第41話 語り部な妹だけど、どうしよう……
「これ姉ぇの趣味じゃないよね……」
パジャマは姉ぇのモノ、熊さんがプリントアウトされたもの、を借りた。
だが、家では裸で寝ていた姉だし、ビッチと自称する姿とファンシーなパジャマとイメージが解離している。
彼氏さんも、真面目な印象で違う。
別の用途で使ったのではないかと疑ってみたが、何もない、大丈夫だ。
というか、新品に見える。札もついていたので、手でちぎって着る。
――さて、どうしよう……
私は姉ぇの彼氏を見る。
今までにない状況ではある。
さっき勉強を見てもらっている間はそれに集中し、また話題にすればよかった。
晩御飯が終わった後は話題がない。
「……」
観る。
相手もどうしたらいいのか困っている様子だ。
鏡を見ている気分になる。
何というか、そう感じたからか少し余裕が出てくる。
「あの……」
自分から声を掛けてみる。
「姉ぇとはどういうきっかけで会ったんですか?」
興味本意、私だって思春期である。
彼は聞かれると、頬を人差し指でかきながら悩んでいる様子を見せる。
そして過去を話してくれた。
だが、姉ぇの痴態が赤裸々で、
「……馬鹿な姉ぇに代わって、礼をさせて貰います……」
結論、援助交際で初体験しようとした所を止めたとかの身内話を聞かされたら頭が痛くならないはずがない、否、なる。
「いやいや、最初はまぁ、義務感で動いてたから」
「真面目な人なんですね」
「マジメガネって言われるぐらいだからなぁ……」
マジメガネ。
確かにと、真面目な印象、行動に眼鏡だ。
私も割りとその傾向が強く、親近感で笑みが沸く。
「流石に姉妹か、笑い顔が似てる」
「私は化粧気ありませんけど」
「いや、顔のラインとか表情の作り方とか似てる」
良く姉の事を観ているらしい。
「さっきのようなだらしがない笑いはどうかと彼氏ながら思うが」
「すみません、姉ぇはいつもいつも……」
うん、あれはどちらかというと性に狂ったケモノな笑いだ。
そんなに良いモノなのかとは少し興味はあるが、自分の性根は真面目だ。
「好いている部分は聞きましたが、よく呆れませんね」
「彼女は彼女なりに真面目だからね。
真面目に性欲と向き合っているだけさ」
よくもまぁ、こんだけ理解してくれる彼氏を見つけたものだ。
少し羨ましい。
「それにちゃんと理由と解決を示せば理解してくれる。
感情だけの僕の妹に比べたら、全然おとなしいモノさ」
「確かに姉ぇ、理論派ですね」
感情のまま赴いているように見えて、実利もきっちり取っている。
姉妹喧嘩をした時も、理攻めされる。
知識なら負けないつもりだが、結局、いつも理論や屁理屈で負けるのだ。
「妹さん居るんですか」
「山手の学校。
多分、熱血するままに感情をまき散らして正義感を振り回してるから心配ではあるが」
「あー……」
私もそんな感じなので親近感を覚える。
生徒会所属と成績を盾に取り締まりすることがある。
「裏表が無く、悪いやつではないから、もし市内の学校交流などで会う機会が有ったらよろしくお願いしたい」
「判りました」
こういった気遣いを出来るのを見るに、イイ人なのを感じる。
と同時に、さっき失礼な事を言ったことを恥じる。
「先ほどは御免なさい」
「?」
「かっこよくないとか言ってしまった件です。
私、面食いなので」
「あー、別にいいさ。
僕はそんなにカッコいい方ではないから」
と笑いながら言ってくれるので気が楽になる。
「基本的に、初音……君も初音か。
名前呼びは抵抗あるんだよなぁ……君のお姉さんも自分の名前をダサいダサい言うし」
「さん付けで、姉と分けてくれると私も楽なので、それでお願いしていいですか?」
「判った、初音さん……さておき、初音は悪いと思ったことを遠慮なく言ってくれるのも魅力だからね」
この人、菩薩か、何かの生まれ変わりだろうか?
姉ぇに色ボケしている可能性があるが、普通はここまで受け入れてくれないだろう。
大人な余裕という奴なのかもしれない。
「失礼ですが、実は年上ってことないですよね?」
「ないよ、僕なんかは世間知らずの子供で、いつも君のお姉さんに教えてもらってばっかりだ」
「エッチな事もですか?」
ポロっと言ってしまった。
顔が赤くなり、熱を持ってしまう。
多分、性にオープンな姉の影響だ。
「それもある。
彼女上手だから、僕は押されてばかりで……すまない、女性にする話じゃなかった」
彼氏さんも頬を赤らめながらそう実直に答えていた。
うん、これは自分が悪い。
ちょっと気まずくなり、お互いに言葉が出なくなる。
どうしよう。
「……やっぱり、その女の子ってエッチな方が魅力的なんですかね」
何を聞いているんだ、私は。
話題が無いからって、言って後悔した。
「エッチなのも魅力なのが初音だからなぁ……。
僕は彼女以外を知らない」
と、正直に答えが返ってくる。
どういう会話だ……自分できっかけを作っといて、頭の中がパニックしている。
「エッチなのも一つの魅力だとおもうわよー」
姉の声が聞こえた。
裸だった。
「姉ぇ!
