第16話 ダーク・インパルス①
西暦2035(令和17)年10月7日 エルディア王国中部 レヤード空軍基地
航空自衛隊第307飛行隊の面々は、レヤード基地の会議室に集っていた。
「これよりブリーフィングを始める。今回の作戦目標はフロミア大陸西部、ロドリア共和国植民地の中心部ケベルスだ」
高倉二佐の言葉に、ざわめきが波及する。ここに来て敵の植民地支配の中枢を叩くと言うのだ。これは困難どころの話ではない。
「と言っても、ケベルスを戦略爆撃で灰燼に帰す訳ではない。あくまでも我々の目的は敵の胆を冷やす事にある。同時並行で航空宇宙自衛隊のフロミアに展開する全戦力と海上自衛隊の「いぶき」航空隊を動員して、ロドリア軍の全航空戦力掃討を行い、制空権を完全に奪取する。補給面に関しては『エルディアの嵐』作戦で制圧した飛行場と、本土より派遣された第1輸送航空隊の支援を用いる」
「派手に攻勢を仕掛ける事になるな…ロドリア側も無策ではない筈だろう?」
「ああ…だが、抵抗は激しくとも作戦は成功するだろう。すでに敵の反撃を何度も退けているしな」
高倉の言う通り、『エルディアの嵐』作戦が行われた直後、ロドリア空軍は報復を目論み戦略爆撃機主体の反撃を実施。陸軍機械化歩兵部隊も送り込み、占領された前線飛行場の奪還も企図していた。
だが、飛行場には先行して陸上自衛隊第12旅団がヘリコプターで派遣されており、迂闊に近付いたロドリア軍は悉く重迫撃砲の砲撃を食らい、装甲車両も無反動砲や対戦車ミサイルの餌食となった。空には常に数機の戦闘機が展開し、新たな戦線を超えさせる事無く撃墜していた。
「『ダーク・インパルス』作戦の開始時刻は今夜2330、夜襲となる。ロドリアの連中に悪夢を刻み込んでやれ!」
『了解!』
・・・
10月7日深夜 フロミア開拓州中部上空
「くそっ、対空警戒レーダーが使えないからって目視で確認しに行けとか…」
RG-1〈フォーコン〉のコックピットで、第18戦闘航空連隊に属するパイロットは小声でぼやく。そして目前の計器類に目を移すも、レーダースコープに反応は無かった。
航空機メーカーの名門ギール社と、自動車製造が本業のレディロ社が合併して誕生した重工業メーカー『レディロ・ギール』が、合併後に初めて開発した戦闘機である〈フォーコン〉は、旧ソ連のミグMiG-19〈ファーマー〉に酷似した双発のジェット戦闘機である。機首にレーダーを装備しており、武装として30ミリ機関砲を2門、空対空ミサイルを4発用いる。
ロドリア軍は先程から対空警戒レーダーが使えない状況にあり、2機編隊を戦線付近に展開させてパイロットの目視で敵の攻撃を警戒する手段を取らされていた。それが航空自衛隊の〈P-3C〉対潜哨戒機を改造した電子戦機による妨害攻撃だという事を知るのはまだ先の事であった。
「ともかく、戦略航空軍団の連中が赤っ恥をかいている中、俺達戦闘機乗りもヘマをこくわけには―」
『ッ、エムロード7、レーダーに反応あり!急速に接き―』
僚機が叫んだ直後、一瞬で赤い光が迫り、爆散。咄嗟に操縦桿を横に倒し、離れようと動く。その時点で何が起きたのかを察した。
『ッ、こちらエムロード7、我敵襲を受ける!救援求む!』
それから先、パイロットは周囲を見渡しながら機体を急旋回させ、高度を下げていく。今彼が乗っている〈フォーコン〉にはレーダー警戒装置は装備されておらず、対ミサイル防衛手段は皆無に等しい。故に機動力のみで攻撃を回避するしかなく、技量のみで何とかするしかなかった。
「神よ…!」
ガタガタと震えるコックピットで、パイロットは小声で呟く。そして逃げる〈フォーコン〉を見下ろす二つの影。
「セイバー3、ボギー1ロスト。低空飛行で離脱した模様です。素早いですね」
『このまま道案内してもらおう。もしかしたらまだこっちの知らない飛行場を見つけられるかもしれないからな』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます