第46話 日曜日な妹だけど、どうしよう……

 日曜日、家の家事をしながら、昨日のやりとりを思い返す。

 誠一さんに横浜駅のブルーラインのホームまで送ってもらったのだ。電車が出るまで見てくれていて、まるで恋人同士のようだった。

 それを何度も何度も反芻し、


「……はぁ」


 熱のこもった深いため息がその度に出る。 

 ホントに誠一さんは優しく大人だ。同年代のクラスメイトなんかより、全然カッコいい。

 横浜駅までの途中も彼は私が地下鉄に向かう迄の間、他の人から庇うように盾になってくれた。

 どんだけ混んでいても、私は苦しくなかった。

 私に少しだけ押し付けられると、彼は一言、


「苦しいけど、我慢してくれ」


 と、私の心配をしてくれた。

 そこで一番、気になったのは彼の目線だ。

 私の胸は人目を引く、最近は姉ぇよりも大きい……太っただけともいうが。

 男性の目線は必ず、胸に行く。


「……どうした?」


 疑問を浮かべる彼は違った。

 私の顔を観てくれていた。

 何というか、誠実な人なのが名前通りなんだな、と思うと更にかっこよくみえ、嬉しくなってしまった。


「思い出すだけで、カッコいいよ……カッコいいよ……はぁ……」


 今日何度目のため息だろう。

 痴漢から助けてもらい送ってもらっただけだというのに、何度も何度も何度も思い返し、熱いため息をしてしまう。

 こんなことは初めてだ。

 初恋おそるべし。


「ぅぅ……くぅ」


 そしてそれをオカズにベットの上でしてしまうのは何度目だろう。

 今までしたこと無い分、刺激が魅力的すぎて止まらないのだ。

 何度も姉から借りっぱなしのマッサージ器で、自分を慰めてしまう。

 体中に痺れる感覚がはしり、跳ねて、気持ちいい疲労感が襲ってくる。


「ふぅ……」


 自分がこんなにも淫らだったとは思わなかった。

 確かにこの前見た、姉ぇの情事はすごかった。まるで、獣のようだった。

 初めて他人のを観て、初めて自分のを弄った訳だが……それからずっと火照ってる感じがくすぶっている。


「姉ぇのこと言えないよね。

 ビッチなんて……」


 というか、私自身もそうだと自認してしまっている。

 俗にいう賢者モードという奴なのだろう。

 体はともかく、少し精神的に落ち着く。

 観ればベッドの上が酷いことになっていて、下着も自分の粘液でベトベトだ。

 酷すぎる。


「……洗濯しよ」


 まだ、日曜日の午前中である。

 間に合うし、親も仕事でいない。

 そしてそれらを干しながら姉ぇの連絡を待つ。


「こんなエッチな子だと思われたら引かれちゃうかな……」


 どうなんだろうかと、思うと不安になる。

 何というか、彼からはマジメそうな感じを受けたからだ。

 普段の私なら問題なかったはずだが……今はビッチとか、スケベになってしまっている。

 こんな私では彼に似合わないかもしれないと暗い気持ちになる。

 しかし、欲望が抑えきれない。

 誠一さんに触って貰いたいし、したい。


 ピロリん♪


 落ち込みそうな所に姉ぇからの連絡が来た。


『情報よ。

 姉ぇ様に感謝しなさい!』

『姉ぇ大明神様ナンマンダブナンマンダブ』

『それ死んでるわよね、私!

 仏よね、それ!

 断固抗議!』


 と、ラインに怒りを示したキャラが送られてくる。

 ともあれ、


「ふむふむ」


 と読み込んでいく。

 どうやら、最初の印象通り真面目な人みたいだ。

 あと、やたら正義感が強いと。

 ん?


「……大きいって、どこ情報」


 下半身のことだ。

 どうやら高校が同じなので、男子から聞いたのかもしれない。


 大きいのかぁ……。


 そういえば、姉ぇの彼氏も大きかった気がする。だいぶ前に見たパパのと比べてだが。

 ただ百戦錬磨の姉ぇも大きいと言っていたしどーさんだ。


「あれぐらいなのかなぁ……」


 しどーさんには悪いが、下だけ思い返し、唾を飲み込んでしまう。

 顔を誠一さんにし、体を当てはめると……体がまた快楽を欲しがる。

 少し前までの私なら考えられないことだ。


「落ち着こう、うん、落ち着こう」


 言いつつ、マッサージ機に手をつけようとするあたり、結構、ダメかもしれない。


 ピロリん♪


 姉ぇかと思い観る。


「あわわ……」


 不意を突かれ、携帯を落としてしまった。

 誠一さんからのラインだったからだ。


『大丈夫かい?

 昨日、色々あったと思うが』


 気遣いの言葉だった。

 心が暖かかくなり、そして自分の慌て具合に自己嫌悪する。

 慌てて震える手を押さえつけながら、深呼吸。そして、


『大丈夫です。

 お気遣いありがとうございます』


 とだけ、送ると


『良かった』


 とだけ、返ってくる。

 スタンプが来ないのも、彼の真面目さを感じる。

 とはいえ、ここで話題を切ってしまったら私の初恋が終わる。それはイヤだ。


『それでお礼を兼ねてまたお会いしたいのですけど。

 来週土曜日、塾後とかどうです?

 まだ一人で帰るのも怖いですし』


 攻めることにする。

 我ながら、相手に拒否の選択肢を与えない文面で、女だと自覚してしまうが、まあ、いい。

 私だって女だ。


『それなら大丈夫だ。

 塾のエントランスでいいかな?』

『よろしくお願いいたします』


 ガッツポーズ。

 これで次の日か、そうでなくても次の機会に繋げられれば良い。

 平日に会えないのは寂しく思うが、それは学校が違うので仕方ない。

 受験に落ちた自分が悪い。


「……あぁ、それを思うと受かってたら一緒の学校だったのかな」


 スクールラブか……憧れる。体育館や、誰もいない教室で、ラブラブできれば、それはそれで楽しいだろう。

 とはいえ、それはありえない妄想だ。

 現実は姉ぇが彼氏と一緒に楽しくやっている。


 はぁ……。


 何故、あのお気楽な姉ぇが順調で、私の人生ハードモードなのだろう。

 そう呪わざる得なかった。


「とはいえ、私も初恋実らせたら……えへっ」


 そう笑みを浮かべながら、またマッサージ機に手をかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る