウェーナス様……愛の女神……デジャブ感半端ないんだけど?
聞き覚えがあるどころかもしかしたら御本人……じゃなくて御本神? の可能性大。もしかして地球からお引越ししてきたとかかな?
マリべの話にもあったように神殿で小壺を下賜(もちろん有料)して頂き、そこに子種を入れて再度神殿に持ち込み『女神の慈悲』と呼ばれる儀式(こちらも有料)を執り行うとあら不思議、十月十日後には新しい命が誕生すると言う。
てかさ、『この世界では男が生まれ辛い』ってのはたぶん神様の気まぐれというか何かしらの思惑なんだよな? それなのに神様が人間の出産の手助けをして信仰を集めるとか……何そのわかり易すぎるマッチポンプ。
ちなみに男女が体を重ねての受胎ではなく、神殿に小壺を持ち込んでの受胎では『小壺の提供者』が親子兄弟など近しい間柄であろうとも遺伝子的な障害が起こることはないみたいだ。
それもうほとんど単為生殖じゃん……実は子種自体必要がない可能性も?
……この世界では男の存在意義が皆無という怖い考えになりそうなのでこれ以上深く追求するのはよしておこう。
てことで、男子が一族親類寄親寄子に居る貴族の未婚女性が子供を授かりたい場合に身内にお願いして『小壺』を預けるのは極々当たり前の振る舞いだと言う事。
つまり、俺のおとんが爺様なのはこの世界では珍しい事では無いし、娘に乱暴を働くような父親はいなかったし、おかんが父親に何かしらの感情を持っていたなどという事実は無いってことだな!
おかんと爺様がドロドロとした関係じゃなくて良かった……いや、マジで、本当に良かったよ……。
「もっとも、私達みたいな下級貴族……士爵家や準男爵家の次女三女では余程の幸運が無いと貴族の男性の子種なんていただけないんですけどね?
ほうぼう手を回して……それでも駄目だった! なんてことはざらにございますから」
「そうなんだ? それじゃあ、そういう時は子供は諦めないといけないの?」
「いえいえ、大丈夫ですよ?
そういう時には神殿で『小壺』ではなく『子種壺』……つまり中身の入った壺を買うのですよ。
でも、まぁこれが……いいお値段になりましてですね。
奉納された男性の能力にもよりますが。お安くても私のお給料換算で半月分、お高いものですと数年分、偉人と呼ばれた男性のモノなどそれこそ私達ではとてもとても手の届かない、とんでもないお値段になるモノも……」
「それはなんとも」
取引されるブツがブツだけに生々しいと言うか生臭い話だなぁ……。
確かに、そんな(中身が入っている必要はあるが)壺一つで子供が出来るんだったら女と男の比率が100:1でもそれほど問題は無い……のだろうか?
「まぁそれでも女に生まれてきたからにはですね、せっかく赤ちゃんを作るなら小壺を用いた方法ではなく異性との濃厚な粘膜接触で! こう、二人の愛を感じながら? 『イスカリア愛情物語』という古典作品に明記されている、殿方の腰に両足をしっかりと絡みつかせながら奥の奥に子種を頂く方法で身ごもりたいですね!
ですのでボーゼル様がご成人、そこまで成長されなくともご精通された暁には是非とも私にも子種を頂けましたらと!
もちろんボーゼル様の妻の座に居座ろうなどと言う、身分にそぐわぬ図々しい想いを抱いたりはいたしませんので!
でも、ボーゼル様がどうしても私が良いと仰るのならそれはもう仕方の無いことと言いますか」
「仰らないので大丈夫デース」
「ああっ、どうしてそのような意地悪を……でも、そんな小悪魔なところもお可愛らしい……濡れるっ!」
この屋敷の使用人募集要件に『ショタコンの変態』が記載されている疑惑……。
「てかさ、この世界って生活に男の必要性をまったく感じないんだけど同性と結婚してる人もいるの?」
おかんとマリべじゃないけど、メイドさん同士でも結構ユリユリした雰囲気を醸し出している暫定カップルを何組か見かけたことがあるんだけど。
「女性と結婚などとんでもないです!
いいですかボーゼル様? あれはあくまでもお互いの性欲の解消の為の行為なのです!
確かに? 行為に至るまでの時間はとても楽しくはあるのですよ?
それでも、性欲が解消された瞬間に押し寄せてくる罪悪感と倦怠感ときたらもうね……」
「リリアちゃんも経験はあるんだ……」
なるほど、男で言う所の自慰行為の後の賢者モードみたいなモノがこの世界では女性同士の行為の後に訪れるのか。
「……いや、それって別に同性だから気怠くなるってことじゃないんじゃない?
ヤルことは同性とでも異性とでもそれほど変わらないんだしさ」
「……はぁ……何を仰っているのですか? これだからおこちゃまは……
いいですか? 女と男は別口なのです! 別腹なのです!
女性同士でも罪悪感のわかない、物凄く相性の良い相手というのも居るらしいですが……そんなものは物語の中だけのお話です!
