第44話 痴漢中な妹だけど、どうしよう……
「――っ!」
電撃のような衝撃が身体中にはしった。
それは土曜日の夕方。あざみ野駅から乗り換え、塾がある横浜へ向かうブルーラインの中だった。
私は隣の車両に繋がる連結扉の前に追いやられていた。
通学・通勤時間で人が多く、致し方ないと諦めつつ、携帯アプリで単語を勉強していた時だ。
――とんとん。
お尻を叩かれるような感覚。
下。見れば、手の甲だ。
偶然だろう、と思い無視する。
――とんとん――ととんとん。
また来た、しつこい。
どうしようかと悩んでいるうちに、ぞくっとした電撃のような感覚が来たのだ。
「っあ……!」
力強くお尻を揉まれていた。
ビリビリとした感触が頭を突き抜け、
「――っ」
痴漢です!
と叫ぼとするが声が出なくなっていた。
昨日、一日呆けていたせいかもしれない。
普段なら嫌な事なのに、甘い声が漏れそうになってしまっている。
背中までゾクゾクした感覚が来、ビクンビクンと体が跳ねてしまう。
体だけが別の生き物のような感覚だ。
相手もそれに気を良くしたのか、更に下へと手をはわせてくる。
「やぁ……っ」
体を小さく振り拒否を示すが、相手の手はお構いなしとスカートの中へ。
大きな手にぬめっとした液体の感触を自覚させられる。
(なんで私なんか狙うの……。
姉ぇなんかに比べて地味で、眼鏡の私なんかぁ……っう!)
惨めな気持ちになりながら、耐える、耐える、耐える。
けれども、私の体は正直に相手の動きに合わせて、魚が跳ねるよう反応してしまう。
私が雌だと否応が無く、気持ちよさに自覚させられていく。
「……っ」
お尻にズボンを押し付けられる。
大きくて熱いモノの感触。
私の体で興奮しているのだと思うと……頬が熱くなってしまい、頭の中が掻き乱される。
正気じゃない。
私も、相手も。
『横浜、横浜』
降りる駅。
そのアナウンスで意識を戻される。
頭を一回振り、走るように電車を降りる。
「はぁはぁ……」
大きく深呼吸し、まずは
私を見て、怪訝そうな顔をして歩いていく人たちは基本、皆興味が無く、日常に戻っていく。
「大丈夫ですか?
顔が赤いようですが」
声を掛けられてビクンとし、顔を向ける。
姿かっこうからサラリーマンのように見える。
心配するような
「まるで、痴漢にあって興奮しているかのようだ」
私に向けて差し出される手には、濡れたものがぬぐわれた後。
この人が私の体をまさぐったのだと、すぐ気づいた。
体が恐怖でコワバり固まってしまう。
「少し休憩した方がいいんじゃないかな?
オジサンが案内しよう」
そして嬉しそうに言ってくる
私のような気弱な少女を狙っては手込めにする。つまり、そういう事なのだろう。
喉が震えて声が出ない代わりに頭を横に振り、拒否を示す。
「君のようなシャイそうな子は素直になった方がいいよ。
何人もカウンセリングしてあげたが、皆、夢中になった。
特に君なんかは大きな胸や整った顔なのに素材を殺してしまっている……もったいない……」
っと、手を掴まれてしまう。
「いやぁ……」
「いいからいいから。
オジサンが楽にしてあげるよ。
きっと、人生が変わるよ?」
振り払おうとするが、力の差は歴然な上、身体に力が入らない。
「痛い目にあいたくないだろう?」
ムンズと私の頭を強く掴む。
頭蓋に
「あれ、初音?
眼鏡してどうした?」
聞き覚えのある声で苗字を呼ばれ、振り向く。
誰?
何処かで見た感じはあるが知らない男性だ。
黒色の髪の毛はしっかりと整えられており、長身で、眼のあたりのつくりも優しさを感じさせて奇麗だ。
体のバランスも痩せすぎず太すぎない。
……かっこいい。
色々あって、思考が呆けてしまっているのだろう。
知らないその人を見て、トクンと胸が高鳴った。
「あー、妹の方か。これから塾だというのに……」
姉ぇの知り合いらしい。
私と姉ぇは確かに恰好の好みこそ違えど確かに似ている。
「……その人は知らない人だね?」
「……はぃ」
微かだが、声を振り絞れた。
「介抱してくれてありがとうございます。
代わってお礼します」
「なんだ、お前は!」
「同級生ですが、なにか?
警察にはツテがあるから必要であれば呼びましょうか?」
と彼が睨みながら、携帯を操作する。
「ちっ!」
サラリーマン風の人は私を放り投げるように彼にぶつけ、悪態をついて去って行ってしまう。
助かったと思うと同時に、今まで湧かなかった恐怖心が沸き、
「――っああ」
声にならない悲鳴で泣き叫びながら彼に抱き着いてしまった。
知らない人だというのに。
そしてしばらくしたら落ち着いた。
そして
顔から火が出て、再び落ち着きがなくなり、彼の胸の中から慌てて離れる。
「あのあの、お名前をお聞きしていいですか……?」
私は何てことになっていたんだろうと自己嫌悪し……、更には彼を見ると心臓がバクンバクンうるさく跳ねる。
それを誤魔化すように述べた台詞がこれだ。
彼は一旦、整った顔を怪訝そうにして何故か困惑を示すが、
「あぁ、確かに名前は言ってなかったね。
「誠一さん……私は……」
「知ってる初音さんだろ?
