第17話 ダーク・インパルス②
共和暦215年10月8日深夜 フロミア大陸西部 ロドリア共和国フロミア開拓州ケベルス郊外 ロドリア空軍ケベルス基地
対空警戒レーダーに友軍とは異なる反応が出た時、深夜にも関わらず基地防空司令部は喧噪に包まれる事となった。
「東から多数の未確認機だと!?」
壁一面に設置されたモニターと、その上に表示される複数の光点を前に、空軍ロドリア方面航空軍団司令のレーネウス中将は愕然となる。戦線付近の飛行場及び現地で哨戒飛行していた軍用機からの連絡が途絶し始めたという事実は、安全な奥部で安らかに過ごしていた筈の者達を動揺させていた。
「はっ…野戦飛行場及び前線飛行場の半数が連絡が途絶しており、軍団直轄の連絡機も確認しに行きましたが、現在も通信不調が続いております。恐らくこれは、敵の攻撃です!」
「さらに上空を哨戒していた機体との通信も途絶しています!レーダー上での反応も含め、恐らくは撃墜されてしまったものと…」
「馬鹿な、エルディアにはここまで飛べる航空機などない筈だ!そもそもどうやって我が空軍の主だった飛行場と現地に配備されている部隊で構成された防空網を突破してきているんだ!?」
レーネウスの言葉に、管制官は口を噤んでしまう。確かに彼の言う通り、フロミア西部各所には空軍専用の飛行場が多数設置されており、ロドリア空軍の実働部隊は連隊単位で分散して配備されている。そして無線通信や地下ケーブル等の連絡手段で重厚なネットワークを築き上げており、どこか一か所が通信途絶すれば、直ぐに連絡機や偵察機などによる確認で把握する事が出来るのである。
そして現時点でロドリア空軍がフロミアに配備している戦力は、〈フォーコン〉主力戦闘機やGr-17〈イロンデル〉戦闘機などを有する戦闘航空連隊が6個、軽攻撃機主体の攻撃航空連隊が3個である。だが10月上旬の敵軍の攻勢により4個連隊が壊滅し、2個戦闘航空連隊と1個攻撃航空連隊、そして本国の北部防空管区より増援として派遣された第8航空師団が現在のロドリア領フロミアの空を守っていた。
「ともかく、こちらには強大な航空戦力があるのだ!蛮族どもの姑息な襲撃など直ぐに返り討ちに―」
そう怒鳴るレーネウスの声は、外から響いて来た轟音が中断させた。モニターから光が消え、照明がチカチカと瞬く中、スピーカーから悲痛な声が響いてくる。
『ひ、飛行場の滑走路にミサイルが着弾!レーダーも破壊されました!』
・・・
「セイバー3よりスカイキーパー、敵機撃墜」
宮藤が上空に舞うE-787〈J-WACS2〉に報告を上げ、高倉は〈F-3A〉のコックピット内で頷く。
「セイバー各機、及びボマー各機、パーティー開始。すでに特戦群が忍び込んで『ペンライト』を振っている。ケベルスの空を存分に騒がせてやれ」
『了解!』
命令一過、12機の〈F-3A〉と4機の〈BP-1〉爆撃機は散開を開始。攻撃を開始する。特殊作戦群がレーザーポインターやドローンで示している地点はヘッドマウントディスプレイ上でアイコンマーカーとして表示され、〈BP-1〉はそこに向けてレーザー誘導爆弾を投下。目標を爆砕していく。
〈P-1〉対潜哨戒機をベースに、機尾磁気探知機を廃してソノブイ発射口を爆弾倉へ変更し、対地・対艦攻撃に特化させた〈BP-1〉は、最大10トンの航空爆弾や各種ミサイルを搭載する事が出来る様になっている。そして空中給油機と護衛戦闘機の手で敵奥部まで到達した4機は、深夜に虚を突かれたケベルスの重要な軍事施設へ有効的な打撃をもたらしていた。
上空でも、戦闘が繰り広げられていた。別の飛行場から駆け付けた〈フォーコン〉が迎撃に現れるも、〈E-787〉のレーダーは既に捕捉しており、〈F-3A〉はただミサイルを放つのみだった。この〈フォーコン〉はレーダー警報装置やチャフを装備しているタイプだったが、〈F-3A〉の用いるAIM-120『
『何なんだよ、これ!悪夢かよ!』
パイロットの一人は叫び、理不尽に嘆くのみだった。そして市内のある邸宅で、ゾルダン監督は愛人とともにベッドの中にうずまるのみだった。
「馬鹿な…ありえん、これは夢だ、悪夢だ!」
そう漏らす中、〈F-3A〉の1機は市街地中心にある監督府庁舎へ接近。胴体内兵器倉に仕込ませてあった『マーベリック』対地ミサイルを放つ。ミサイルはものの見事に庁舎の正面玄関を吹き飛ばし、大量の瓦礫が玄関を通行不能にした。
斯くして、作戦は成功した。航空宇宙自衛隊が被撃墜ゼロで帰投したのに対し、ロドリア空軍はフロミア各地の飛行場の大半が破壊。軍用機も100機近くを喪失し、フロミア大陸の制空権は日本のものとなっていく事となる。
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