RE：処女ビッチですが、何か？2

第52話 油断しましたが、なにか……

「楽しんでるといいけどなー」

　妹は上手くやっているか、しどー君は上手くやっているか、思いを巡らせる。

　まぁ、失敗したらそれも経験だ。どっちのためにもなる。

　さておき、心中がざわつく私が居るのは否定出来ないわけでして、

「寝取られ趣味は無いんだけどね？」

　妹だからこそ、デートも浮気もエッチも許したわけで。

「しどー君の経験値になるのなら、まあ有りよ、有り」

　自分に言い聞かすために言葉にする。

　イイ男になるには、やはり場数は必要だろう。

　しどー君には大きくなって欲しい。下は今でも大きいが。

　私でだいぶ慣れているとはいえ、パターン化は良くないし、女性は十人十色（じゅうにんといろ）どころか、百人百色（ひゃくにんひゃくいろ）だ。

　本当にしどー君のことを考えるなら、どんどん女をあてがうべきかもしれない。私を理由に出会いの可能性を拒否して欲しくないも事実だ。

　とはいえ、いやだなーって気持ちは、恐怖と共に抱いている。

　妹の件は、そんな相反した私が出した妥協でも間違いなくある。

　もし本当にしどー君が私以外に好きな人が出来たら、何だかんだ身を引いてしまうと確信しているからだ。その点に関してはもの凄く消極的な私であるのは自覚している。

　しどー君はそんな私を知ってくれていて、別れないと名言してくれている。

　嬉しさで体が思い出す度に熱くなる。

　帰ってきたらヤル。

　ちゃんと私を教え込んでヤル。

「はぁ……ホント入れ込んでるわよね、私。

　あのマジメガネなしどー君がしないと判っているとはいえ、私の存在がそれを考えさせないようにしてると考えるとかネガティブすぎるわ」

　重い女に成ってないだろうかと常々。

　相反した感情が渦巻いているのが今の私だ。

　それだけ私はしどー君に恋してるし、愛してる。

　思考を割るようにスマホから着信音が鳴った。

『姉ぇ！』

　妹様だ。

　昨日の夜からラインが何かあるたびに飛んでくるので、ちょっとウザい。

　とはいえ、小学生の遠足前の妹を思い出すと、微笑ましい気分になった。あの時も妹は興奮して寝れず、私も道連れで危うく遅刻だった。

　まあ、妹が便りにしてくれるのは姉的には当然、嬉しい訳でしてね？

　人間、色んな感情がせめぎあうからこそ人間なのである、っと何かで見た言葉の通りだと思う。

「しどー君、上手くやってるとみたいね」

　妹の興奮気味な反応から明白だ。

　なお、しどー君にはデート中の私への連絡は禁止しといた。

　そりゃ、デートの最中に別の女とスマホ弄る様な男という印象は良くないのが一点。

　自分で考えるようにして欲しいのが、二点。

　あとは万が一、妹に私としどー君が繋がっていることを勘づかれたくないからだ。

『姉ぇ、横浜駅早くつきすぎた！』

『姉ぇ、キスした！』

　最後、ちょっと待て。

　しどー君からは無いなと思いつつも、状況を聞き、妹が押し倒したことに安心する。

「ま、まぁ、それなら？」

　といいつつ、晩御飯の仕込み用のビーツを切る力に手が入ってしまう。

　バキッ！

　勢い余ってまな板を切ろうとしてしまった。

　動揺している。

　落ち着こう、落ち着け。

　今日の晩御飯は血のように赤いボルシチだ。

　とはいえ、鮮血をいれるのは不味い。

　しどー君は月のモノも綺麗にしてくれるとはいえだ。あれは流石に倒錯的すぎるプレイだった、またヤル。

「ダメ、半分半分で心が落ち着かないわ」

　切り作業を終え、一旦、料理を途中で放り投げる。基本一気に終わらせる私らしくないが、このまま料理するのは危ない。

「嫉妬よね、これ……」

　自問自答で抑え込めたと思った感情を炙り出すように自覚する。

　妹なら良いと言ったのは事実だし、もちろん嫉妬心が私にあることもしどー君に伝えた。

　妹の為なら抑えきれると思っていたのだ。

