母の怒り
第1話 落ちこぼれの造形師
轟音、轟音、轟音。
耳がおかしくなりそうだ。
ルスス・ムイエハンは両手を地面に当てながらそう思った。
『生まれろ』
激しい衝撃音が鳴り響く戦場で、ルススの口の端から溢れるように言葉が紡がれる。
ふわり、とルススの手の平が淡い光に包まれる。
目の前の地面が隆起し、ぼこぼこと何かが形作られていく。
しかし、
「クソッ!」
それはそれ以上の変化をやめ、ぐずぐずと崩れていき土の山に成り果てた。
「もう一度───」
「伏せてください!!術士殿ぉ!!」
随伴していた兵士の叫び声と共に大粒の土の雨が辺り一面に降り注ぐ。
「わあぁぁ───」
瞬時に三人の兵士が盾を構えルススを守る。
そして大きな振動と、少し遅れて臓腑の奥を揺らすような不気味な雄叫びが聞こえる。
『ヴォォォォォォ─────』
ゴーレム同士の戦闘の余波。
破壊された土塊の破片が飛来したのだ。
「無事ですかぁ!!?術士殿ぉぉ!!!」
「うるさぁい!!僕は造形師だ!!!」
四つん這いで何とかその場を離れようとしながら必死に叫ぶ。
最悪だ。なんでこんなことに───。
先日の大地震の影響でルススが所属するアレッシュ王国は甚大な被害を受けていた。
地割れ、家屋の倒壊、そして多くのゴーレムの破損と暴走。
その対応に多くの一級造形師や『銘付き』が駆り出されており、ガラ空きになった戦場にはルススを始めとする三級造形師たちが配置される羽目になっているのだ。
三級造形師が生成できるゴーレムはせいぜい上半身のみの非常に単純な行動しかできない小型のものだ。
主戦力である一級造形師が生み出す四メートル超のゴーレムに対しては焼け石に水もいいところである。
それに、ルススは三級造形師の中でもとびっきりの落ちこぼれなのだ。
(ちくしょう、ちくしょう!)
己の無力さに歯噛みをしていると、突然辺りが暗くなり夜になったのかと錯覚する。
「来たぁ!!増援だぁ!」
兵士の声と共にルススの頭上を覆ったのは巨大な土塊の巨人だった。
「やりましたな!術士殿!我らの勝ちです!」
あわやゴーレムに踏み潰される直前、走ってきた兵士に脇に抱えられ巨人の股下から抜け出す。
「あれはおそらく一級造形師のアレックス殿のゴーレム!!かの御仁は五メートル級のゴーレムを生み出すことができ、『銘付き』候補と噂されることも!!」
よく人を抱えながら鼻息を荒くして喋れるものだな、と思った。
しかしその名前なら確かに聞き覚えがある。
実際問題、ゴーレム同士の戦闘において体格差というのは重要であり、大きさが勝るのであれば戦局は優位に傾くだろう。
と、思っていた。
「……え」
瞬間、背後から破砕音が響き渡る。
「ぬおおおぉぉ!??」
そして数メートル前方に巨大な飛来物が激突し、兵士はルススを庇うようにして地面に転がった。
その飛来物の正体は、岩。
そして背後には半身を失い倒れてゆく巨人。
ルススは青ざめる。
「───まさか、投石、か?」
旧戦場における当たり前の戦術である投石。
これがゴーレムが主戦力の戦場に投入される意味。
つまるところ、相手側に投石を可能とするゴーレムが導入されたという事実に他ならなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます