第42話 覗き中な妹だけど、どうしよう……

 目覚ましで起きると、知らない天井だった。


「あ……姉ぇの彼氏さんの家か……」


 その姉ぇの部屋だ。

 二人はもう学校に向かったようだ。

 ニュースを観ると、ブルーラインの浸水は納まったようである。

 時間を見ればまだ七時だ。

 ここからなら、私の学校は歩いてすぐだ。

 まだ一時間以上は余裕がある。


「とはいえ、惰眠を貪れる私でも無い訳で」


 真面目なのだ、私は。

 とりあえず、軽くストレッチをする。

 そして居間へ。

 今のテーブルの上、朝御飯が用意されている。


『妹へ、朝はきっちり食べること!』


 見慣れた文字のメッセージカードも添付されている。鍵も置かれていて、今度返して、とも書かれている。


「言われなくても食べますとも……」


 最近、見なくなった姉ぇの綺麗な文字だ。

 両親ともに働いていて、姉ぇが家事をしてくれて、私にはするなと厳命してきた過去を思い返す。


「料理も洗濯も掃除も出来なかったし……」


 過保護な姉である。

 とはいえ、最近は出来るようになった。

 人間、追い詰められれば出来るようになるものである。


「とはいえ、ご飯の偏りは隠しようが無くて」


 その……太る訳だ。

 胸が特にきつくなっている。


「姉ぇに女として負けているのは仕方ないにせよ……」


 医学部に行く。

 こう断言していた。


「このままだと唯一、勝てていた部分も勝てなくなる」


 嫌だなぁっと思う。

 すでにこの一点は高校受験の時に味わって割りきれたとはいえ、あれを永続的に味わうなんて耐えれないだろう。

 今まで姉ぇに追随され、追い抜かれなかったことが無かったとはいえだ。


「……私も彼氏できたら変わるのかなぁ」


 姉ぇみたいにビッチ化するのはさておき、少しは角が取れるのだろうか。

 学校でも真面目なため、信頼はされるもの、ほかの女生徒とは壁みたいなものを感じる。

 空気を読めと言う話も暗に言われることもある。

 生徒会の傘もあって虐められずにはいるモノの、ちょっと怖くなることがある。


「人付き合いも苦手だしなぁ……」


 役割を持った相手に役割で話すのは苦ではないのだが。

 例えば、昨日の様に初対面の人と話すときに壁を感じることが多い。

 特に同年代。

 偉そうだとか、そう陰で言われて無いか不安になる。


「はぁ……」


 考えていると悪い方向に行く。

 とりあえず、朝御飯だ。

 トースト、ダイス状にバラバラにしたゆで卵とピクルスにマヨネーズを合えたモノ、コーンスープ、野菜サラダ。


「く……っ」


 女性味あふれるラインナップだ。

 お洒落だ。

 さりげなく、皿の色合いとかにも拘っているのが判る。


「家に居た時より、美味しくなってる……」


 食費に不自由しなくなったのも大きいのかもしれない。

 野菜サラダのドレッシングもどうやら自家製だ。

 凝ってるのは食べていれば判る。


『愛の力よ!』


 脳裏の姉ぇがそう言った気がする。

 何というか、女としてのレベル差が取り返しのつかないものになっているのは間違いないだろう。

 姉は彼氏持ちにもなって、仲も非常に良い。

 妬みが沸かないといったら嘘だし、負けた気持ち抱く。


「……ごちそうさまでした」


 量も丁度。

 食事的には満足した。

 けれども、心情的には見せつけられた気がして、何ともいえない気分になった。


『片づけなくていいわよ。

 割るから』


 と、言付けも書かれている辺り、何ともだ。

 ムッとしたので、皿洗いぐらいはと思ったが、結果、割ってしまった。

 慣れないキッチンというのもあったが、それは言い訳だ。


「どうしよう……」


 憂うつとした朝だった。


 ◆


「どうしよう……」


 朝、慌てて皿を掃除したのが悪かった。

 参考書を姉ぇの部屋に忘れたのだ。

 そして放課後、取りに来たわけだが、出るに出れない状況になっている。

 何故かと言うと……


「しどー君……」

「初音……」


 入口から音がしたと思って覗いた瞬間、姉ぇと眼鏡をした真面目顔のしどーさんがキスを始めていた。

 それに驚いて声を掛け損ねたのだ。


「ちゅ……ちゅ、くちゅ」


 舌を二人で貪りあったかと思うと、軽くキスを啄ばむように繰り返す。

 離れると唾液が橋を作り、また二人は誘われるようにキスをする。

 キスだけで悪いことをしている気分になる。


「しどー君……キス、上手くなったよね?」

「初音もファーストキスだったろ」

「うん……」


 そして、体をくっ付けあいながら更に深く、長いキスになる。

 姉ぇはシャツがはだけている。


 ――だらしない。


 っと、思う自分が居る反面、女のふくよかな丸みという胸で男に媚びを売ろうとしている姿は艶めかしいと感じている。


「私もああなるのかな……」


 姉ぇと自分は基本、良く似ている。

 ふと、自身を被せている自分に気づき、頭を振ってかき消す。

