第17話 私、気になってることがあって

 難波啓介なんば/けいすけ桜田亜佑奈さくらだ/あゆながいる場所は、街中のファミレスだった。


 亜佑奈がバイトをしている喫茶店から少し歩いたところにあり、夕暮れ時なのに関わらず、店内はそこまで混んでいる様子はなかった。

 比較的過ごしやすい環境ではある。


 二人は向き合うようにソファ席に座り、テーブル上には先ほど注文した飲み物が置かれてあった。


 亜佑奈とはクラスは同じだが、殆ど会話したことがなかった。

 むしろ、つい最近から接点を持ち始めたといっても過言ではなかった。


 考えてみれば亜佑奈は、学校では普段から陽キャらと会話している事が多いのに、放課後に仲間と関わっているところを殆ど見ないタイプの子だ。


 やはり、バイトが忙しいからだろうか。


 もしくは、それ以外に何か理由があったり……。


 そう思いながらも、啓介が飲み物を飲んでいると、チラッと亜佑奈の方から視線を向けてきたのだ。


「えっとさ、大した話じゃないかもしれないけど」


 亜佑奈から話しかけてきた事で、啓介は手に持っていた果汁系ジュースのコップをテーブルに置く。


「この前、私がバイトしている喫茶店に、月見里さんと一緒に来てたじゃない?」

「そ、そうだね」

「それで、二人は付き合ってるのかなって」


 彼女の瞳は真剣そのもの。

 適当に発言してきているわけではないという事がわかった。


「……付き合ってるというか、そういう流れになって」

「じゃあ、付き合ってるってこと? 何となく付き合っているだけ? どっちかなって?」


 ファミレスのソファに座っている彼女は、曖昧な返答をする啓介に対し、顔を近づけてきたのだ。

 急な行為に、啓介は正直驚いていた。


「でも、あの子って……私の聞き間違いだったら申し訳ないんだけど。ある噂があるじゃない?」


 亜佑奈から突っ込んだ話をしてきたのだ。


「色々な人と付き合ってるって噂。難波君は、そういうの知ってる?」

「し、知ってるけど。それはただの噂だよね?」


 その話題になった事で、変な緊張感に襲われ始める。


「んー、そうかもね。そうかもなんだけど、もし付き合っているのなら、難波君はどう思ってるのかなって」

「俺は……今のところはなんとも言えないけど。俺も、その件については気にしていたところだったんだ」


 気にはなっていたが、あまり話題にしたくなかった事であり、未だに莉子本人にも聞けていない際どい質問であった。


「そうなんだ。でも、ごめんね、変な事を聞いてしまって。でも、噂だしね。そもそも、月見里さんって、成績優秀で先生からの評価も高いし。そういう嫉妬心から変な噂が広がってるだけかもね」

「そうだといいけどね」


 啓介も、莉子りこがビッチかもという噂に踊らされていたが、実のところ単なる噂かもと考えるようになっていた。


 噂は単なる噂である可能性が高い。


 啓介はヒヤヒヤした心を落ち着かせるように、テーブル上にあったジュースを再び飲み、気分を切り替える事にした。


「ねえ、私ね、ここのハンバーグを食べたいんだけど。注文してもいい?」

「いいよ」


 亜佑奈はテーブルに置いたメニュー表の写真を指さしている。

 断る必要性もなく素直に頷いておいたのだ。


 ここのハンバーグは絶品だと聞いた事はあった。

 啓介も、そのメニュー表を覗き込んでしまう。


「難波君も何か注文しとく?」


 丁度お腹が減っていたところであり、一度はこのファミレスのハンバーグの味を堪能しておきたいと思い、彼女に流されるがまま追加オーダーしておく事にした。

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