そうですね、ではこうしましょう。今からボーゼル様が私のことを絶頂させてください。そうすれば倦怠感などない満足感だけの絶頂というものをお見せ出来ますので!」
「五歳児に何いってんだこいつ……」
俺的には思わず笑顔で了承しそうになったけれども!
ボーゼルくん的にそんなことしたらおかんに嫌われちゃう……いや、そこはバレないように何とかかんとか
「そのようなこと許可出来るわけ無いでしょうが!
良いですか? ボーゼル様の初めて、それは生まれたときから私のモノと決まっているのです!
あと私を一人ぼっちで放置するとか酷すぎます!
それに屋敷の中といえど一人で彷徨くなんて危険がいっぱいなんですからね?」
「決まってないけどね?
てかやっとこっちの世界に戻ってきたのか」
この駄メイドは一番の危険人物は自分だといつになれば気づくのだろうか……。
さて、初っ端の情報が『俺のおとんが爺様』で、次に出てきたのが『女性と男性の比率が100:1』という、ツァーリ・ボンバレベルの爆弾情報だったためにこの世界に魔法が有るなどという些細な事はどうでも良くなっている俺。
自分の部屋に戻り、マリべを追い出し部屋に鍵を掛けて少し考え「追い出すなんて酷いです! あっ……もしかしてご自分でそういう……それならなおさら私はこの場に居るべきだと想います」事を……三秒で扉が開いた。
まぁ合鍵くらいは持ってるだろうしな。
多少気は散るがこいつは居ない者として考え事――さっきまでの話とメイドさん数人の態度、情報の整理に入る。
てかさ、彼女たちの話とか妙に嬉しそうに接してくれるその態度とか見てると、この世界の男って何らかのフェロモンでも出してるんじゃなかろうか?
ほら、地球でも女の子って近くに居るだけでいい匂いとかしてたじゃん?
……もちろん俺が常時女子の匂いを嗅いでいたとかそういう意味じゃないからな?
無意識的に自分の腕の匂いをクンクン
「ああっ! ボーゼル様の匂いを嗅ぐそのお役目は私のお仕事ですのにっ!」
「マリべ、ハウス」
「はうす? とは一体……でも、何となく罵倒されているような気がします。
何故なら響きがとても心地よいですので」
てか、貴族なら最低お嫁さんを十人作る義務があるとか……これもう五等分どこのの騒ぎじゃねぇな!? ふふっ、乗るしか無い、このビッグ……。
いや、冷静になれ俺。男の人数が少なかろうがどうせ最後に立ちはだかるのは『ただしイケメンに限る』という一言。
それでなくともこの世界には『筋肉至上主義』と言っていいほどの美醜の癖(へき)の偏りがあることだし、あまり楽観的に考えるのは良くないかも……。
今の俺はプニプニ五歳児。自分で言うのも何だが非常に愛らしい姿をしている。
当然おかんにもメイドさんにも大人気! ……そう、それはあくまでも俺が幼児だからなのだ。
これが十歳、十五歳、二十歳となってきたら……。
「マリべ、やっぱり男も筋肉質で八重歯の尖ったような人が人気なの?」
「何ですかそれ気持ち悪い……」
「えー……」
お前がそんな感じの女性がモテるって言うたんやろがい!!
「それはあくまでも男受けする女の話ですからね?
そうですね、男性ですと……大人しくてエッチな人ですかね?」
「俺は今外見の話をしてるんだよっ! あとそれただのマリべの願望だろ!」
てか大人しくてエッチな男なんて一昔前の秋葉原とか日本橋(大阪)に居る男のほぼ全員がそうだったわ! 今でも日本橋のソフ○ップの裏路地辺りをウロウロしてる奴はだいたいそうだわ!
「いいですかボーゼル様? モテナイ女からしたら男の外見なんて、人間なら……むしろ二足歩行していて言葉が通じるなら人間じゃなくとも気になりませんからね?」
「無茶苦茶だなこいつ……いくらなんでも雑食が過ぎるだろ……」
マリべが特別なのかこの世界の女性の総意なのか……。
何にしても、『生物ならOK!』と言い張るこいつに褒められても喜べないと言う事が確定してしまったわけだが。
でも、もしもマリべと同じ考えの女の子が百人に一人でもいたとしたら……やっぱりこれは大チャンスじゃね? だって俺、恋愛対象の筋肉の有無とか重要視しねぇもん。
そう、マリべみたいな(外見だけは)超美少女がモテない世界。
聞いたところではうちのおかんみたいな知的クールビューティですら『醜い娘など貴族の家には必要ない!』と実家を追い出されてしまう狂った世界。
うん、間違いなく来てるぞビッグなウエーブ!