初音の妹の」
姉ぇと敬称無しで呼び合える程度かつ私のことを話せる程に、仲がいいらしい。
援助交際相手の誰かだろうかと邪推をしてしまい、流石に失礼だと打ち消す。
同年代に大金を貢がせるような姉ぇではない。
多分。
「誠一さん、すぐ着替えてきますので、ちょっと待っててください!」
っとコンビニで下着を買って、トイレの個室へ駆け込む。
今履いているのを脱ぐと、
「うわ……」
引いた。
糸も引いてるし、私自身も引いた。
ぐちゃぐちゃで、メスの匂いが個室に立ち込める。
自分で出したとはいえ……自己嫌悪してしまう。
もう姉ぇのことをビッチと言えない気がする。
自分も性に貪欲だということが、嫌でも実感してしまった。
正直、痴漢は嫌だった。しかし、体は気持ちよいと反応してしまったのは否定出来なくなっている。
自己嫌悪が再び襲ってくる。
「……しっかりしろ、自分」
頭を振って邪念を撲滅し、ささっと着替える。
「お待たせしました」
「別に、大丈夫だ。
何かあったらことだし」
コンビニ前、待っていなくてもいいのに、待ってくれていた。
その事実が私を嬉しくする。
「初音さんの方こそ、大丈夫かい?」
「はい。
……先ほどはありがとうございました。
その、はい、みっともない所もお見せしまして……。
抱き着いたり」
「いや、初音さんが無事でよかった。
それに僕の胸程度で落ち着いてくれるなら安いもんさ。
困っている人は見捨てられん」
私を観て彼が微笑んでくれる。
――トクン。
心臓がうるさい。
さっきからずっとこうだ。
頬も熱をもってそうな感じだ。
「顔が赤いが大丈夫か?」
言われ、右手でおでこを触られる。
ヒンヤリとした感触が私に伝わり、気持ちよくなり、
「ふぁ……」
瞬間、思考が溶けた。
先ほど痴漢と会った時のような快感が体中に行き渡り、足元から崩れ落ちそうになる。
ただ大きな違いがあった。
(もっとして、して欲しい……)
心の底からその手に身を委ねたくなっている自分がいた。
「いえ、だ、だ、大丈夫です」
慌てて、離れ、深呼吸。
(すぅ……はぁ……)
落ち着く。
そして面白そうに私を観てくれている彼と目線が会うと、胸がまた跳ねた。
制御不能だ。
どうしたんだろう、私は。
「ぁ……」
お腹の奥が更に大きくトクンと鳴った気がした。
脳裏に思い出されるは、姉ぇとしどーさんの情事。
私も、この誠一さん……っと、したいと浮かんだのだ。
初対面にも関わらずだ。
ハシタナイと感じる自分は居ない。
それどころか、この人が運命の人なのだと、決め付けてそれに違和感がない。
一目惚れ、初恋というのはこういうことなのだろうか、そう自覚した。
「……あの、誠一さん」
「何だい?」
「今度、またお会いできませんか?
……その、今日のお礼をしたいので」
と、私は初めて男の人に誘いをした。
彼は悩んだ様子を、一瞬だけ、見せたが、
「判った」
っと頷いてくれた。
私の心が兎の様に跳ねた。
「連絡先も交換していいですか⁈
お願いします!」
っと、勢い余って誠一さんの胸元に携帯をグイグイと押し付けてしまう。
そんな様子を怒らずに、笑ってくれる。
やっぱり優しい人だし、同年代のクラスメイトに比べ大人びている感もあり、ますますカッコよく感じる。
「これでいいかい?」
「はい♪
ありがとうございます!」
っと、交換が完了する。
「おっと、そろそろ塾に行く時間だ」
「あ、私もです」
携帯の時間を観てお互いに気付く。
「送ろう、どこだい?」
聞かれ答えると、同じ塾だ。
嬉しくなりながら、隣で歩く。
クラスを聞くと、彼は一番上。
私は平均より少し上だ。
一緒じゃなくて寂しいという気持ちが沸く。
「……勉強できるんですね?」
「これしか取り柄が無いからね、初音にもよく弄られる」
また、姉ぇが話題に出た。
……気分が悪くなる。
イライラした感情には覚えがある、嫉妬だ。
「姉ぇがその……援助交際とかしてたのは……」
私の女の部分がそう言わせていた。
「知ってるし、今は違うことも知っている。
初音自身は悪い奴ではないし、初音のことを悪く言いたい訳でも無いだろう?」
「……はい」
諭すような口調に、ハッとさせられる。私は姉を貶めるところだった。いけないいけない。
「まぁ、それに関しては病気みたいなものだから。
少しづつ直っていくと思う」
話す話題が無くなり……塾についてしまう。
「ここでお別れだ」
「はい……」
お別れの時が来てしまった。
寂しく思い、手が震えてしまう。
「もし、帰り道で怖いようだったら、連絡をくれ。
隣で歩くぐらいは出来るし、横浜駅までだったら送れる」
そんな私を観てくれたのか、突然の提案。
本当にこの人は優しいと、私の胸が熱くなった。
「……はぃ!」
そして思いっきり笑顔を向けることが出来た。
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