第49話 デートな妹だけど、どうしよう……
「ドキドキするぅ……」
デートである。
そうデートである。
人生初めてのデートである。
横浜駅前、NEWOMENのエレベーター付近である。
「変なところないよね」
っと手鏡をカバンから出して、確認する。
服装は先日、姉ぇにも見せてお墨付きをもらった組み合わせだ。
ちょっと髪の毛が気になる。
『気にしすぎたらキリがないわよ。
大体、普段よりもきれいにしておくぐらいでいいのよ、ワトソン君』
との姉ぇ探偵の言葉を思い返しておく。
ムリする必要は無い、どうせボロが出るのだとも言っていた。
だから、慣れないコンタクトはやめて、黒い縁の眼鏡にした。髪は後ろで編んだが。
「早く来すぎた……」
約束の二時間前、電車が止まるのも考慮してこうなった。
とはいえ、早すぎた。
時おり観光客が、道を聞いてくるぐらいだ。
私のバカ野郎、どうしたものやら。
「あれ、早いな」
っと、頭を抱えていると声を掛けられた。
見上げれば、誠一さんだ。
赤と黒のチェックの長袖シャツにジーパン。お洒落な手持ちカバンは黒色だ。
「へ……まだ二時間前ですよ?」
「小説でも読んで待とうかなと思ってね?
初音さんこそどうしたんだい?」
っと、取り出すのは文庫本。
最近、何かの賞を取ったとかで話題になった家族モノの一般文芸だ。作者が舞鶴育ちや子供に見えるとかで話題になった覚えがある。
「私はデートが楽しみ過ぎて」
「……そう言われるとプレッシャーかかるけど、お互いに楽しもう」
微笑みを向けてくれる誠一さんはやはり優しい。
何も考えずに来てしまった私が恥ずかしくなる。
「白いワンピース似合ってるね。
ムリをしてないし、シンプルで良いと思う」
不意をつかれた。
構えていないところに褒めが着て、頬が赤くなってしまう。
「あいつもこういう格好似合うだろうになぁ」
っと、口からこぼれたのが聞こえた。
あいつ、つまり姉ぇのことだろうか。
姉ぇには彼氏がいるが、どういうことだろうかと思う。
または今の彼女さんのことかと、思い至る。
五月までは居なかったらしいが、今は七月だ。
そういえば聞いていない。
迂闊だ。
「早めだけど、何かしたいことあるかい?」
「え、あ、はい!
朝ごはん食べてないんで!」
「じゃぁ、どこかで軽く食べようか?」
「は、はい!」
突然言われ、慌てる私を気遣うように手を取ってくれる。
鼓動が跳ねてるのが聞こえないか、不安に思う。
何というか、女性の扱いになれている感じがあり、同じ歳だというのに大人に思える。
彼女とかいるんだろうか、やっぱり。
連れられるまま、この前と同じチェーンのコーヒー店へ。
「イノダとかの方がよかったかな?」
「いいえ、流石に私、コーヒーの味も判らないんで!」
「なら、よかった」
っと渡してくれるのは、モーニングプレート。
いつの間に。
「お金払います!
私が誘ったんですから!」
「いいさ、これぐらい。
昨日の意趣返しも含んでるから」
っと彼は私が慌てているのを嬉しそうに微笑みながら、自分のコーヒーを飲み始める。
大人の余裕という奴なのだろうか。
絵になっている。
「……ありがとうございます」
「僕も食べてなかったからね。
丁度良かったさ」
申し訳なさそうに言ったのに、彼は嬉しそうに微笑んでくれた。
「そんなに緊張されると僕も困るから自然体でいいよ?
そう昨日みたいに自然体がいい」
「……慣れてるんですね?」
「んー、慣れているわけではないけど。
僕も緊張している。
手を繋いだとき、バレないかヒヤヒヤしてた」
っと、改めて見せてくれる手は確かに少し震えている。
そんな実直な彼に好感を得、笑みが浮かぶ。
「この後は何処に行こうか?
