第18話 夜が明けて
西暦2035(令和17)年10月8日 日本国東京都 首相官邸
一夜明けて、日本の中心部は戦果を耳にしていた。
「総理、『太政官』。我が自衛隊は先の『ダーク・インパルス作戦』において、ロドリア空軍のフロミア西部に点在する飛行場9か所と大規模陸軍基地6か所への空爆に成功し、敵軍に大打撃を与えました。これを受けてエルディア陸軍は西進を決定、戦線をより西へ押し上げる事に成功しました」
西田統合幕僚長は報告を上げ、矢口は頷く。報告は続く。
「また、スヴァン半島方面では水陸機動団が敵歩兵師団を撃破し、戦線を北へ押し上げました。これによって大陸戦線とスヴァン半島方面の戦線の一部が合流し、我が方はより円滑に包囲網を敷ける様になります」
「これで戦線の一部が繋がったか…我が方の損害は?」
「今のところ、殉職者はゼロです。負傷者は重傷9名、軽傷23名です。多目的アンドロイドの損害は、全損7体、破損42体です。うち9体が本土へオーバーホールに回されました」
内容に、一同は当然だと言わんばかりに深く頷く。多目的アンドロイドが文字通り身代わりとなって隊員の被害を防いでいる事の証左であり、今の自衛隊に求められるべき展開となっているからだ。
「上手い具合に先手を取れているな…ロドリア側の対応はどうか?」
「ロドリア側は外交的交渉を仕掛けてくる様子は皆無ですね。まぁ相手もこうなるなど全く想定していない様でしたので、当然と言えましょうが…」
『だろうな。軍の方は?』
『太政官』の問いに答えたのは、西田統幕長だった。
「ロドリア近海に潜入した潜水艦によれば、ロドリア本土とケベルスの間で、輸送船団の行き来が激しくなっているとの事です。航空戦力も回復が急がれており、統幕の予測では来月上旬までに戦前の規模にまで回復させて来ると見込んでおります」
元々30個以上の師団を持っていたというロドリア陸軍である。航空戦力についても相応の規模を有していると戦前から見込まれており、故に日本側はこのまま戦争を継続するのは厳しいと見込んでいた。如何に技術水準の面で優位に立っていると言えども、弾と燃料が尽きれば優勢は物量に勝る方に傾く。先の太平洋戦争での過ちを繰り返すつもりはなかった。
「よって、我々統合幕僚監部はロドリア海軍に対して決戦を挑み、フロミア南西部の制海権を完全に掌握します。またロドリア本土に対して攻撃を仕掛け、戦争の現実を相手に叩きつけます」
西田はそう言いながら、ニヤリと笑みを浮かべた。
・・・
共和暦215年10月8日 ロドリア共和国首都サン・ペトロ 共和国最高評議会議事堂
議事堂の会議室に、沈黙と気まずい空気が満ちる。その空気を醸成しているものの正体をドラクムス国防委員長は知っていた。
「…陸軍参謀本部長、空軍作戦本部長。話を聞こうか」
「は…さ、先のニホン軍を名乗る武装勢力の卑怯な奇襲攻撃により、ケベルス含む各所の空軍基地と、陸軍基地が壊滅。2個航空師団が壊滅的打撃を被りました…」
「…馬鹿者が!」
第一統領が顔を真っ赤にして怒鳴る。フロミア方面にて共和国国防軍の主力が壊滅させられた影響は大きく、首都サン・ペトロにおいても市民の間で動揺が広がっていた。
すると、一人の髭が印象的な軍人が手を上げる。
「であれば、我が海軍に汚名挽回の機会をばいただけませんでしょうか?我が海軍軍令部に秘策があります」
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