 それでも視線は釘付けだ。


「しどー君の……」

「そりゃ、僕も好きな人に体を弄られればな」

「ふふふー。

 しどー君、私も好きよー」


 指をしどーさんの下半身になぞらせて、姉ぇが屈みこむとジッパーが外れる音がした。


「ふふー、御開帳。

 ごりっぱー」

「いつも言われるが、あんまり良く判らない。

 普通、比べないし」

「自信もっていいのよ、ビッチが言うんだから。

 修学旅行とかで比べてみたらいいわよ。

 自信になるから」


 私にも見えた。


「あんなに……」


 目が離せず、ごくりと、生唾を飲んでしまう。


「私、もう準備……出来てるわよ……」


 姉ぇがスカートをたくし上げる。

 健康的な太ももに汗か何か、水っぽいモノが垂れている。


「……我慢しなくていいんだよ?」

「じゃぁ、お言葉に甘えて」

「ふふ、玄関ではあんまりやらないよねー」


 姉ぇが、しどーさんにしがみつくと、


「ん……ぁ」


 色っぽい声が漏れた。


「……、ぅ、あ……あぇ?」

「……っ」


 姉ぇと目が合った。

 どうしたものかとお互いに思ったはずだ。

 しかし、姉ぇは悪魔のような笑みを浮かべる。そして私に見せつけるように、しど-さんにキスを求めるながら、ユサユサと体を動かし始めた。

 そして段々と二人の衣服が乱れ始める。


「……っつつつ」


 見せつけられてしまった。

 二人の仲の良さを。

 玄関で二人が跳ねたと思ったら、廊下に倒れてお互いに乱した呼吸で笑いあっていた。

 そして姉ぇは私に一旦、視線を向けてきてニヤリと悪魔のように笑う。


「お風呂でやろ?

 スク水、持って帰ってきてるんだー」

「嬉しいな……」

「ほんと?

 やったー!」


 そしてしどーさんを先に風呂に入れ、脱衣所でスク水を着る姉ぇ。


「妹、いるんでしょ?」

 

 小声で呼ばれた。


「……うん」

「帰るなら今のうちに帰りなさいな」


 でもね……っと続ける。


「大人のやることをまだ見たいのなら、こっそりならいいわよ。

 あんた、どうせエロい事、保健体育しか知らないんだから。

 勉強したら?」


 悪魔の囁きだ。

 天使はどこにいったのだろう、声が聞こえない。


「混ざってもいいけど……それは、雰囲気に呑まれてるだけだからお勧めしないわね……。

 私も観られてると思ったらいつも以上に興奮しちゃった。

 まぁ、好きにしていいわよ」


 っと、淫靡な笑顔を浮かべ、お風呂に入っていく。

 私は悩み、結局、気になってしまった。


「……どう、しどー君」

「やっぱり胸のサイズあってないだろ……。

 パツンパツンで背徳的だが」

「ふふー。

 破いちゃおっか、どうせ買いなおしだし。

 ふふふー、いつもと比べてどう?」

「狭い分、し、しげきが……」

「よしよし、少し我慢しなさいよー」


 何というか、これは現実なのだろうか。

 確かに姉ぇはビッチだと知っていた。

 しかし、実際にそういう行為を見るのは初めてだ。


「っあ……」


 ふと自分の手が胸や触ったことない場所に伸びていることに気付いた。

 声がでないようにハンカチを噛む。

 止まらない永遠とも思えた時間が過ぎる。


「……次はどこでやる?」

「部屋いこうか……流石に疲れてきた」

「りょーかい」


 っと、姉ぇの目線が私を見た。

 早く行きなさいよっと言われた気がした。

 立てない。

 腰が抜けている。


「……の前に、何か食べるもの作るから、まだしどー君あたまっててー」

「了解」


 っと、姉ぇだけ出てくる。


「出来上がちゃってるじゃないの」

「ぅあ、あぇ?」


 言葉がうわずって出て来ない。


「……わが妹ながら情けない。

 ちょっと手を貸すわ、私の部屋で寝てなさい」


 っと姉ぇの手が私を触った。


「っあ……!」


 痺れたような感覚が走り、声が出てしまった。


「初音?」

「あー、ちょっと、身体に刺激が残ってただけよー」

「大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫、ビッチなめないでよー」


 っというと、しどーさんは判ったと風呂で体を洗い始める。


「えっっろい声出さないでよ、まったく」

「ご、ごめんなさい……」


 そして姉に抱えられて、ベッドの上に。


「はい、新品だけどこれあげるから。

 好きにしなさい」


 っと、肩こりをほぐすように使う電気マッサージ器を渡される。

 そして姉ぇは部屋から出て行ってしまう。


「……使えと?」


 恐る恐る電気のスイッチを入れる。

 それを肩に当てると程よい刺激が気持いい。


「……」


 私をそれを一旦放し、見つめる。


 ……覚悟を決めた。

 初めてだったが気持ちよかった。

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