いやー、日本では『あなたの顔って存在が普通すぎて目が滑るのよね』って言われた俺にもいよいよ嫁(美少女)が出来る日が来ちゃうのかー。
そもそもこの世界では子爵家の御曹司なんだもんな! そのうち許嫁とか……いや、同年代の許嫁とか幼女なのでは……? あと、子爵家って言っても領民数百人、騎士団十人のなんちゃって子爵家だしな。一瞬で正気に戻されたわ。
まぁそれでも? 少なくとも日本で生活していた頃よりは俺に生涯の伴侶となる相手が見つかる可能性は高いみたいだしな!
異世界最高! 神様ありがとう!
ふふっ、ここから俺のバラ色のハーレム……違うな、辺境の田舎暮らしだから『ファーレム(農村ハーレム)』? ライフを乞うご期待!!
今ならあのフェミ天使のクソババアのことも笑って許せ……いや、あいつだけは何があろうと許せねぇわ。七代どころか子々孫々、七七四十九代くらい祟り続けてやるから覚えてろよ!
……てか盛大に話が逸れて、むしろ何の話をしていたのか分からなくなってきたからここで軌道修正。俺がこれまでに仕入れた情報の続きである。
何かもう、先に濃い話を持ってきちゃったから次にこの世界、島とか国の話をしてもたぶん誰の頭にも残らなそうだけど……仕方がないので簡単に流しておくだけに留める。
『イスカリアという島がある。ゴルディアナ大陸の南方に位置する――』
……なんとなく『呪われた島』感が凄いなこのモノローグ。
そうだな。まずは立地からにしようか?
頭の中にヨーロッパの地図――地中海周辺を思い浮かべてください。
そして海をポッカリと丸く広げて、クレタ島を少しだけ南東方向に動かして……反対向きのCの形に囲まれた海の真ん中に移動させます。
モヤッとした感じで想像できたならだいたいそれが俺が住んでいるイスカリア島の位置……らしいです。
情報がフワッとしすぎてる? だってこの世界の地図、空撮写真とかじゃなくただの『絵』だからな? それも家にあったのは戦国時代の日本地図レベルの幼稚園児の落書きみたいなヤツだし。少なくとも平民はその程度の物ですら見たことが無いみたいなので、何となくでも分かるだけ上出来なのである。
ちなみに島の形は逆さまにしたオーストラリアみたいだった。
島の位置と形が分かれば次はその島の勢力図。
そんないびつな逆三角形というか逆台形みたいな地形のイスカリア島。
それほど広くは無さそうな島にも関わらず、『北東部、北西部、南部』と三国に分かれてたりする。
四百年ほど昔は一つ王国が支配する島だったんだけど……遠い過去の話なんて今を生きる俺にはどうでもいい事だな。
話は戻ってこの島の三つの勢力であるが、
北東にある『ペントギア王国』
北西にある『エルゼリア共和国』
南部にある『バルゼリア公国』
どうして全部『王国』じゃないのか? それはもちろん分裂後の国の統治方法が異なっているから。
まぁその辺も話が長くなるだけなので今回は割愛する。
聞き覚えのない地名と国名の羅列で既にうんざりされてるかもしれないけど『本題』と言うか俺の住んでる場所の話はここからだからな?
そんな三国が混在するイスカリア――にある、ペントギア王国の片田舎。
その領内のほとんどは未だに開発が進んでおらず、湿地帯のくせに平地も少ないというとても畑には適していない、むしろ人が暮らすには適していない僻地。
少し西に行けばエルゼリアとの国境、南には『魔物』と呼んでも差し支えのない化け物のような雑食動物、巨大な熊や猪や狼が跳梁跋扈する山岳地帯。
そんな王都で暮らす人間からは『魔境』と呼ばれ蔑まれている、劣悪な環境のクソ田舎でもその地を治めている貴族というのは必要なわけで。
これまで五年もこの場所で生活してる俺からすればそこまで酷い場所だとは思いもよらなかったんだけど……屋敷から外に出て近所の村にすら行ったことがない子供の感想だからなぁ。
もちろん苦労ばっかりで実入りの無さそうなこんな領地なんて誰も欲しがらないのは至極当然。
それでいて、名目上は隣国との国境地帯って言うんだから領主無しで放って置くわけにもいかない。むしろ無人にしてしまえばいいのに……。
そんな場所に、新しく爵位を賜り送り込まれたのが(婆様と仲の悪い、むしろ一方的に距離を置かれていた)侯爵家の娘であるおかんってわけだな。
分家を立てた以上、もう屋敷に戻ることはないと背水の陣を敷くような決意をしたその時のおかん。
跡継ぎを作るために最後に婆様にお願いして小壺を貰い……神殿で祝福を受けて身ごもり、目出度く生まれたのがこの俺ってわけだ。
……なんかこう、期待されていただろうにおかしな転生者が生まれちゃってマジごめんよ……。
もちろん男子が生まれるなどとはこれっぽっちも思ってはいなかったらしいんだけどね?
まぁそんな、少なくともここで暮らす俺やおかん、この世界ではあまりよろしくないと言われているその外見から実家で扱いの良くなかったメイドさんたちにとってははそれなりに満ち足りた毎日を送っていたある日、うちの屋敷に王都から一通の手紙が届いたのである。
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