第45話 妹が淫乱な意味で処女ビッチ化してるんですが、なにか……? 

 結論、妹が私の彼氏に惚れたらしい。

 これだけなら、妹をしばきたおして終わりだ。


「但し、妹はマジメガネとその人が繋がっていないのよね……。

 そして、ウチの彼氏は当然、惚れられたことに気づいていないだろうし」


 ――なんともバカげた話である。


 さて、何故、私がこんなことに気付いたかというと、


『姉ぇ、私に化粧とかオシャレを教えて!』

『明日は槍でも降るわね……』


 それは、しどー君が帰ってくるのを指を折って待っている最中、電話がかかってきた。

 しどー君か?!

 と出たのに、珍しく興奮した大きな声の妹で、耳にダメージを負った。

 徹夜でやった後、ちょっと昼寝しすぎた頭をグラグラと揺さぶるのでイライラしてしまった。


『いいけど、突然何で……』


 とはいえ、私は妹に甘い。

 珍しい妹様の懇願に耳を傾けることにした。


『痴漢されて……』

『昨日の覗き見で発情フェロモン撒き散らしながら電車乗って男でも引きつけたの?』

『……そうなのかな?

 朝は大丈夫だったけど……』

『間違いない間違いない。

 基本、痴漢に会うのはエロオーラ出してる気弱なじみっこの方が多いのよ。

 つまりあんたのことであんたも悪い』


 いやまぁ、自分で処理することすら覚えが無い妹には刺激が強すぎたかもしれない。

 反省、そして妹への怒りが萎える。

 とはいえ、姉なりの気遣いはしたので、それ自体に負の感情は抱かない。

 覗く妹が悪い。

 とはいえ、アフターフォローぐらいはしてあげなくもない。


『で、連れ込まれそうになって……』

『え、したの⁈

 そして手籠めにされて快楽堕ちで惚れちゃったの⁈』


 ちょっと、意外なことになっている気がして、私は声を荒立ててしまった。

 流石にヤバい、止めよう。

 体の快楽に心を持ってかれて、制御できないのはヤバい。

 私自身がたまに懸念してる破滅フラグである。妹も当然なりえる可能性が高い。

 上手にやれなかった先輩にそういったことになった人が居たのも聞いている。

 ビッチネットワークという奴だ。

 最近、ご無沙汰だが。


『違う違う、助けてくれた人が居て、その……あの……』

『ははん、一目惚れでもしましたか。

 吊り橋効果ってヤツね』

『……っ』


 図星のようだ。

 珍しいことだ。このご時世、そういう正義感が溢れる人が私の彼氏以外に居るとは。

 

『姉ぇの知り合いらしいけど。

 初音の妹かって自分で納得してたよ?

 後、姉ぇがパパ活してたの知ってた』

『女性?』


 横浜市内の女性友達数人が浮かぶ。

 レズも居たりするが、基本、良い奴らだ。

 最近ご無沙汰なので、カラオケぐらい行くのはありかもしれんね?


『男性!

 私、ノーマルだし! 女性に一目惚れしないから!』


 妹がレズな方向に進んだ想像をしたと聞こえたらしい、反省。

 いや、実際そうなのかとも思ったが。


『ともあれ、男性でか……』


 援助交際していた数人が浮かぶが、そっち方面は全力で止めることにする。

 男性経験ゼロな妹が御せるとは思えないのだ。私も最後は危なかったし。


『歳は?』

『同い年。

 私と塾が同じで、同年代の違うクラスだから間違いない。

 レベルは一番上だって言ってたよ』


 そんな頭のいい奴が同年代の男性で親しい知り合いや友人や援助交際相手はいない筈だが。

 そもそも年上しか私が相手をした人はいないし。


『誠一さんていうんだって』

『誠一……?』


 何かよく聞く名前だ。

 思い出そうとする。

 ……。

 思い出せない。

 クラスメートの誰かだろうか。

 頭良いと言えば、しどー君と委員長だが。

 委員長は名前からして違う。

 ……。

 ん?


『特徴聞いていい?』


 思い至り、声をなるたけ冷静にして聞いてみる。


『姉ぇや私よりも背が高くて、目のあたりが奇麗で、服もピシッと真面目ぽく決まっていて、黒髪も整っていて……』


 長々と話してくれるので、話半分に聞く。

 しかし、特徴的には私が変身させたしどー君だ。


『眼鏡とか、そう言ったのは?』

『無かったよ』


 今日、しどー君はメガネをしていっていないのを思い出す。


 間違いない――妹の初恋相手はしどー君、私の大好きな彼氏の本名は、士道・誠一だ。

 彼なら痴漢にあってる少女を助ける。

 後で裏を取ろう、そうしよう。


『ちなみにウチの彼氏とどっちがかっこよかった?』

『全然、誠一さんの方がかっこよかった』


 ちょっと、ぶちまけてやろうか、どうしようか悩む。

 ムカつき半分、優越感半分な感じだ。

 ふと私の脳裏におせっかいと悪魔めいた考えが浮かぶ。

 妹も磨けば光るのだ、しどー君のように。

 それに妹の自暴自棄は防がなければならなし、一石二鳥な名案だ。


『あぁ、なるほど。

 確かに私のよく知っている人だわ』

『ぇ、ほんと?』

『私は嘘はつかないわよ。

 嘘は。

 妹よ、あなたに私が嘘をついたことがあったかなぁ?』

『……無いです。

 たまに言わないことはあるけど』


 嘘は無いのだ。

 最近の嘘だって、しどー君の事が嫌いって言った、あの件だけだ。

 ビッチは嘘をつかない。

 基本、欲望に正直なのでつく必要が無いともいう。

 嘘をつくときは相手の事を思ってだ。


『彼、基本的に真面目だったから、五月ごろまでは彼女が居なかった筈よ。

 その後は、本人に聞いてー』

『聞けない、聞けない!』

『なら、行動せずに縮こまってなさい。

 それで死ぬまで処女よ。

 この淫乱処女ビッチ!』

『……淫乱処女ビッチって……』

『私と似たあんただから言うけど。

 その彼とエッチしたいと思ったんじゃないの?』


 黙る妹。

 ストレートに言いすぎたかもしれないが、これぐらい言ってやらないとダメだ。妹は意気地なしで、気合負けしてしまうのだ、いつも。


『……ぅん』

『なら、それに向かって行動するしかないじゃないの?

 違う?』

『違いません……』


 焚きつけておく。

 身だしなみやら、人に見られるということを意識するにはいい機会だ。

 いつもメガネで飾りっ気が無いとか、生きていく上では損失だ。

 この機会にしどー君にさせたようにちゃんとさせようという魂胆だ。

 妹思いなのだ、私は。

 ねじ曲がってはいるが。


『さて、晩御飯の用意してるから、切るわね。

 化粧とかオシャレの件は後で、教えるわ』

『ありがと、姉ぇ』


 お礼を言われたのは久しぶりな気がする。

 電話を切り、


「マジメガネのしどー君が私以外を抱く訳ないんだけどねぇ。

 とはいえ、妹が今のままだと危ない気がするわね」


 と、惚気半分、真剣半分で考えを回す。

 独占欲はあるが、しどー君には男性として成長して貰いたい気持ちもあるのだ。

 ふふふ。

 妹よ、協力してあげようじゃないか。

 しどー君を教材にして、男性との付き合い方を教えてしんぜよう。

 ついでに、しどー君には、私以外の女性と上手くなぁなぁにする方法も学んでもらおう。

 そうこう考えているうちに、私のしどー君が帰ってきた。

 そうして物語は冒頭に繋がる。

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