第4話 未知

「死…………ぬっ!」


ルススは今日何度目かわからない死への覚悟を決めた。


この不審者は何故か投擲の下手人であるゴーレムの元に行くつもりらしいが、そんなのは無理だ。


ゴーレムの投擲を除いたとして、そこにたどり着く道中には敵の造形師たちが作り出したゴーレムたちや随伴の兵士がいるのだ。


(───ほらみろっ!!)



前方には二メートル級のゴーレムが四体。



───戦争において主戦力がゴーレムに置き換わったのは、巨大な兵器としての運用のためだけではない。



むしろ本命はこの二メートル級。



白兵戦において一撃で骨を粉砕するほどの威力と造形師さえ無事であるなら無限に近い再生能力と大量投入を可能とするこのゴーレムには長き渡る戦場の常識をひっくり返せるだけの脅威がある。



四体のゴーレム全てがこちらを認識し、表情の代わりに無機質な空洞をこちらに向ける。


(───ひぃ)



「───こら」



ゴーレムたちの無慈悲な一撃で人生の幕が下りるかと覚悟したが、この女性の呟きと共にゴーレムが一瞬のうちに崩れた。



「……え?」



呆けるルススを余所に、女性は歩を進めていく。



───成人男性は、ある日突然前触れもなく身体が崩れてなくなってしまうだろうか?



答えはNo、だ。

もしそんなことが起こったなら未知の病原菌や新型兵器を思い浮かべるのが普通であろう。


(───偶然ゴーレムの魔力が切れた?それとも敵国の新技術?もしくはこの戦争自体がパフォーマンスだとか?)



未知には、理由を付けなくてはならない。


そうしなくては人は自分を保っていられないから。



───視界に、遠方から迫り来る岩石が見えた。



だが、ルススは不思議とそれに対しての恐怖を感じてはいなかった。



むしろ、恐怖を感じていたのは己を抱えている未知に対してだ。


おそらくなんとかしてしまうのだろうと思ってしまう奇妙な安心感と、何故何とか出来ると思ってしまうのかという恐怖。



そうして、岩石は砕かれた。



現れたのは、土から一瞬のうちに形成された人。


人形というにはあまりにも人間すぎるその未知は、当たり前のようにその小さな拳で巨石を粉砕したのだ。


「おはようかーちゃん!!今日は何して遊ぼうか!!」


それは、まるで産声のようにすら聞こえたのだ。

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土塊のペアレント 異界ラマ教 @rawakyou

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