第3話 母は強し

ルススはビンタの衝撃で宙を舞いながら、兄との記憶を思い出していた。


『おい、ルスス。勉強もその辺にしとけよ。身体壊しちまうよ』


『……放っておいてよ』


『そんなに無理する必要ねーじゃねーかよ』


『うるさいなぁ!!天才の兄貴と違って死ぬ気で努力しなきゃ僕は何者にもなれないんだよ!!』



いくら手を伸ばしても届かない、神から愛された才能。

憧れ、目標、並びたかった存在。



そして一回転。



『兄貴ー、今日の夕飯ってなにー?』


『キャベツとナスの炒め物だった』


『えー、ボク野菜きらーい』


『そんなんだからちんちくりんなんだぞ』


『うっせー色ボケ!』


『……大事な妹に手を出すやつがいたら埋めるけどな』


『なんか言ったー?』



遠い思い出。

もう戻らない日々。



そして一回転。



『おいルスス!ぞーけーしの力見せてやる!』


『なになにー?』


『おっぱい』


『ギャハハハー!!!』



……いや、思い返すとけっこうしょうもないなアイツ。


久しぶりにお母さんの野菜炒めも食べたくなってきた。


今度兄貴と一緒に実家に帰るか。



そして一回転し、地面に激突。

そのままゴロゴロと土煙を上げながら転がっていった。


「めっちゃ走馬灯見た!めっちゃ走馬灯見た!普通に死ぬかと思った!ビンタで死ぬかと思った!」


頬を抑えながらその張本人を見るが、女性はルススには目もくれておらず、遙か遠くを険しい表情で見ていた。


「あのぉ!あなた誰ですか!?ボクはどうしてビンタされたんですか!?」


ギロリ、と視線がこちらに向く。


「ひぃん」


思わず縮こまる。

もはや眼光だけで人が死ぬレベルである。


「……あなた、謝りなさい」


「……え?」


「謝りなさい、って、言ってるのよォ!!!」


ビンタと同じくらいの衝撃の怒号。

全然心臓麻痺で死ねるくらいのショックである。


「い、い、い、いや、でもですね……」


「『いや』『でも』『だって』?どうして、素直に、謝れない、の!!!」



普通にビンタである。


ギュルルルル、とその場で回転する。


やばい、殺される。



「ごめんなさい!!!」



謝罪というよりは命乞いである。


命乞いが効いたのか、彼女はにこりと笑みを作るとこちらに歩いてきて、



「どうして、私に、謝るの!!!」



拳骨である。

地面と熱い抱擁を交わす。

どうしろと言うのだ。


「ごめんなさいはぁ!!目と目を合わせて!!するものでしょ!!」


「はい!!ごめんなさい!!!」


話の通じない輩だとわかったからには言う通りにするのが吉だろう。


「うん、うんうん。優しい子ね。わかったわ。感謝しなさい」


「ハイ、アリガトウゴザイマス……」


一方的な暴力が一端の終結を迎えた時、彼女たちの頭上を巨岩の流星が通り抜ける。


そう、変人が乱入してきたというだけで戦場は未だ絶体絶命なのだ。


女性は舌打ちをするとルススの首根っこを掴み立ち上がらせると言った。 


「あなた、名前は?」


「あ、ルススです……」


しまった、不審者に名乗ってしまった、と後悔する暇も無く。



「そう。行くわよルスス。感謝しなさい」


ルススの首根っこを掴んだまま、女性は岩石の発射地点に向けて走り出した。

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土塊のペアレント 異界ラマ教 @rawakyou

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