コースを聞いてないから、わくわくするけど」
「そうですね」
っと、メモ帳を取り出す。
姉ぇに聞いたデートメモだ。
「オーソドックスに横浜周辺とか、行こうかと思いますが」
「いいね。
僕も市内住みだが、行ったことあまりないしね」
っと、とりあえず二人でNEWOMENの上にエスカレーターで向かっていく。
「……」
会話が少ない。
話題のとっかかりが無いともいう。
デートという文字を意識しすぎている。
これじゃダメだ。
「あの、誠一さん」
「なんだい?」
「いい天気ですね」
「そうだね」
終わり。
……ああああ、私のバカバカ、これじゃダメだ。
姉ぇから聞いた話題リストを浮かべて、考え、次の一手を打つ。
「結構、蒸し暑くなりますよね、横浜市内。
ところでどこら辺に住んでいらっしゃるんですか?」
話題の一つは、相手の情報を話題にすること。
興味があると示せて好感度が上がるし、情報も得られて、一石二鳥だ。
「横浜駅の隣接しているマンションの一つだね」
姉ぇのマンションの近くだと思い出す。
良い所に住んでる。
「お一人で?」
「いんや、住み込みの家政婦と一緒で」
良い所の人なのだろうか。
家政婦とか、ちょっと一般市民には想像が出来ない。
姉ぇを囲い込んだ人もいるが。
「お金持ちさん……?」
「僕自身は普通の高校生だが、親がね?」
普通の定義が壊れそうだ。
「君の家族はどんなんだい?」
と、返しに問われ、悩む。
あんまり考えたことが無い。
ここで、第二の話題リストが浮かぶ。
共通の話題を探し、親近感を沸かせるのじゃぞと姉ぇの直伝だ。
「姉ぇは、知ってるかもしれませんが自分の事をビッチだと言っていて、奔放で」
「あー……」
共通認識、つまり姉ぇだ。
思い浮かべたのか、遠い目をする誠一さん。
「最近は彼氏と同棲していて、ムカつくほど幸せそうですが」
っと、本音。
誠一さんは乾いた笑いを浮かべるだけで、考えが読めない。
ただ姉ぇに何らかしらの感情を抱いているのは間違いないようだ。
やはり恋心とかではないかと、直感が働く。
「親御さんは?」
「こっちも年中ラブラブしててやはりムカつきます。
反抗期だという自覚はあるんですけど」
「そう出来ることはある意味幸せだと思うけどね」
「どういうことでしょうか?」
「親の仕事が忙しくなって中学からは別居してるからね。
小学時代は一緒だったけど、今は妹も独り暮らししてる」
そう述べる誠一さんは寂しそうだった。
「……それ、寂しくありません?」
「寂しかった。
過去形だね。
今はまぁ、親の仕事も理解できるようになったし、一人暮らしさせた理由も理解した」
「すいません、しんみりさせてしまって」
「いやいい、僕がこんな話をするように誘導した感じがあった。
申し訳ない」
真面目に謝ってくれる。
私が聞いたのが悪いのにだ。
なんとなく気まずくなって、沈黙のまま、坂を上っていく。
謝ってほしかった訳でも無い。謝りたかったわけでもない。
もっと知りたかった、それだけなのに。
『攻めろ』
ふと、姉ぇの言葉が浮かんだ。
何を躊躇しているんだと、怒られた気もする。
「……よしっ!」
気合を入れて、誠一さんの腕を観る。
ターゲットオン。
「⁈」
抱き着くと、驚いたように私を観てくる誠一さん。
姉ぇよりも大きい胸をぐいっと押し付けてやる。
「デートですから、これぐらい良いですよね?
私の魅力を知ってください♪」
「……君が良ければ」
「良くなければ抱きつきません。
姉ぇの代わりだと思って♪」
っと、強気で攻めると誠一さんは黙る。
慌てずにいられることはちょっと悔しく思う。
でも、頬を赤らめてくれることから意識させることは出来たのではとプラスに考える。
デートは始まったばかりだ。
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