第50話 高所的な妹だけど、どうしよう……
「ふあ、凄いですね!
横浜市内が一望!」
NEWOMENの屋上について、私があげたのは歓声だった。
みなとみらい側も山側も良く見える。
「高い所、平気なんだ」
「あんまり気にしませんね。
ただ、ここから飛び降りる気分で誠一さんに迫ろうかと」
っと、再び抱き着く。
「ちなみに……彼女さんは居るんですか?」
「居る」
「……ふーん」
正直に応えてくれたことに好感度が上がる。
やっぱり悪い人じゃないんだな、っと。
傷つけないようにとか後回しにしたりも出来ない、素直な人なんだなとも。
「ちなみにどんな人か聞いてもいいですか?
姉ぇに似た私が忘れさせるようにしたいので!
こう付き合ってくれてるのは少しは脈があるかなと思いますし!」
「……」
困った顔を浮かべる誠一さんは悩んでいるようだ。
「そいつはな。
何というか、破天荒なのに、家庭的で、グイグイ引っ張ってくれる。
その癖、甘えたがりで不安症で臆病だ。
ちゃんと好意を示してやらないと、逃げようとするし、何だかなとは思う」
「ふーん……」
何というか想像が付かない。
前三つは何となく姉ぇに似た感じだと思った。
しかし、四つ目以降が追加されていくとイメージが変わった。
臆病という単語は当てはまらないし、行動しろという姉ぇの言葉が例にある通り、本人は逃げないし、初志貫徹する。
付き合う人や好意を持つ対象の傾向はある程度は一貫すると言うし、姉ぇと似た前半部分はそれだからだろう。
何というか、後半は私に似ている感じがあり、親近感が湧くし、私にもチャンスがあるように思えてきた。
「君とのデートのことも話したが、楽しんで来いって言われた」
「余裕なんですかね、それは……」
ちょっと、イラついた。
私の事如きと思われているのか、誠一さんに全幅の信頼を預けているのか。
「女の扱いを覚える訓練だとも言われた。
ホテルでエッチしてきてもいいぞとも。
どうせ相手も据え膳だしって」
「舐められてるー!」
一度、会ってガツンと殴りかかりたい気分になった。
つまり、誠一さんの肥やしにするために使われている。
その程度の扱いなのだ、私は。
女としてのプライドに火がつく。
「よーく、判りました。
それなら、その余裕しゃくしゃくな顔を寝取られた後に歪ませて拝見するとしましょうか!
ホテル行きましょう! ホテル!」
つまり、これは宣戦布告だ。
後悔するがいい。
恋する乙女は無敵なのだ。
「行かないからな?」
誠一さんの顔にヤレヤレと浮かんでいる。
どういう意味だろうか。
「それは私に魅力が無いということでしょうか。
誠一さんは絶対に彼女と別れないという事ですか⁈」
「先ず別れるつもりはないが、前半についてはそういう訳ではないんだが……」
言い辛そうにする誠一さん。
何かを隠している感じというよりは、思い返している感じだ。
なら助け船を出しながら、攻めることにしよう。
「じゃあ、私は魅力的なんですね?」
これはズルい言い回しだ。
気を使った『ハイ』なら詰める。
否でも、罪悪感を植え付けるための布石になる。
「魅力的だとは思う」
「……っ!」
そんな考えが吹っ飛んだ。
彼の眼が私を観て、真摯に応えてくれたからだ。
ドキンっと心臓が跳ね、ペタンと座り込んでしまう。
「大丈夫かい?」
「大丈夫えす……。
そういう真摯な所、彼女さんにもズルいって言われません?」
「言われる」
差し伸べてくれた手を取りながら思う。
彼女さんもこういう所にやられたのだろう。
くっ……羨ましい。
「ありがとうございます!」
「っ!」
と言いながら、彼の手を思いっきり引いた。
不意を上手く突けて私の方に倒れこんでくる彼。
女の武器、大きなマシュマロと腕で押し付けるように抑え込み、
「ドキドキさせられたお返しです」
っと、唖然としたままの彼の唇を奪った。
ふにっとした感触が伝わってくる。
そして離れ際にペロリと、誠一さんの唇を舐めとる。
「私のファーストキスですよ?
意識してくださいね?」
彼の記憶に刻み付けていく。
ずるい女のやり方かもしれない。
とはいえ、こうでもしないと奪えないのではと思い至っていた。
「……参った参った。
よく覚えておこう」
とはいえ、それに慌てることもなく、私の頭を撫でてくる誠一さん。
優しい手つきで、心が温まる。
しかし、同時にその余裕さに悔しさを感じる。
「とりあえず、行こうか。
周りの注目を集めてるから」
「ぁ……」
見れば遠巻きに人種を問わず、多くの人が見ている。
頬が赤くなり思考が固まる。
大胆なことしすぎた……!
私は手を引かれるまま、誠一さんと一緒にその場から離れた。
その手が少し固いことに気付き、内心を察するとキスは効果的だったようだ。
「大丈夫かい?」
肩で息をしながら私に振り向いて誠一さんはそう声を掛けてくれるが、
「……頭ですか?」
私は大丈夫じゃない気がする。
キスしたは良いが心臓がバクバクしている。
とはいえ、後悔していない。
唇をなぞり、思い返す。
……うん、して良かったと思ってる。
性欲に火がつくかと思ったが、逆に心地よい満足感で収まっている。
何というか、凄い。
「いや、いきなり走ったからね?」
「そっちは大丈夫です。
誠一さんこそ、汗ビショビショじゃないですか」
っとカバンからハンカチを出して、拭いてあげる。
「自分のがあるから……」
「いいからじっとしててください。
生徒会活動で小学生とか相手にする時もあるんですから、手慣れたものですよ」
終わり、木陰で座らせて落ち着くことにする。
「ありがとう」
「いえいえ、私が原因ですし」
っと、礼を笑顔で言ってくれるので笑顔で返し、
「とはいえ、私の本気度は伝わりましたか?」
攻める。
「ありがとう。
でも、俺には……あいつが居るからな。
もし違う出会いをしていたら君とあいつが入れ替わってたかもしれないが」
「順番……いつも、悔しい思いをするんですよね。
姉ぇの件といい」
いつもそうだ。
間が悪いという奴なのだろう。
立ち上がった私の背中に、
「とはいえ、君といると楽しいのは確かだけど。
彼女ともまた違って見ていて楽しい」
ポツリと呟かれた言葉。
それは確かに聞こえた。
頬が熱くなる。
口角があがり、笑みが浮かんでしまう。
嬉しいという感情が沸く。
「えへへー。
誠一さん、次に行きましょう!」
攻め時だ。
そう私は前向きに、彼の手を取った。
彼はそんな私に驚いて目を見開くが、笑みを浮かべてそれを快く受けいれてくれた。
「ここも来たかったんですよね」
打って変って高島屋の屋上。
小さな神社が佇んでいる。
「姉ぇ曰く、縁結びのご利益があるので」
「願掛けみたいなものなので、誠一さんは気にしなくても良いです。
私がどんだけ本気かを見せたいだけなので!」
戸惑いを浮かべてくる誠一さんは頬を指でかく。
それでいい。
私がちゃんと好きだと伝えたいだけだ。
そこからは私自身の頑張りだ。
「好きです、付き合ってください。
二番目でも良いんで!」
言った。そして私の初めてのキスを捧げた。
誠一さんは頬をポリポリと掻いてどうしようかと迷っているようにも見える。
応えは求めずに、
「一旦、トイレに行ってきますね。
その間、有か無しか、考えていてください!」
と作戦会議を練ることにした。
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