　それが今、私の中で大きくなってる自分に対して嫌悪感を抱いている。

　私もビッチである前に女だということだ。

　はぁ……、重い。

「とはいえ、妹の幸せを願っている私が居るのも事実だしね？」

　これが無ければそもそも私がしたことに理由が付かない。

　最悪、しどー君が妹に乗り換えてもいいとすら考えていた。

　正直な話、妹の方が私より良いんじゃないかともだ。

　根は真面目だし、今はスケベビッチになっているとはいえ落ち着けば、似合うだろう。

　家事全般は練習すれば出来るだろう。何だかんだ、妹も人並み以上には要領はいい。いつも慎重になりすぎて失敗するだけだ。

「しどー君が興味をもった理由に、妹に似ていたのもあるしなぁ……」

　打てば響く。

　酷い言いようだけど、最初にしどー君を面白いと思った理由がここだ。

「妹はおもちゃ扱いというわけではないけど」

　しどー君の方が最初の扱いとしては酷かったなと思うと笑みが浮かんでくる。

　まだ、出会ってから四ヶ月未満、付き合いはじめてからだと二ヶ月未満。なのに、私の心はしどー君で一杯だ。

　好きな人で処女失えたし、将来の希望も決まった。

　恋の力は偉大だと思うし、この数奇な運命に感謝してもしきれない。神頼みは普段しないが、こればかりは運命の女神か何かに感謝していい。

「……私は幸せ者だよね」

　反面、やはり妹のことが脳裏に引っ掛かる。

　小さい頃から半身のようで、妹と長く居たいがために、妹と同じことをした。姉としてみていなきゃと思ったからだ。

　長距離マラソン始めたのだって、今居る学校を志望した理由だって、それが最初だ。そしてやるならにはと本気になって結果を出した。

　それが妹のプレッシャーになっていると気づいたのは長距離で記録を出した時にようやくだった。

「ビッチになった理由は違うけどねー。

　……妹から離れようとしたことは理由の一つだけど」

　ともあれ、妹が可愛い姉様なのが私に違いないのだ。

　これは一旦、援助交際しまくって妹から離れたことからリバウンドして強く出ている感情だ。今の高校に入るための原動力でもあった。

　反面、私が志望校を一緒にしたせいで妹が受からなかった理由でもあったかもしれないと考えすぎたこともある。

　結局、私は妹が受かった高校（滑り止め）には受からず、だからこそ違う学校なのだ。

「妹にも幸せになって欲しいわけよね。

　これはホントに」

　何度目かの同じ結論。

　悩んでいても仕方ない気もする。

　とりあえず、気分を変えるために晩御飯の支度に戻る。

『ホテルダメそうだけど、次のデートに繋げる作戦でいいよね？』

『いいんじゃない？

　何度も言うけど、回数を重ねることも重要。

　ただ、慣れにならないように、少しずつ攻めていくのよ？』

　まぁ、いきなり処女を散らせるとは思っていない。

　マジメガネが相手だ。

　テクニックは私が教えているので初物でも戸惑いはしないと思うが、気持ちはどうしようもない。

「ともあれ、そろそろ誠一君である時間は終わりね。

　私のしどー君の時間♡」

　見れば、十七時過ぎ。

　しどー君的には、そろそろ解散予定にしている時間だ。

　あのマジメガネはちゃんと予定を守る。

「出来上がったし、迎えに行こうかなっと！」

　私とも少しの間でも良いからデートして欲しいしね。帰宅デートだ。

　ムフフ。

　妹に挑発されて我慢しているしどー君をからかえるかもしれない。

　逆に妹に苦労ばっかりして疲れているしどー君を癒せるかもしれない。

　どちらにせよ、想像をするだけで楽しくなってきたので、しどー君に北口に迎えにいくよとラインを入れておく。これならば、ブルーラインに乗る筈の妹と遭遇しない。

　デートが終わったら観てくれるだろう。

　横浜駅内は広いし、問題なかろう。

　結論的には、これは油断以外の何物でも無かった訳だが。

　この後、すぐ私は後悔することになった。