服! 服!
みっともない姉の裸なんか見たくない!」
「えぇ……ナイスプロポーションでしょ?
大きな胸、くびれた腰!
我が体に恥じるところなし!
ねぇ、しどー君?」
「間違いない。
ただお客の前ではやめとけよ」
「はーい」
この姉あって、この彼氏ありである。
熱気に当てられる。
「というかだね、妹よ。
あんた私とほぼ一緒でしょ、遺伝子単位で。
中学時代、スリーサイズも一緒だったじゃない」
「……」
せめてタオルを巻いてきた姉が言う言葉に私は黙る。
「……まさか、あんた太ったんじゃ」
「うううううう」
事実だ。
最近、勉強して、生徒会していたらストレスが溜まって食べる量が増えているのだ。
そしたら体重が……。
「だめよー、全く。
女の子はちゃんと自分のメンテしないと」
女性という生物の中でのカテゴリーでは負けを認めざる得ない姉だが、言われると言われるで悔しくなる。
「別に私は女で生きていこうとは思ってないし」
「はいはい、負け惜しみ。
あんたも私と一緒できっと性に貪欲よ?」
「頭ノー無しの姉ぇの癖に!」
いつものやり取りである。
ここから私が志望校に落ちた話が始まり、オチがつくのだ。
定番という奴だ。
「ふふん」
大きな胸を揺らしながら、張られる。
「私は頭でもあんたを凌駕することにしたから。
ビッチの本気を甘く見ないことね!」
「は?」
何を言ってるんだ、この姉ぇは。
脳が理解を拒否した気がする。
「私、医学部行くことに決めたから」
「冗談も笑えるのと笑えないのがあるけど、大丈夫姉ぇ?
お金は?
そもそも頭平気なの?」
「妹さん、マジ話だ」
彼氏さんを観る。
真面目な眼鏡顔だった。
「確かに僕と同じ志望校は難しいかもしれない。
それでも国立迄は行けるように僕も尽力するつもりだ。
このままの点を維持すれば行けるだろうし」
「やーだー、しどー君とキャンパスラブラブライフするから、絶対受かるのー」
「なら、頑張らないとね?」
「うん、頑張る。
お金はアルバイトしてるのを溜めて行けば何とか何とか……。
友好費もとい遊行費以外でと二年間分を貯金してたのもあるし……。
最悪、パパママに泣きつくけど」
「僕に先に泣きついてくれ」
「うん♪」
彼氏さんに抱き着きワザとらしくアピールする姉ぇ。
女を武器にして彼氏さんを赤面させようとしているのだろう。
でも、その目線が高校受験の時と被った。
良い高校に行けば、それだけ需要が高まると、そう何処かのオジサンに吹き込まれたのが原因で、高校受験をしたと姉ぇからは聞いた。
それでも目的を持った時の強い意志を含んだ眼だ。
この時の姉ぇは……怖い。
事実、偶然や奇跡は有ったモノの目標は達成した。
「ちなみに何でなの、姉ぇ?
医者プレイを本格的にしたいから?」
「あ、それいいわね」
「よくないからな、絶対やらせんぞ?」
「ぇえ……」
心底不満そうな姉ぇであり、いつもの姉ぇな訳だが、急に大人びた顔をして次の言葉を述べた。
「赤ちゃんの出産に立ち会って、命の尊さに触れたからよ?」
……ぇ?
すごく真っ当な理由で、姉ぇが輝いて見えた。
「この姉ぇ、偽物ではない?」
「なんでよー、私が真面目なこと言ったら悪いのー?
姉を尊敬なさい」
「やだ。
だって、命の尊さとかもっとも遠い事だから、
自分の体使って稼いでたし」
「まぁ、それは事実よね、隠しもしないけど。ビッチはやったことを誤魔化さないものよ。
だけど処女は守ったわ」
「いや、売ろうとしたのも知ってるよ?
さっき聞いた」
「あれは反省した、超反省した。
白馬の王子なんて居ないなんて思った私が悪かった。
だから、逆に強く思っているわけよ」
嘘はない。
ごまかしでも無い。
姉妹だからこそ判る。
姉ぇは真剣にそう言っている。
「だから、好きな人専用でビッチでありたいとも思うし。
私はしどー君一筋よ」
「初音……」
「ふふ、しどー君、惚れ直した?」
「直すことはない、惚れっぱなしだ」
とはいえ、二人のラブラブ空間が展開しそうになる。
二人が近くなる。
「こほん」
「あ、妹、居たの」
ニヤニヤと笑われ、遊ばれている気がした。
……私も彼氏できたら、こんな風になれるのだろうかと、少し羨ましく思った。
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