第15話 生産者の戦い
西暦2035(令和17)年10月4日 エルディア王国東部 港湾都市コンバス郊外
「今日も、忙しいですね」
コンバス郊外の敷地に整備された工場の食堂で、日本本土から派遣された三菱重工業社員は呟く。その言葉に向かい側の席に座る防衛装備庁職員も同感とばかりに頷く。
「わざわざ本土へ持ち帰るわけにもいかないからな。敷地をエルディア側が提供してくれて良かったよ」
今彼らに課せられた仕事は、戦線から後送された自衛隊車両の修理だった。今のところ被撃破されたものはないが、それでも爆発反応装甲を消費したり、それを剥がされた直後に被弾した車両は多く、本土で生産中の車両と入れ替える程の損傷か確認し、その必要が無ければフロミアにて修理するというのが上の方針だった。
また、被弾箇所の調査は自国製装備品の実力や、敵ロドリア軍の用いる兵器の性能を把握するのにも役立つ。故にこの工場には防衛装備庁の職員も派遣され、修理や整備、改善に関するアドバイスを相互的に行っていた。
「そうだ、先程上司から連絡があった。電機の連中と東芝の連中がエルディアのラダン砲兵工廠に出向するそうだ。なんでもエルディア陸軍で運用されるミサイルやレーダーの開発と改良で手を貸す事が決定されたそうだ。恐らくは自衛隊で使っている誘導弾や電子機器のライセンス生産も目論んでいるな…」
「個人的には正しい判断だと思いますよ。量産効果の恩恵に与れますから…あと、新たな工場を内陸で整備するとも聞きましたね。本土の生産能力が低い影響でしょうか?」
「『東アジア戦争』の後、整備に一番金を注いだのは航空機の生産工場と造船所だからな…陸自関連の工場は相模原と室蘭だけでは足りんよ。最近になって小松も政府からケツシバかれた上で防衛産業に復帰させられたからな…戦後もエルディアやモーギアの需要でリターンは得られるだろうよ」
二人はそう話しながら、いっときの休息を有難いと思うのだった。
・・・
ロドリア共和国南部 工業都市オルス リナウス重工業オルス工場
ロドリア有数の軍事企業であるリナウス重工業は、ロドリア諸島各地に工場を持つ。その中の一つ、ロドリア陸軍造兵廠と隣り合うオルス工場では、大量の装甲車両の生産が行われていた。
「しかし、女子供の姿が目立ってきたな…しかも平民出身じゃないのばかりだ」
工場の一角で、社員の一人は呟く。隣に立つ同僚は水筒の水を飲みつつ答える。
「フロミア方面の戦線に兵力を送り込むために、サン・ペテロの最高評議会が総力戦を宣言したろ?平民や農奴からも徴兵を始めた結果、24時間工場を稼働させるために女子供も徴用する羽目になったんだよ」
正社員として働いている者の多くは、フロミア開拓州内に設置された臨時工廠にて、戦線から戻された車両や装備の修理に駆り出されているという。しかし送られてくる車両の数は余りにも少なく、彼らは暇を持て余しているらしい。
「しかしだ、十分な知識を持っていない連中を工員として動員するのはヤバいだろ…別のラインでは誤った使い方で事故が起きたと聞くしよ」
「今のところ、弾薬を製造しているところで派手な爆発事故が起きていない事が分かっているのは幸いだよな…」
二人はそう話しつつ、仕事へと戻っていく。とその時、生産ラインの一角でざわめきが聞こえてくる。そこに目を向けると、十数人の女性達が監督者に詰め寄っているのが見えた。
「私達をただ働きさせるつもりか!」
「十分な補償をしろ!」
「…ありゃ、飯か怪我に対する補償で揉めたな」
「時々ラインが止まる様な事になれば、むしろ不利益になることぐらい、上も分かっている筈だがなぁ…」
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